02
さて、今度こそと、わたしは庭を見ながら待っていた。
今回は、ちゃんと来る。
そう思っていた。
テリウスは、少しだけ戸惑った様子で馬車を降りてきた。
いつものように執事へ丁寧に挨拶をしている。
こういうところは、本当に嫌いになれないのよね。
しっかりとエスコートされて、馬車に乗り込もうとして、わたしは足を止めた。
中に、アリシアさんがいた。
「え?」
「あぁ、アリシアが迷惑をかけたから、どうしても謝りたいって。だから今日は一緒なんだ」
「どうぞ……」
わたしはそのまま乗り込み、アリシアの向かいに座った。
さて、テリウスはどこに座るのかしら。
ほんの少しだけ、意地の悪い気持ちで見ていると、テリウスは迷わず、アリシアの隣に座った。
そして、すぐに、アリシアさんが、テリウスの袖をつまんだ。
なるほど。
わたしは、二人の様子をしっかりと観察することにした。
報告が必要だから。
わたしは、冷静な観察者よ。
馬車の中は狭かった。
向かい合わせに三人。
テリウスとアリシアが並び、わたしが一人。
こういうとき、馬車の構造はよくできていると思う。
誰が誰の隣に座るか、選択の余地を与えない。
さて、整理する。
観察その一
アリシアさんの手は、まだテリウスの袖を掴んでいる。
先日と同じ位置、同じ強さ。
習慣か、それとも、もっと別のものか。
観察その二
テリウスは窓の外を見ている。
気まずいのか、気づいていないのか。
男という生き物は、時々本当に何も見えていないので判断が難しい。
観察その三
わたしの奥歯に、じわりと力が入っている。
これは観察者としてよろしくないので、なかったことにする。
観察その四
アリシアさんの顔色は確かに悪い。
けれど、ときどき。
ほんの一瞬、睫毛の下からテリウスを窺う視線がある。
観察その五
わたしは今、とても公平であろうとしている。
体調が悪いのは本当かもしれない。
謝りたいのも本当かもしれない。
そして、そのどちらも本当で、なおかつ別の目的があることも、よくある話だ。
馬車が揺れるたび、アリシアさんは小さく息を詰めた。
唇の色が薄い。
王都に来たばかりで、慣れていないのだろう。
そういうことにしておく。
「エリーさんは、いつもこちらのカフェに?」
不意に話しかけられた。
細い声。
けれど、目の奥に芯がある。
「いいえ、二度目です。前回は、途中で」
そこで止めた。
言わなくていいことは言わない。
それが大人というものだ。
アリシアさんは、わずかに目を伏せた。
カフェに着くと、テリウスが席を選んだ。
窓際の三人席。
真ん中にテリウス。
両端に、わたしとアリシア。
なるほど。
わたしはメニューに視線を落とした。
甘いものを頼もう。
できるだけ大きくて、華やかなものを。
今日に相応しいくらいに。
「エリーはいつもイチゴだよね」
テリウスが言った。
そういうことを覚えているのね。
嬉しいのか、腹が立つのか。
自分でもよく分からない。
飲み物が運ばれてきたころ。
アリシアさんの様子が変わった。
カップに手をつけないまま、ぼんやりと卓上を見つめている。
肩の力が、すうっと抜けていく。
「アリシア、大丈夫か」
テリウスが先に気づいた。
「ごめんなさい、少し……」
やっとのことで声を出している、そんな感じ。
「エリーさん、今日は来ていただいて」
声は細く、消え入りそうで。
目は伏せ、手は膝の上で重ねられている。
よくできた、しおらしさだった。
「先日はテリウスに迷惑をかけてしまって。本当に申し訳なくて……どうしても直接謝りたくて、無理を言って連れてきてもらったんです」
テリウスが困ったように眉を下げる。
「体調が万全じゃないのに、聞かなくて」
咎めているのか、心配しているのか。
どちらとも取れる声音。
「いいえ」
わたしは笑顔で言った。
「来てくださって、嬉しいですよ」
嘘ではない。
ただ、何が嬉しいかは言わなかっただけ。
「大丈夫です」
アリシアさんは首を振った。
その言い方が、とても上手だった。
大丈夫ではないことが、ちゃんと伝わる。
けれど気丈に振る舞っているように見える。
助けたくなる声だ。
わたしはメニューを閉じて、給仕を呼んだ。
「すみません。こちらのお客様の具合が優れないようなので、横になれる場所をお願いできますか」
テリウスが、はっとこちらを見る。
アリシアさんも、ほんのわずかに、目を見開いた。
わたしは二人を見なかった。
給仕の方だけを見る。
段取りを済ませてしまえばいい。
そうすれば、感謝されても困らない。
それだけのこと。
観察、追記
健気さを装う人は、助けられることには慣れていても。
先回りされることには、あまり慣れていない。
少なくとも、今日の彼女はそうだった。
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