91.
吉田はなかなか口を割らなかった。しかし、三山も須田も、表面上はいらついた様子はなかった。
「意外とねばるな、立派なもんだ」
三山はからかうような調子ではなく、比較的真面目にそう言った。須田も無表情だがうなずいた。
「ただ吐けってのもよくないよな。今からいくつか大事な話をしてやるから、よく聞けよ」
三山の言葉に、吉田はぼんやりと顔を上げた。
「俺だって鬼じゃない。お前が自発的に吐けば、それなりの配慮はしてやるつもりだ。そうだな、例えば、これからもこの街で商売ができるように配慮してやるよ」
「あなたが許せば、なんだってできるっていうんですか」
吉田はそう言って嘲ろうとしたのかもしれなかったが、うまく表情を作れなかった。三山は特にそれを気にすることはなかった。
「違うな。お前さんは善意の一般市民になるだけさ。サツにしてみれば、重要なのはどっかの小者弁護士なんかじゃない。話題になりそうな大物だ」
「その通りです」須田は三山の言葉に同意した。「警察は小手先のことで終わるのなら、むしろ動きません。つまり、一見黙っていればいいような状況に見えますが、今回は明らかに違います。時間の問題で、警察は重要な情報をつかむでしょう」
「それで、成果の大きそうなことっていうのは、黙っているのは難しいわな。新聞やらなんやらがにぎやかになりそうだ」
「そして、時間こそが問題になります。早く動ければ、それだけ解決できる可能性も高くなりますが、もし始動が遅れれば、黒幕であろう人間の性質を考えると、それだけ解決の可能性は低くなります」須田は吉田の顔をじっと凝視した。「拳は振り上げられています。そうなった以上は、とにかくどこかに振り下ろさなければいけません。しかし、振り下ろす相手がいなかったら、その腕はどこにいくでしょうか?」
黙りこむ吉田の代わりに、三山が笑いながら答えた。
「面白みと話題性がある人間だな。例えば、弁護士とか」
「十分に考えられることです。黒なのは明白で、一般的には警察が成功したと思われることでしょう。実際のターゲットは逃しているとしても」
吉田はまだ黙っていた。三山は吉田の肩に手を置いた。
「これだけ言ってもわからないか? それならはっきり言ってやる。このまま黙ってれば、お前は誰にとっても都合のいい生贄だ。警察はそれなりの成果を手にできるし、お前のバックのクソッタレは、とりあえず逃げることができる」三山は吉田の肩をグッと押した。「それで、お前はどうなる? 商売はできなくなるぞ、もっと悪いことに刑務所行きは確定だ。出てきたところで、今のお仲間は助けてくれないぜ、とっくにお前のことは切ってるんだからな」
吉田はうつむいて考え込んでいた。数分後、意を決したように頭を上げると、小さいが力強い声を発した。
「書くものをください」




