第1話:泥を這う平民の限界
できれば毎日投稿したいと思っていますが、日数があくこともあると思います!
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ここは王立エルシード魔法学園。魔物と戦うためのエリートを育てる、この国最高峰の学び舎だ。
そして、自身の魔力を形にした『アニマ(魂の化身)』の優劣が、そのまま個人の価値となる。
今はそのアニマを召喚するという、最初の式典。
学園の講堂は、豪奢な制服をまとった貴族の生徒たちで埋め尽くされていた。
その中で、地味で丈の合わない平民用の制服を着た私――エリナは、周囲からの侮蔑、好奇、そして嘲笑の視線に晒され、小さく縮こまっていた。
「……あのお方が、魔力値が高くて特待生として入学を認められた平民ですわ」
「……まあ、なんて地味でみすぼらしいのかしら。本当にあの方が特待生なのですか? ただの平民にしか見えませんけれど」
(今まで特待生として平民が入学したことがないとは聞いていたけど、まさかここまで注目されるなんて思ってなかったよ……)
私は「特待生(平民)」という立場がいかに異質で、歓迎されていないかを、ここに来て初めて痛感していた。
「……次、クラリッサ・フォン・ローゼン、前へ」
講師から名前を呼ばれ、侯爵令嬢であるクラリッサ様が壇上へ上がる。
美しい金髪を揺らして毅然と歩くその姿は、正に高貴な貴族そのものだ。
「……見て、次はクラリッサ様よ!」
「クラリッサ様なら、きっと素晴らしいアニマに違いないわ!」
周囲の令嬢達が騒ぐなか、彼女は自信に満ちた表情で、設置されている水晶に手を翳した。
呪文が唱えられると、水晶が赤く光輝き、――「黄金の火鳥」が姿を現す。
黄金に輝く大きな羽を広げたその姿は、貴族の威厳を最大限に体現していた。
「属性は火か。さすがは侯爵家のご令嬢だな!」
教官も頷きながらクラリッサ様を称え、判定を記録していく。
そして、クラリッサ様は元の位置に戻る前に、私のところへと歩み寄ってきた。
「平民でありながら特待生として選ばれるくらいですもの、さぞかし立派なアニマを出されることでしょうね。格式高い式典の場を汚さないことを祈っておりますわ」
クラリッサ様は優越感に満ちた蔑みの言葉を言い放ち、満足げに元の席へと戻っていった。
「……次、特待生。エリナ・クラエス」
名前を呼ばれ、私は震える足で壇上に向かった。
平民ながら莫大な魔力測定値を出し、特待生に選ばれたことを報告した時、病弱なお母さんは泣いて喜んでくれたんだ。
(……お母さんのためにも、ここで折れるわけにはいかない!)
私は意気込んで巨大な魔力水晶の前に立ち、両手を翳す。
身体の奥底から魔力がごっそりと引き抜かれる感覚。
直後、水晶が淡く、くすんだ紫色に激しく光った。
光が収束し、形を結んでいく。……しかし、現れたのは、大理石の冷たい床の上でのぞのぞと動く、わずか親指ほどの「白い幼虫」だった。
(……え? 幼虫……?)
私が激しく混乱していると、一瞬の静寂の後、講堂が割れんばかりの大爆笑に包まれた。
「……虫!? しかもあんな小さな幼虫だなんて!」
「……やはり所詮は平民だな。泥を這う虫がお似合いだ」
貴族たちからの容赦のない罵声、嘲笑、失望の視線を、私は一心に浴びる。
「……幼虫か。特待生だから期待していたんだがな」
講師たちすらも冷ややかに言い放つ。
その近くでは、クラリッサ様が勝ち誇ったように妖しく笑っていた。
(……そんな!? どうしよう、まさかこんなに小さな幼虫だなんて……っ)
私は恥ずかしさと悔しさ、そして絶望で頭が真っ白になっていた。
貴族たちや教官の嘲笑う声を聞き、涙で視界が歪む。私は這いつくばるようにして床の幼虫を拾い上げ、胸元できつく抱きしめた。
この世界では「無価値」と断定された、私の魂の片割れ。
今すぐにでもこの場から走り去りたいのに、恐怖と絶望で足がすくんで動かない。
私はただ頭を垂れ、嘲笑の嵐が過ぎ去るのをじっと待つことしかできなかった。
「……一体、何の騒ぎかな?」
その時。
カツン、カツンと、周囲の騒音をかき消すような、気品のある靴音が壇上へと近づいてきた。
今までのざわめきが嘘のように静まり返り、生徒たちが怯えと憧憬の混ざった息を漏らす。
私が恐る恐る顔を上げると、そこに立っていたのは、淡いブルーの髪を揺らし、きらびやかな光をまとった学園一の天才――公爵令息のシリウス様だった。
誰もが称える完璧な優等生が、絶望のどん底にいる私を静かに見つめ、どこまでも慈愛に満ちた微笑みを浮かべていた。
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