関東の現状
とりあえず、天正十年秋の関東地方の状況をあきらかにしておこう。
北条氏。
相模、伊豆、それから武蔵の大部分、下総の東側を領有。
千葉氏。
下総の大部分と上総の一部。
このふたつは繋がりが強く、千葉氏当主千葉邦胤は織田に臣従することを拒んでいる。
佐竹氏。
常陸の大部分を領有し、隣接する結城氏や下野の宇都宮氏と同盟関係にある。
また、会津の蘆名氏とは近く、その目は関東というより東北へ向いている。
秀吉などを通じて比較的早い時期から織田とつながりを持っている。
里見氏。
本拠地安房のほか上総の南部も領している。
北条氏、及び北条氏が後ろ盾を得ている千葉氏と上総を争う立場上、織田に近いと言える。
この中で明確に織田への臣従を拒んでいるのは千葉氏。
北条氏を含めて他は反織田の意志を示している者はいない。
ただし、他家も反織田ではないものの、臣従ではなく単なる同盟関係を望んでいるのは言うまでもない。
当然領地返上などという要求をすれば、すぐさま反旗を翻す。
だが、信長が望んでいるのはあくまで臣従。
むろん、力を弱め将来織田家に歯向かうことがあっても簡単につぶせるようしておきたい。
そのために本領は安堵するものの、それ以外は極力収公したい。
むろん両者の望みは相反する。
そして、「関東御取次役」である一益が優先すべきは後者の意向。
だが、それだけを推し進めてはすべてが崩壊する。
たとえば佐竹氏。
北条を弱体化させた場合、関東で一番の勢力となる。
できれば、北条とともにその勢力を弱めたい。
だが、佐竹氏は東北地方で蘆名氏と結び、伊達と対立している。
そちらの担当は柴田勝家であり自分には関係ないのだが、同じくこれから強敵伊達と対峙する織田軍にとって佐竹は有力な同盟者。
簡単に切り捨てるわけにはいかない。
弱体化させるにしてもそれ相応の順番がある。
それが一益の判断。
さすが信長が関東の差配を任せるだけの男といえるだろう。
史実でも一益の有能さを示す証拠は多くの資料に残っている。
秀吉や光秀の影に隠れて地味な印象しかないのだが、陸海どの戦いにおいても過不足なく戦える。
それだけではなく裏手からの工作や交渉も得意。
命令する側にとって非常に使い勝手がよく、そのため、大一番となる武田攻めの先鋒の指揮を任せたのだ。
さらに意外に常識人で引き際も潔いのは対北条戦に敗れた後の行動から察することができる。
本能寺の変以降その運命は急降下し歴史から消えていってしまったが、本能寺の変が起こらなければ、この物語と同じように織田家による天下統一に大きな貢献をしたのは間違いないだろう。




