親子って、何?
私は今、頭を下げられた理由を説明してもらっている。
ヤイチとアリスの再会はしんみりとしたものではなく、まるでお互いにクリスマスプレゼントでももらったかのように、盛大に喜んでいた。
この二人がしんみりとした空気を作り出せるわけがないし、盛り上がってくれた方が見ていて気持ちがいい。
今だって二人で胴上げごっこしてるし。トウカが見たら泣くぞ。
「あの、話聞いてますか?」
低音なのに聞き取りやすい声で確認を入れられる。
「大体は」
超絶イケボの男性に説明をしてもらっているのだが、その隣にいる女性が気になって話がなかなか頭に入ってこない。
「隣の方は?」
なんだかこの感覚懐かしい。どこかで感じたことのあるものだ。
「……アイです」
「いや、訊かれてるの名前じゃないでしょ」
隣の女性がツッコむ。
「……妻です」
男性は顔を真っ赤にさせ、小さな声で答えた。
「何照れてんの?」
アイさんと呼ばれる女性が、言いながら肘でつつく。
「アイが何か気になりますか?」
アイさんの肘を片手で止めながら、私に尋ねてきた。
「いえ、お二人の関係が気になっただけで」
クッソー!既婚者かよ!てか、女!何得意気な顔でこっち見てんだ!あれか?私の顔に「私は独身です」でも書かれてんのか?どうなんだ?ああ?
「やっぱり、アイが何かしましたか?」
イケボ様には関係のない話だ。
「いえ?何も?」
私は満面の笑みで答える。
「さすがに不戦勝よね」
黙れ!嫌なやつ!
ちょうど思い出したわ、この懐かしい感覚。
保健室の先生として勤めていた頃、教室には行きたがらない生徒が保健室通いしてたことがあった。
しばらくしてからその子のご両親が学校に訪れてきて、こんな感じで話をした記憶がある。
その感覚と全く一緒。幸福を見せびらかされているようなこの感覚。マジで苦痛。
「それで、話というのは?」
私の不戦敗……と認めるのはとても嫌ではあるが、アイさんは勝てる相手ではないとわかったところで、ようやく本題を耳が受け取ってくれるようになった。
「ヤイチの件についてなんですが」
あぁ、さっきの話かな?
「あれはアリスが止めてくれたので、私は関係ないですよ」
「いえ、先ほどの話ではなくて」
さっきの件以外に二人から頭を下げられるようなことをした記憶はないが。
「あ、申し遅れました。俺、キボウって言います」
申し遅れすぎだろ。
キボウさん、ふむ、私のターゲットの名前を記憶、と。
「俺たち、ヤイチの親なんです」
そんでそんで、ヤイチの親である、と。なるほどね。
「俺たちの勝手な都合でヤイチを一人にさせてしまって、少しの間ですがお世話になったと聞きまして」
半年にも満たない期間ではあったものの、ヤイチの面倒を見たという事実はある。
「そんな、全然頭を下げられるようなことじゃ──」
……ん?ちょっと待てよ?
「ちょっと待って、記憶遡るから」
ヤイチの……両親……?
「ヤイチの……両親って言いました……?」
キボウさんは首を傾げたまま、縦に振る。
「ヤイチの両親!!???」
私としたことが、完全に聞き逃してしまっていた。
「は、はい、そうなんです」
やべ、若干キボウさん引いちゃってるわ。
「これだから独身は」
黙っとれ。てか、どうなっとんねん、母親の教育は。
「こら、俺たちのせいで迷惑をかけたんだ。変なことを言うんじゃない」
そうだそうだ!キボウさんの言う通りだ!
「ベー」
アイさんはあっかんべーをした後、そっぽを向いた。
なんだか少しだけ気分が晴れやかになった。
「事情を話すと長くなる故、全てを話すことはできないんですけど、とにかく感謝をしたかった次第でありまして」
ヤイチの素性を全て知っているわけではない。
ずっと一人で暮らしてたことしか知らない。
両親は事情があったとは言え、ヤイチを独り身にしていたことを知っていたにも関わらず、ヤイチに孤独を抱えさせていた。
頭の中で疑問が疑問を取り巻いている。
両親がいるのに、孤独を抱えたまま子どもが生活しているのはおかしすぎる。不自然だ。
それはヤイチだけに言えることではない。炬燵家みんなが辿ってきた道だ。
私たち以外にも同じ境遇の人がわんさかといる。
類は友を呼ぶという言葉があるが、まさにその通りだ。
どうして神の心が私たちに宿ったのかわからないでいたが、ようやく答えが出た。
「ヤイチには頭を下げてくれたんですか?」
二人に尋ねる。
「ヤイチが前回過去の世界にやってきた時に話をしました」
「だから、そうじゃなくて」
私はヤイチではないのに、ヤイチの気持ちはわからないのに、どうしてかイライラしている。
「謝ったかどうかを訊いてるんですよ」
私は実の親が目の前に現れても、謝罪をして欲しいとは思わない。けれど、最低限のことはして欲しいと思ってる。絶対に許さないけど。
「ヤイチがどう受け取ったかはわからないけど、謝りはしました。俺にできたのは、多分それだけだと思いましたから」
私の中で二人の印象が急速に悪くなっていく。
「だから、どうか」
キボウさんはそっぽを向いたままのアイさんの頭を掴む。
「これからもヤイチの親でいてください」
二人は再び頭を下げてきた。
──違う……違うでしょ……そうじゃないでしょ……
「どうしてそんなことが言えるのよ!」
再会できたのなら、もう一度暮らせばいいじゃない。一緒に食卓を囲めばいいじゃない。一緒にトランプでも何でもやればいいじゃない。
「どうして、赤の他人に任せられるのよ……」
私にはわからない。この先もわかりたくない。
親にとっての子どもってなんなの?そこには人と人としての繋がりしかないものなの?
──親子って、なんなの?
「シロコさんだから言ってるんです。事情が事情ってのもありますし、迷惑だってのは重々承知してます」
──何よ、それ。
「迷惑をかけてるのは私じゃなくて、ヤイチの方でしょ!ヤイチのことなんとも思ってないからそんなこと言え──」
「それ以上言うと、二度と口を開けなくするよ」
鋭い視線のアイさんが私の口を強く掴んできた。




