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アイは、生きている。  作者: LALA
第1章 IS-003
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Ep.2 ……膝いる?

 階段を下りきると、地下保管庫に出た。低い天井の下に金属製の棚が並び、古びた箱やコンテナが埃を被っている。

 「……結構あるな」

 『店舗部分より保存状態は良好です』

 懐中電灯で棚を照らしていくと、その端に見覚えのあるマークを見つけた。

 「……保存食」

 箱を引き出し、蓋を開ける。中には銀色のパウチが何列も残っていた。

 『一部に包装の劣化があります』

 「食えるやつだけ選んでくれ」

 『了解しました』

 ピコに確認させながら、使えそうなものをバッグへ詰めていく。保存食、栄養食、乾燥食品。期待していたより、ずっと多い。

 『食料として使用可能なものは、約一週間分です』

 「……十分だ」

 朝には何もなかった。それを考えれば大収穫だった。

 さらに奥を調べると、壁際に大きなタンクが並んでいた。

 「……水?」

 『タンク内部に液体を確認しました。合計約87Lです』

 「87?」

 思わず聞き返した。今朝の飲料水は287mlしかなかった。それも、もう半分ほど飲んでいる。

 「本当に水なんだろうな。ガソリンだったらどうするよ」

 『飲料水用のタンクです。ただし、現在の安全性は保証できません』

 「だよな」

 近くの棚を探すと、簡易浄水フィルターと折り畳み式の給水容器も残っていた。

 「使えそう?」

 『フィルターは未使用です。ただし、使用期限を超過しています』

 「……微妙だな」

 『破損は確認されません』

 「じゃあ持って帰る。フィルター通して、煮沸だな」

 『推奨します』

 試しにタンクから少量を汲む。見たところ濁りも浮遊物もない。

 もちろん、それだけで安全とは言えない。

 「今日はこれだけでいい。残りは必要になったら取りに来る」

 『了解しました』

 食料約一週間分。そして、使えるかもしれない水が87L。

 朝の惨状を考えれば、十分すぎる成果だった。

 「一度戻るぞ」

 『了解しました』

 俺たちは地下保管庫を後にした。



✳︎ ✳︎ ✳︎

 


 廃病院へ戻る頃には、朝方まで空を覆っていた雲は消え、崩れた街の上に薄い青空が広がっていた。

 バイクを走らせる俺の頭には、ピコが二本の腕でしっかりとしがみついている。

 「……重い」

 『重量は約8.6kgです』

 「知ってる」

 『では、問題ありません』

 「そういう問題じゃない」

 頭の上で二基のプロペラが低く回っている。飛べるくせにこうしているのは、走行中の風圧で姿勢を崩さないためだ。

 やがて廃病院が見えてきた。裏手の搬入口から敷地へ入り、バイクを止める。駆動を切ると、頭にしがみついていたピコが腕を離し、ふわりと浮き上がった。

 「お前、やっぱ重いわ」

 『先ほど回答しました』

 「感想だよ」

 ヘルメットを外してバイクから降りる。戦闘で打った膝にはまだ鈍い痛みが残っていたが、歩く分には問題ない。

 代わりに、持ち上げたバッグは朝よりずっと重かった。

 食料と水。

 今は、その重さがありがたい。

 生活スペースに戻ると、さっそく戦利品を床へ広げた。元は病室だった部屋には、工具や部品、燃料容器、簡単な調理器具が並んでいる。

 「まず食料」

 『了解しました』

 ピコと手分けして包装を確認し、傷んだものを除外する。最終的に残ったのは、節約すれば約一週間分。

 「昨日の俺には絶対触らせられない量だな」

 『昨晩の摂取量を基準とした場合、約――』

 「計算しなくていい」

 『了解しました』

 次は水だ。

 持ち帰ったものを簡易フィルターへ通し、鍋へ移す。期限切れのフィルターだけを信用する気にはなれないので、簡易コンロに火をつけて煮沸する。

 水が沸くのを待つ間、壁際の端末を起動した。画面がちらついたあと、病院を中心とした周辺地図が表示される。

 ここへ来てから歩いた道、崩落地点、水場、燃料候補、食料、敵との遭遇地点。俺とピコが確認した情報を、その都度記録している。

 「今日の分、入れるぞ」

 『了解しました』

 今日探索した店舗には食料の印。その地下には《水・約87L・要処理》。東にある旧ガソリンスタンドは、地下タンクの状態が分からないため給油候補のまま。以前見つけた廃車には部品取り用の工具マークを残す。

 最後に、今日の戦闘地点へ赤い印を追加した。

 《哨戒型・撃破》

 その横にピコが情報を追加する。

 《M-68、3発消費。残弾9発。主様、膝を負傷》

 「……膝いる?」

 『必要です』

 「敵の情報より目立ってない?」

 『主様の移動能力に関係します』

 「歩けるって」

 『痛みはありますか?』

 「……ある」

 『では、必要です』

 「はいはい」

 地図を眺める。

 安全に通れる道。崩落している道。水。燃料。食料。部品。そして、敵。

 空白はまだ多い。

 それでも、昨日まで何も知らなかった場所に、今日は新しい印が増えた。

 こうやって少しずつ、自分たちが生きられる範囲を広げていく。

 鍋から、ぐつぐつと水の沸く音がした。

 十分に煮沸してから火を止め、冷めるのを待つ。やがて少量を口に含み、ゆっくり飲み込んだ。

 「……うま」

 『脱水状態に近かったため、通常より美味しく感じている可能性があります』

 「夢がないな」

 『事実です』

 「はいはい」

 俺は保存食を一つ開け、そのまま口へ放り込んだ。硬くて、薄味で、お世辞にもうまいとは言えない。

 それでも腹に入る。

 水もある。

 今日一日は、それで十分だった。

 「……明日、もう一回行くか」

 『地下保管庫ですか?』

 「ああ。まだ確認してないものもある。工具とか、使えそうなものも見ておきたい」

 『了解しました』

 保存食をもう一口齧る。

 「あと、今日は酒なし」

 『了解しました』

 少し間があった。

 『昨晩も同じ発言をしています』

 「……今日は本気だ」

 『記録しておきます』

 「やめろ」

 『了解しました』

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