第3話;夜鬼 (Vampire)-①
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拙い文章です、ご容赦ください。
午後七時四〇分。
古宵公園はピクニックに最適な敷地面積の広い自然豊かな公園だ。
公園の敷地外を囲むように植えられた樹の葉がカサカサと夜風に揺れ、ブルーがかった街灯は等間隔に道路上を照らしている。
トゥリリントゥンクリン────。
公園の外れ、自宅までの近道である公園に面した道路上で、通話アプリの着信音がカバン内に鳴り響く。
携帯の持ち主である芽暮羽子は「誰だべ」とカバンから携帯を取り出し、着信画面の名前を確認した。
表示されていたのは見知った名前。名前下にある赤緑二つのボタンのうち緑のボタンに触れた。
「もしもし?クラ?」
「──。────?」
「だいじょぶだぁ、どうがしたの?」
「────、────」
「ちょっと待って……ホンドだー。まぁ今日は使う予定ねえし、明日返してぐれればいいよ」
芽暮は公園入口にある鉄色のアーチ型バリカーに、公園に背を向けて腰を掛けた。どうやら友人のクラが彼女の数学のノートを誤って持って帰ってしまったらしい。
バリカーが冷えてお尻が少し冷たい。
「──、────?」
「今?んー古宵公園の近ぐだよ~」
「──!────」
「今がらが~。んー絶妙な距離、どうすっぺな~」
芽暮は舞い込んできた誘惑に身を捩りながら葛藤する。
彼女がいる場所から最寄りジャンクフード店で、クラとその仲間達がたむろっているという情報。その仲間達も勿論馴染みある友人であり、繰り広げられる葛藤は猶更白熱した。
カバンが肩からずれ落ち、注意が外に向けられたとき。
「ちょっと待ってね」
ふと心当たりのある感覚が芽暮の背後でぽつりと降って湧く。
今朝学校検知した気配と少し違うような気もするが。
わざわざ一人でいる時にしかも夜に現れたそれは、自発的に気付かれるようとする意図すら感じて。
不本意ではあるが立ち上がって右肩越しに振り返り、奴の行方を探す。
だが、探すまでもなかった。
「へぇ、おめだったんだ──────吸血鬼」
ピクリとも動かずマネキンよりも人間味を感じないそいつはそこに棒立ちしていた。
服は黒の上下、タクシー運転手のような白い手袋、ウィンドブレーカーのパーカーを深くかぶり、指のような形をした水色の結晶が下から上へ二本クロスして顔部から生えている。結晶は多面的で公園を照らす光を屈折させ、地面へ水色に散りばめた。
シルエットはとても身長が高いわけではないが、姿勢が良くすらっと細身、立ち姿だけでも気品を感じる。
腰掛けての電話に集中していたのは確かだが、それでもコイツが近づいていることに気付かなかった。
「──?」
「わりいんだげど逆にこっちに来てぐれねえ?公園のおらん家側」
「──、────?」
「吸血鬼にばったりあっちまった」
「!──、────!」
「ありがど、よろしぐ」
さてと。
ここ数週間で目撃情報は絶えず、出没するのは基本七時以降の夜。
当初はただの不審者扱いだったが、数日で女子高生及び男子高生が襲撃に合い、これまで三人がケガを負っている。
その中に古宵高校二年の女子生徒も含まれており、噂に疎い芽暮でさえも容姿等の情報が耳に入ってくる程だった。イケメンなら噛みつかれてもいいかもと昔の少女漫画のような展開を期待する女子高生の声が多かったから。
吸血鬼の由来は、夜の活動、連想させる服装と振る舞い、そして被害者たち全員の首筋に二つの並んだ小さな牙痕。倒れている被害者を救助した人たちがその痕を広め、目撃情報と組み合わせた結果、不審者は肩書を『吸血鬼』へグレードアップしたのだった。
芽暮は吸血鬼がいる公園へ歩み始める。
「学校での視察ど人気がねえどごろで姿見せだごど踏まえるど、おらに用事があんだべ?こごは住宅多いし、もっと広い所さえぐべよ」
「……………」
吸血鬼はうんともすんとも言わずに彼女との間隔を一定に保つように後ろへ下がる。
個人を訪れたということは襲うつもりだと暗喩しているようなもの。道路脇の住宅街に被害が出ては堪ったもんじゃない。
もう一つ気になるのは。芽暮は長めに息を吐いた。
顔から一部露出している水色の結晶、聞いた吸血鬼の情報にそんなものはなかった。
そして、あれは。
ある程度いったところまで移動したところで彼女は歩みを止めて荷物を地面へどさっと落した。
「質問。顔のそれは例のテロリストど似だもんに見えんだげんとも、おめもテロリストの仲間?おらを連れ去る気か?」
「…………」
「まーいいよ。すぐにその仮面叩ぎ割って顔拝んでくれるし。挑んでぎどいでおらより弱えどがやめでな」
「────」
挑発に釣られたのか、吸血鬼は右手を引くと地面を強く蹴った。
距離をあっという間に詰め、彼女へ引かれた拳が放たれる。
白い手袋のその奥に別の白い何かが見えた芽暮は、高い危険性を感じて大きくバックステップ。
「うぢの高校の子を倒すだげあるね、火力が高そう」
吸血鬼の前腕外側から生えていたのは、白に近いクリーム色でまさに象牙のような、前腕部から指先方面へ伸びる約五〇センチ、直径十センチ程の突起物であった。しかも両腕。
拳を回避してもその突起物が追撃してくる。
ただ相手が脅威であっても、好戦的な芽暮は嬉しそうに言った。
「お互い近距離戦向げのリヴ、徹底的にやり合うべよ」
右手のひらから直径25ミリ長さ150センチほどの円柱棒を生み出し、両足のかかとを九十度でつけ、右の肩から脚へ縦一直線に両手で持ち、相手へ半身で構える。
その構えと長い棒の武器が特徴的、護身にも使われる棒術というものだ。
次はこちらの番、吸血鬼へ駆けた芽暮は遠慮なく上段打ちを叩き込む。相手の額の上を狙った強打。
振り切らない。できるだけ惰性を少なくコンパクトに、当たる瞬間にだけ力を込める。
ガキン!
人間の体では鳴らない音がなる。彼女が両手で振るった上段打ちを吸血鬼は片腕で受け止めた。
すぐに吸血鬼は攻撃に残しておいた右手で空いた芽暮のボディに拳を放つ。リーチは確実にへそを抉れる長さ。
棒の上下を反転して棒を縦にし、両手の間、中段受けでボディブローを左横へはじく。
しかし吸血鬼の攻撃は続く。
弾いた音がした時には顔面へと象牙の先が迫っていた。
「っつ」
考える暇もなかったが体は反応する。一歩下がりながら上下を再度反転して戻し、その突きさえも左横へ強くはじき飛ばす。
吸血鬼の重心が流れた。相手の両腕を左へはじいたことで相手の身体は傾き不安定に。
芽暮は右手を右腰へ引くと同時、左手を斜めに強く振り上げる。棒術の強みは防御から攻撃へ滑らかにそして素早く移行できること。
順手で敵の攻撃をはじき、逆手で相手の顎を砕きにかかる。この一連の動作に吸血鬼は頭を引くことで避けるしかなかった。
「後・手」
斜め上へと振り上げられた棒先がかわされた後、避けることを知っていたかのように棒先はピタリと止まり、打ちから突きへと切り替えられた。鼻を捉える。
「────」
明らかな不規則攻撃。だが吸血鬼はその異名に恥じない反応を見せる。
パシッ!流れていた右腕を何とか戻して突きを手のひらで受け止めた。
やるっ、虚突いだで思ったんだげどな。
一方、口を固く結ぶ吸血鬼。手のひらに強く感じる円形、仮面に押し付けられる自分の手の甲にじろっと彼女を結晶越しに見据え、おもむろに棒を受け止める右手を握った。
────パキャンン!!!
「きゃっ!!」
芽暮は破裂音から目を背ける。
ワイングラスが粉々に砕け散った音。ガラス片に似た何かが彼女の靴先へ落ちたことで芽暮は破裂音をそう認識してしまった。
だが右手にある自由感に違和感を感じてすぐに吸血鬼の方を見やる。
「────え」
そこには右手を強く握りしめる吸血鬼と、歪に砕けた棒先があった。
吸血鬼の手のひらに押し付けていたはずの棒先が消滅していた。
正直まだ事態を把握できていない、が奴の右手に握られたらヤバいことは理解した。
多少短くなっただけ。咄嗟に芽暮は先端そのままの棒で吸血鬼の喉元へ再度突きにいった。
「ぐぅっっっか!」
だが突き終わった先に吸血鬼の姿はなく、車が衝突したと錯覚する程の裏拳が横一閃、鎖骨ちょい下の前面を水平にめり込んでいた。
その威力に芽暮の身体は吹き飛ばされる。
「…………」
「はぁはぁはぁ。痛っだい」
心臓に近く強い打撃、息苦しさと痛みが転がって立ち上がろうとする芽暮を襲う。
彼女の二度目の突く動作がスタートした時点で吸血鬼の喉元は棒の軌道上にはなく、棒のすぐ上空を滑るように裏拳が隙だらけの鎖骨下へ入ったのだ。
鉄ほどの強度がある棒が粉砕されたという戦況を把握し突きに切り替えるまでたった数秒しか経過していない。
だが吸血鬼にはそれだけで十分であったのだ。三秒も相手の先手をとれるのだから。
「おめ本当さ吸血鬼?思ったよりパワー系でびっくり」
少々息苦しさが落ち着いた芽暮が呟く。茶化してはいるが目は笑っていない。
当然リプライはなく、吸血鬼は半身を向けている。
「こっちも流派どが言ってらんねえ」
昔から師匠の型は私には合わなかった。
かかとをゆっくりつけて構える芽暮は、身体で隠した戦棒を力強く握った。清く凛々しく。
身体は燃えるように熱くずきずきする。その感覚すらエネルギーにして心底笑顔で言う。
「最近演武とか手加減ばっかでさ、遠慮なぐ戦えそうで嬉しい」
「…………」
「おら本気になっから、受げ止めでぐれよ?吸血鬼」
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