第3話;夜鬼 (Vampire)-②
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拙い文章です、ご容赦ください。
曲輪流棒術────それが道場の師匠から教えられた武術だった。
片足を肩幅以上に大きく後ろへ引いて重心を落とす基本姿勢から攻守の幅広い技を繰り出すことができ、人間の関節と弱点をすぐに狙えるそれぞれの手技は、多くのバリエーションによってどの技にも滑らかに繋げることで不断の戦闘も可能。
それ故に型を重んじ、アクティブでカジュアルな芽暮羽子にとっては不適合な流派であった。
成長に歯止めがかかった中学時代、リヴ学の先生に「型を捨てて一度戦ってみろ」と言われ実戦してみたことがあった。
─────その自由さと強さに、身も心も喜んでいた。
それからは師匠にそれを隠れて自分なりの型を生み出した。結局バレたんだけど。
「行くよ」
棒先を下に向けて、攻撃範囲に入ると下から真上にすくい上げて相手の顎を狙い打つ。力が伝わりづらいこの攻撃に決定力はない、ただの撒き餌だ。
吸血鬼は彼女の攻撃を受ける為の左腕を置いた上で右前へステップし、前腕から生える象牙のような生成物と一緒に右ストレートを振るう。
釣れた。対して芽暮は防御される前に手首を返して右脇をグッと締め、敵の右ストレートを体勢を傾けて側頭部横をすり抜けさせると、腰のひねりだけで右から左へ吸血鬼の顎を打ち抜いた。
カキン!という耳心地の良い音が鳴り響くも結晶は割れず。
それでも顎が微弱に揺さぶれた動きを数フレームで視認し、芽暮は腰のひねりを逆に回す。
鳩尾に埋まる拳。
拳までも棒術の技術を取り入れたインパクト形式。
吸血鬼は数歩後ずさって鳩尾に白い手をかざす。
拳?彼女の手には、今まで使っていた棒が存在していなかった。
彼女は追撃の為に眼前まで迫り、新たな棒を生成して右から下から、左から上から、絶え間なく打撃を打ちこみ続ける。
痛烈な打撃を生身に受けるわけにはいかず、その全てを吸血鬼は丁寧に受けきるも、彼女の攻撃は加速していく。
ついには脳と手足の処理が限界間際になったある時、攻撃が防御をすり抜けるのだ。正確には棒が消失して無駄な防御にリソースを吐かされる。
不規則に混じるそれに、サブウェポンの思わぬ拳や脚が吸血鬼を削り取っていく。
根底にある曲輪流棒術は地に足付けた最小限の動きと局所的な爆発力、そしてその継続性で成り立ち、派生した芽暮羽子独自の武術はそこに不規則さと誘導が加わる。
可動率の高く柔らかい手首と戦棒を出し入れできる彼女のリヴ特有の技と言えよう。
それに。その腕、重いんでねえ?
火力がある代わりに生成物の分、腕の重量が上がり、動きがやや鈍くなっているのが分かった。
それでも、隙を与えない彼女の攻撃に対策しきれないものの、タフな吸血鬼は一言も発さずに黙々と戦闘を続けている。
もう一工夫。両の膝裏に棒を挟んで相手の足を払い、ふらついた頭上にコンパクトに棒を振りぬく。
バギャッッ!!!!!
今までの生温い耳心地の良い音ではなく、想像に難くない破壊音が鳴り響いた。
樹木の幹をバットで欠損させようと試みるような衝撃が手のひらを襲い、激烈な痛みに棒が消失した。
同じく振りぬいた腕を高らかに上げ、吸血鬼はトコトコと歩みを始める。
その歩みを止めようと、痺れがとれない手で新たに生成した棒を握り、防御の薄い面に打撃を打ち込んでいく。
カキン!と二人の中間で互いの武器が交差する音が響いた。
二発目も防がれ、そして音は三度、四度と繰り返し、更には隙間に小さい攻撃も挟んでくるようになった吸血鬼。徐々に芽暮の攻撃にも慣れ、対応し始めている証拠だった。
そして今度はこちらが誘われるかたちで不規則の拳を放つ。
―――――しかし受け止めようとする白い手袋の手のひらが見えた時、彼女は本能的に拳を引き返してしまう。棒の先端が爆砕した光景が脳裏を過ってしまったのだ。
「もうバレぢまったか」
奇抜で不規則な芽暮の攻撃には、実は欠点があった。それは棒を消失させる条件だ。
彼女の生成した戦棒は、自身の肌に触れていないと消失する。つまり、棒から手を離した、握る手を緩めたことを視認できれば不規則でも対処が容易になるということ。
でも。古宵高校にはおらより強いやつがうじゃうじゃいる。適応してぎだなら次だ。
────しかし、無理な重心の移動に彼女の身体はまともな攻撃も防御もできない状態になったことを吸血鬼は見逃さなかった。
そして思い知ることになる。
吸血鬼もまた、生成型のリヴであることを。
肉と骨を穿つ感覚と共に、奴の姿と世界が縮小した────。
「痛っっだ、っ」
這った身体を起こそうとした芽暮は、軋む肋骨と内臓に顔をしかめ痛覚を味わう。
公園の広い場所で戦闘していたはずが彼女の姿は敷地内に植えられた人口林の際にあった。
転がって止まった為、砂や草がついたままの服。それを払うこと無く痛みを受け入れながらに芽暮は立ち上がった。
強い、おもしぇ。
その顔には未だにいたずらっ子のような笑みを浮かべ、吸血鬼の冷静に対処した後、旬を見極め反撃を開始する戦闘センスに、身体の悲鳴とは対照的に戦意が増してく。
「ほだな、生成型は生成するごどが本来の強みだもんな。おらの落ぢ度だ」
そう言いながらに芽暮は尚もこちらへトコトコ向かい歩く吸血鬼の異形な腕に着目した。
吸血鬼の右前腕、その内側から外側と同じ象牙のようなずっしりと重量感のある物体が更に長く生えている。
拳を振るう吸血鬼を何とか防御しようと両手を上げたが、腕の速度に便乗して射出された内側の生成物は、がら空きである彼女の身体前面へと叩きこまれたのだ。
それに。右手の平からしか生成出来ない私と異なり、奴は腕全体、もしかしたら身体全体から生成出来るのだろう。
生成型リヴァの誰しもが一度は生成する媒体の自由度の拡張を目標にする。
芽暮は未だにその伸びが無い。
「さすがに完敗」
芽暮の本音がボソッと。
それを聞いてか、吸血鬼は間七メートル程の距離を残して歩みを止めた。
公園に敷かれた明かりによる逆光で佇む姿は底気味悪い。
芽暮は新調した棒で負けを認めても防御の構えをとる。
「…………」
のろぉと前側へ肩まで上げた両の腕、今にもスリラーしそうな吸血鬼の腕から生えていた生成物がポロっとすべて取れたと同時にタケノコの先が腕一本に五本ずつ追加で顔を出す。
芽暮はそれを見て、吸血鬼に初めて背を向けた。
「それはームリっ」
後方の人口林へと全力疾走を試みる。
風を疾する十の音。足元を追撃するように吸血鬼の腕から生えた計十本の生成物は伸長、地面の土や林に突き刺さり、問答無用に穴を生み出していた。
当たったりしたら…………足首程度の細さなら消失するだろう。
────今までは全力でねがったわげ?ごせやげる!全力出せっつったのに!
最初の近距離戦では披露しなかった高威力の中距離攻撃。
近距離攻撃が主な自分に遠慮していたというのか。敵に遠慮されるのは逃げるよりも屈辱だ。
静かな背側。
木々の間を不規則に走りつつ、後方確認を行う。何処を見ても林で吸血鬼の姿は見えない。
まだ未確定だがあいつの中距離攻撃は直線的なもの、だと思う。林の中に逃げれば木が邪魔で攻撃しにくいはず。それに横や後ろのポジションへと回り込むことも視野に入れられる。
吹っ飛ばされた先の立地が良くて助かった、と芽暮は再度後方確認をして左旋回気味に道を選び、迂回しようとする彼女だったが。
────ッスン!
木々の間を何かが過ぎ去る音が聞こえ。
「!」
聴覚を頼りに音のする方へ構えるも。
「ゥグッ!」
太くしなった鞭が構えた棒下を潜り込んでお腹を打つ。綱引きの綱のような鞭の攻撃に本日三度目の吹っ飛び、飛んだ先の樹木に左肩の裏側を激しく打ちつけ、身体は軌道を変えて転がってしまう。
三度目の正直。蓄積されたダメージが、今度こそ芽暮の身体を起こす力を停止させた。
ユラユラと柔軟な動きをする鞭。
「遠距離攻撃もあんの」
それにおらの行動は筒抜げだったってわげね。
身体を引きずり樹木へと寄りかかる。
さっきのが火事場の馬鹿力というやつ、それが切れてどっと疲労が出てきた。
目を瞑って回復をする芽暮。
しかしトストスという草を踏みしめる音が耳に入ってくる。聞き覚えのあるリズムと歩き方。
肩呼吸している吸血鬼は夜の林の奥で姿を現した。
能力を行使しすぎたか、足取りも若干フラフラとしている気もするがそれがヤツの狂人さを増幅させる。
地面へと座り込む芽暮は睨むことなく、ただ真っ直ぐ勝者の姿、純粋に煌めく水色の結晶を見続けた。
何者だというのだ。
最後の力で太鼓のバチサイズの棒を生成し、顔面へ向ける。
「おらは……負けず嫌い……だよ…………」
同じように吸血鬼の左腕も前に伸ばされ、腕から生成された物体が彼女の腹を強打し、最後の体力を削りきる。
そうして、芽暮は普段よりも深い眠りについた。
そんな眠り姫の白い首筋へ。
二本の牙は自己の存在を伝えるように。
肉体に赤い牙痕を残していった。
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