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わたしの婚約者の病弱な従妹  作者: 朝山 みどり


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1/4

01

 


 今日は、二人で流行のカフェに行く約束の日だった。


 朝から落ち着かなくて、三回も髪を結いなおしてもらった。侍女に笑われてしまったけれど、それでもいい。だって今日は特別な日なのだから。鏡の前で最後に整えて、わたしは満足してうなずいた。


 あとは、テリウスを待つだけ。


 時間が近づいてきて、わたしは門のあたりを何度も行ったり来たりした。あの人はいつも、少し早めに来て、ちょうどいい時間に門をくぐる。だから、もうそろそろ見えるはずなのに。


 来ない。


 胸がざわつく。もしかして事故でも、と嫌な想像が頭をよぎったその時、使いの者が駆け込んできた。


「テリウス様からの伝言を伝えに参りました」


 嫌な予感が、ぴたりと当たる。


「従妹のアリシア様が熱を出され、付き添っておられます。本日はお約束を延期したいとのことです」


 それだけだった。


 拍子抜けするほど、あっさりした理由だった。


 従妹のことは、先日のお茶会で聞いていた。王都に引っ越してくると。慣れない環境で体調を崩すのも無理はない。


 だから、その時は素直に納得した。


 付き添い、という言葉に少しだけ引っかかりはしたけれど、きっとご両親も忙しくて頼れないのだろうと、自分で理由をつけて、わたしは次の機会を楽しみにすることにした。




 それから数日後。


 友だちと街を歩いていると、見覚えのある姿が目に入った。


 テリウスだ。


 そして、その隣には女性がいた。


 あぁ、あの人が従妹のアリシアなのね。


 そう思って、わたしは迷わず声をかけた。


「テリウス。今日は街歩き?」


 テリウスはすぐに気づいて、少し驚いたように目を見開いた。


「あぁ、エリー。この間はすまなかった。こちらが従妹のアリシア」


 そして、きちんと紹介してくれる。


「アリシア、こちらが婚約者のエリーだ」


「初めまして、よろしくお願いします」


 そう言って微笑んだわたしに返ってきたのは、


「初めまして……」


 消え入りそうな、小さな声だった。


 その時、ふと気づいた。


 アリシアはテリウスの袖を、しっかりと掴んでいた。


 離さない、と言うみたいに。


 胸の奥に、小さな棘が刺さったようだった。


 嫌だな、と思った。


 でも、それを口にするのは違う気がした。婚約者だからって、そんなことで不機嫌になるなんて、心が狭いみたいで。


 だから、わたしは何も見なかったことにして、いつも通りに笑った。


「それでは、次を楽しみにしていますね。失礼します」


 軽く会釈して、その場を離れた。




 そして、今日。


 今度こそ、カフェに行く日。


 わたしは朝からにやにやが止まらなかった。手に取った小説も、全然頭に入ってこない。結局本を閉じて、庭をぼんやり眺めながら時間を潰した。


 そして、約束の時間ぴったりに馬車がやって来る。


 ほっとして、急いで玄関へ向かった。


 テリウスは、いつも通り落ち着いた様子で立っていて、執事と簡単に挨拶を交わしている。


 その姿を見ただけで、胸の奥がほどける。




 カフェは評判通りだった。


「どれも美味しそうですね。うーん、こちらのイチゴのケーキにします」


「僕はチーズケーキにしよう」


 運ばれてきたケーキは見た目も可愛くて、味も申し分ない。


「美味しいですね」


「うん、美味しい。来てよかった」


 そう言って笑い合った、その時だった。


 慌ただしい足音とともに、使いの者が現れた。


「テリウス様、アリシア様が倒れてお呼びになっています」


 カフェの賑わいが遠のいた気がした。


「なに、すぐ行く」


 テリウスは迷いなく立ち上がった。


「すまない、これで失礼する」


 そう言って、もう出口へ向かっている。


 最後に一度だけ振り返って、わたしを見る。


 それだけで、行ってしまった。




 残されたのは、わたしと、半分ほど残ったケーキ。


 そして、ぽっかりと空いた時間。


 あっ、馬車。


 一緒に来たから、ない。


 その事実に気づいた瞬間、胸の奥で何かが弾けた。


 腹が立った。


 すごく、腹が立った。


 わたしはフォークを握り直して、イチゴのケーキを全部食べた。


 甘い。


 でも、全然楽しくない。


 おかわりを頼もうかと思ったけれど、さすがにそれはやめた。


 支払いを済ませて、カフェに頼んで辻馬車を呼んでもらう。


 帰り道、揺れる馬車の中で、わたしは何度も同じことを考えていた。テリウスは迷わなかった。一秒も。




 家に着くと、母が驚いた顔をした。


「どうしたの、その帰り方」


 わたしは、今日のことを全部話した。


 カフェのことも、その前に街で会った時のことも、アリシアの様子も。


 話しているうちに、自分の中で何かがはっきりしていく。


 その夜、父にも話した。


 父は静かに聞いていたけれど、


「婚約者を置いて先に帰るとは、どういうことだ」


 と、そこを問題にした。




 翌日。


 テリウスから詫びの手紙と花束が届いた。


 わたしの好きな花だった。


 嬉しいのが、悔しい。


 好きだから、許してしまいそうで。


 それが一番、腹正しい。




 さらに二、三日後。


 今度はチョコレートと手紙。


「お詫びに今度こそ、カフェに行こう」


 そう書かれていた。




 わたしは、すぐに返事を書いた。


 ペン先に、少しだけ力を込める。



【お誘いありがとう。今度はゆっくりしましょう。でも、怒っているから覚悟してください】




 書き終えて、ふっと息を吐く。


 わたしは、ただ待つだけじゃない。


 ちゃんと、伝える。


 そのくらいは、してもいいはずだから。


いつも読んでいただきありがとうございます!


誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。

とても助かっております。

楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。

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どうぞよろしくお願いいたします。



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