第2話:白き天使の差し伸べた手
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「……これは一体どういう状況かな? 一人の生徒を貶めて愉悦に浸るなんて、それでもこの国の貴族かい?」
シリウス様の一言によって、講堂の嘲笑が一瞬で静まり返った。
「……っ、い、いえ、私は決してそのようなつもりは……」
クラリッサ様は完全に気圧され、言葉を失ってしまった。
彼女の「黄金の火鳥」すら、その輝かしい羽を小さく折り、怯えるように身を縮めている。
シリウス様は、私の「白い幼虫」を冷徹で澄んだ瞳で静かに見つめると、私に向けて、純白の手袋に包まれた手を差し伸べた。
「……大丈夫かい? 立てるかな?」
「は、はい! ありがとうございます……!」
私はそのあまりの美しさに、思わず息を呑んだ。
その手を取った瞬間に、恐怖で凍りついていた指先が、彼の心地よい体温でじんわりと解けていくような感覚がした。
シリウス様は立ち上がった私を、そっと自分の背後へ庇うようにして立つと、周囲に向けて穏やかに微笑んだ。
「皆さん、アニマの形は魂の写し鏡です。けれど、それは決して『現在の実力』や『人間の価値』を確定させるものではないでしょう。それを引き出し、育むのがこの学園です。違いますか?」
周囲の教官や生徒に向けて、正論で優雅に諭すように告げる。
「そ、そうですわね。失礼いたしました!」
ぐうの音も出なくなったクラリッサ様は、居心地が悪そうに顔を強張らせ、取り巻きと共に逃げるようにその場を去っていった。
「……あの、シリウス様。庇っていただき、本当にありがとうございました」
窮地を救われた私は、消え入りそうな声でシリウス様に感謝を伝えた。
「君の魔力の揺らぎは美しかったよ。その力がどれほど綺麗に花開くか、僕も楽しみにしている」
シリウス様はどこまでも爽やかにそう言い残し、優雅に去っていった。
「……さすがはシリウス様だな」
「……まるで天使のようですわ!」
その様子を見ていた周囲の生徒たちは、一斉に称賛の声を上げてため息をついている。
しかし、私の胸には感謝とともに、どこか奇妙な『現実感のなさ』が澱のように残っていた。
(……本当に天使のような人だけど、なんだか現実感がわかないな。まるで、完成された美しい絵画を見ているようだった……)
その後、すべての行事が終わり、寮の自室に戻った私は、病弱なお母さんから貰った大切な『魔力安定化のブレスレット』がなくなっていることに気がついた。
「……あれ? おかしいな。入学式の間は、ずっとポケットに入っていたはずなのに……!」
私はいてもたってもいられなくなり、夕闇が紫色の影を伸ばし始める中、無人の校舎へと小走りで引き返した。
昼間の喧騒が嘘のように消え去り、しんと静まり返った放課後の校舎。
窓から斜めに差し込む夕日が、廊下に長い影を落としていて、どこか不気味に思えた。
「……し、失礼します」
私はブレスレットを探すため、昼間にオリエンテーションを受けた無人の教室のドアを、静かに開けた。
――すると。
誰もいないはずの教室の窓際に、ぽつんと佇む人影が見えた。
夕陽の真っ赤な光を背に受けて立っていたのは、学園一の天才――シリウス様だった。
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