孤独を求めて
翌日、学校へ行くと下履きがなくなっていた。
ロッカーの上にも、近くに落ちてるでもなく、あたしは昇降口をグルグルと探し回った。
「あった」
見間違いかと思い一度スルーしたのだが、外にあるゴミ箱にあたしの下履きは眠っていた。
「もう、履けないな」
悲惨な姿に変わり果てて。
「……履かなくてもいいか」
あの人にお願いするよりかは、落ちてる画鋲にビクビクしながら学校生活を送った方がマシだ。
あの人に報告した方がチクチク何か言ってきそうで、痛そうだし。
持ち上げた下履きをゴミ箱の中へトンボ返りさせる。
学校を過ごす教室へ向かうため、階段を登る。
「いっっ」
痛くはないものの、肩をぶつけられ声が漏れてしまった。
肩をぶつけてきた生徒は、一度たりとも振り返ることなく、姿を消した。
そんなのを四度くらいされながらも、あたしは教室にある自分の席の前に立つ。
──なるほど、これが報いなのか。
机には無数の落書きがされており、文字通り教室の隅っこへ追いやられている。
椅子はない。おまけに机の足も一つない。
あたしがその光景を目の当たりにしても、教室にいる他の生徒は気にするフリもせず、いつも通りに過ごしている。
現在時刻は八時半。やがて朝のホームルームが始まる。
担任がこの光景を見てどういう行動をとるのか。少しだけ楽しみになっている。
机の落書きも、椅子がないのも全然いいのだが、机の足が一つないのは板書を写す時の弊害となる。
明日、いい感じの木の枝でも探しとくか。他の教室から新しい机持ってきても同じような目に遭わせるだけだし。
「おはよーう」
寝癖が残ったままの担任が扉を開けて入ってくる。
気体の粒子のように散り散りになっていた生徒は、担任の到来に気づくと、決められた席に移り、腰を下ろしていく。
「えーっと、はいはい、そういうことね」
教室後方の壁を背もたれにして立っているあたしと目が合う。
「今日は特に……連絡事項もないけど、来週からさらに冷え込むみたいだから、防寒着の準備しておくようにな。風邪引くと面倒だぞ」
言いながら、持ってきた冊子にメモをしている。
「一限は……現代文か、現代文ってさ」
担任は前方に座る生徒と会話を始めた。
あたしのことを視界の隅から視界の外へと追いやったみたいだ。
つまり、あたしの存在を認知しているのは、この教室であたしだけ。
あたしは正真正銘、一人になったわけだ。
これまでもずっと一人だったわけだけど、より強い孤独感を感じるようになった。
あたしが行なってきたことに対する報いだ。他人に手を出すことをやめられなかったあたしが悪い。
結局、弱い自分に誰も手を伸ばしてくれようとしてくれなかった。
まぁ、そんなのは他人任せにしていたあたしが悪かったわけで、もっと他の手段はあったはずだ。
学校でも一人になったあたしは、凄まじい孤独感に襲われる。
「トイレ」
誰に聞かれるでもないのに、あたしは一言残してトイレへ向かう。
望んでいたことではないが、こうなることは必然的だった。
孤独を払おうとした結果、さらなる孤独があたしに纏わりつき始めた。
まるでわけがわからない。
あたしは何がしたかったんだろう。もう、生きてきたことを後悔するレベルだ。
「入ってきたぞ」
トイレに入ると、個室の中からコソコソと話し声が聞こえてくる。
前々から噂になっていたんだろう。関わりたくもない人が入ってきたら、そんな声が蔓延るのは自然的だ。
「ひゃっ!?」
個室に入った途端、大粒の雨があたしを襲った。
たまらず似合わない悲鳴をあげてしまった。
「逃げろーっ!」
さっきの声とは違い、楽しそうな声が遠のいていく。
「これは、どうしようもないな」
季節でいえば今は冬だ。濡れた制服のまま過ごしていれば、一瞬にして風邪を引くことになる。
「風邪を引くと面倒らしいからな」
担任の言葉が脳裏をよぎる。
体に纏わり付いた雨を、トイレットペーパーでできるだけ拭う。
ところどころにトイレットペーパーのゴミがついてしまうが、いちいち気にしていたらキリがない。
歩いても水滴が落ちないくらいになったなと思うと、チャイムが一限の開始を知らせてきた。
今なら廊下を歩く生徒たちはいない。向かうなら今がチャンスだ。
寒さに体を震わせながら、廊下に身を投げ出す。予想通り、生徒は誰一人として歩いていない。そう、生徒"は"。
「何をしてる?」
教師が歩いていないわけではないのだ。
「逃げるな!!」
体育教師との逃走バトルが幕を開けた。
もちろん、彼の名前は知らない。
「待て、待てって!!」
もう、どうなっちゃってもいいや。あたしはずっと一人。これからも一人。なら、何やってもいいんだよね。
「んんんんんんんひゃっほーーーー!!!!!!」
あたしの中で何かが外れる音がしたのと同時に、気分は一気に最高潮にまで登り詰めた。
「追いついてみなよ!見て見ぬ振り野郎!!」
捕まれば偽物の集団行動を再びやらされることになる。
だから、あたしは逃げる。本物の孤独を自らの手で掴むために。




