06
アルは泣いていた。
両親が亡くなってから初めて見た…アルが泣いているところ…
ロル 「…」
僕は、どう声を掛けたら良いか分からなくてずっとうつむいていた。
アル 「…ロル。」
ロル 「…何?」
アル 「…僕…僕が泣いたこと…メルに秘密にしてくれる…?」
ロル 「…うん。」
アル 「…この子の…この子の前だけは…強い兄でいたい…」
ロル 「…うん。約束するよ。」
僕はアルの傍に行ってアルの背中を摩った。
それから一週間が経った。
アルは、体調も回復し食事も取れるようになってきていたが、なぜだかメルは目を覚まさなかった。
アルは、部屋でメルを見てくれていて、僕は一人で授業を受けたり食事をしたりしていた。
当然、新入生からの嫌がらせは絶えない…
---バッシャーン
新入生 「全く、出来損ないもいいところだよ。何で、アルさんやメルさんが傷付いて、一人だけのうのうと生きてるんだか。」
新入生 「本当。出来損ないには、ここがお似合いだよ。」
でも、僕にはトイレに閉じ込められて水を掛けられているくらいがちょうど良かった。
自分でもずっと自分を非難していた。
どうして、自分は、こんなに健康なだけで役立たずなんだろう…
どうして、アルやメルだけがあんな目に遭っているんだろう…
アルやメルに降り掛かる不幸を全て僕が引き受けられれば良いのに…
僕はあの部屋から持ち出した例の本を見ながら、体を取り換える魔法について調べていた。
僕が二人の分の神経麻痺を受け持てば二人は自由になれる。
初めて二人の役に立てるかもしれない。
本の説明書きを辿る僕の指はある場所で止まった。
体を取り換える魔法の代償…
ロル 「…思い出と家族の絆…アルたちと家族じゃなくなる…」
体を取り換える魔法は禁断の魔法…失敗すれば命を落とす可能性も勿論ある。
ロル 「材料は…勇気の涙、思いやりの髪、絆の指輪…」
僕は、先生にトイレから出してもらった後、すぐに図書室に向かった。
本を探し回っても、三つの材料に関する情報は見つからなかった。
部屋に戻ると、メルはまだ目を覚ましていなくてアルはまた泣いていた。
ロル 「アル…」
アル 「あ…おかえり。遅かったね。」
ロル 「…メル、まだ目を覚ましていないんだね。」
アル 「…体重もどんどん減っていて、顔色も悪いんだ…」
ロル 「…アルさ、勇気の涙って知ってる?」
アル 「…勇気の涙?確か、勇敢な者が流した涙だよ。その勇敢さは、人に称賛されたものではなくて、神から授かったもの。生まれ持った勇敢さってことだね。」
ロル 「どうやったら手に入る?」
アル 「…手に入れたいの?」
ロル 「う、うん。」
アル 「…図書室の上級生用の本棚に勇気の涙について載っている本があったはずだよ。だけど、何でそんなものが必要なの?」
ロル 「ちょっと必要なだけだよ。」
すると急にアルは怖い顔をして、はっとしたようにいつもの優しい顔に戻った。
アル 「何か企んでる?危険なことなら止めてね。ロルまで辛い思いをすることになるから。」
ロル 「わ、分かってるよ。」
アルの方が辛い思いをしているのに…
僕は、毎日アルが泣いているのを知ってる。
泣き疲れて寝てしまうこともあるし毎日のように目が腫れている。
次の日、僕は図書室で上級生用の本棚を見ていた。
明後日、学校全体で上級生の魔法テストが行われる。
下級生も見学のためにほとんどの生徒が校庭に集まる。
ロル 「そのときしかない。」
僕は、部屋に戻り、側でどんどんと衰弱していくメルと精神的にも弱ってきているアルを見ていた。
アルは、最近では食事も受け付けなくなって食べても戻してしまうのを繰り返していた。
僕が何とかしなきゃ…
そして、魔法テストの日がやってきた。
今日だけは先生方も校庭に集まる。
僕は、図書室で上級生用の本棚から勇気の涙についての本を見つけ出した。
ロル 「勇気の涙…勇敢な者の涙。その勇敢な者は満月の夜に生まれた男の子。その中でも満月の夜、眠りが浅くなり深く眠れない男の子が神に認められし勇敢者。神からのお告げを聞くために眠りが浅くなるとされている。この話、どこかで聞いたような…」
その夜は、ちょうど満月の夜だった。
夜になり、部屋を抜け出して勇敢そうな人の部屋を覗きに行った。
魔法テストの後ということもあり、いびきがうるさい…
結局、起きている人は誰も見つけられず、部屋に戻った。
部屋に戻ると、アルが起きていて窓の外を見ていた。
ロル 「あ、アル?」
アル 「ロル。こんな遅くにどこ行ってたの?」
ロル 「忘れ物しちゃって。アルは眠れないの?」
アル 「うん、最近寝付けなくて。それに、今夜は満月だし。」
ロル 「あっ…」
アル 「ん?知ってるでしょ?僕が満月の夜に眠れないこと。」
ロル 「…そっか。」
アル 「ふっ、何一人で納得しているの?」
ロル 「何でもないよ。アル、僕が寝かし付けてあげる。」
アル 「えっ、良いよ、良いよ。ロルは、明日も授業なんだからさ。」
ロル 「アル。たまには、僕にも甘えて。我慢しないで。」
アル 「...ロル…」




