絶対恒河沙不合格
未来の世界に来てから、疑問に思う点が数を増してきた。
一つ一つを解消するにはアルタイルに訊くのが手っ取り早いのだが、呑気に話をしている時間はなさそうだ。
「アルタイル」
それでも、一言でいいから、そんな疑問を吹き飛ばしてしまうような一言をもらいたい。
「なんじゃ?」
よかった、まだ起きてる。
「何か、ちょうだい」
アルタイルとは神経を通してつながっている。
私が思っていることは全てアルタイルに筒抜けだ。あえて言葉に出さなくとも私が聞きたいことは知っているはず。
「あつみんを、信用しすぎるな」
なぜか咄嗟に口を押さえてしまった。
「あつみん?あつみんって誰?」
アリスが尋ねてくる。
「アルタイル、どういうこと?説明して、まだ寝ないで!」
アルタイルからの返答はない。
「ねぇ、おっかさん、あつみんって誰?ねぇ、聞こえてる?」
疑問を吹き飛ばしてもらおうとしたのだが、アルタイルが口にした言葉は真逆のものだった。
疑問がまた増えてしまった。
なぜ、あつみんを信用してはならないのか。
今までもだし今もなお、あつみんは私たちに協力してくれている。
綿加シドウと関係が深いものの、私たちに与えてくれた恩恵のことを考えると、味方だと思いたくなってしまう。
アルタイルはきっと、過去の世界を出る際にあつみんに抱いた疑問が解消されたのだと思う。
そして、導き出されたのが、あつみんを信用しすぎてはならない、というものだ。
アルタイルたち神とは目的が合致しているため、アルタイルの情報の信憑性はかなり高い。
あつみんはどうして私たちに協力してくれているのか、そういえば聞いてこなかった。
またしても生まれる疑問。ここまで思い詰めてしまうことになるとは思ってなかった。
「おっかさーん、おーい、おっかさーん」
考え事はアルタイルに任せよう。
アルタイルの指示待ち人間になってしまうが、彼女は神だ。何も知らない人間の軽はずみな行動より、万物を知っている神の言うことに従った方が丸い。
まずは目先のことに集中しよう。アルタイルは言っていた、目指すはレジスタンスのアジトだと。
「おっかさん!!!」
アリスの大声に耳を殴られ、体がゾクっと震え上がる。
「ど、どうかした?」
振り返ると、口角と共に機嫌を斜めにしたアリスがこちらをじっと見つめてきていた。
「んーっ!なんで一回で気づいてくれなかったの!!」
思い返すと、アリスが何か話していたような気がしなくもないような……
「ごめんごめん、それで何だった?」
走りながらだから聞き逃すのは仕方ないと思っていたのだが、アリスの様子から察するに、何度も反応できていなかったようだ。
「もういい!あとでデネブに訊くから!」
残念、フラれてしまいました。
「本当にごめんって!デネブなんかより、私の方が物知りだよ?」
そんなわけはない。
「わっちなんかよりって言うななのだ!」
トウカとベガ、ヤイチとアレガは性別が同じだからあまり何とも思わなかったけど、アリスの口から少年の声が出てくると、慣れていないせいで返答するのに一瞬だけ間を生んでしまう。
「私の餌にまんまと引っかかるなんて、神も大したことないのね」
デネブは神というより、元気な男の子の方が似合う。
「アルタイル!どういう教育をしてるのだ!?」
アルタイルは絶賛、居眠り中である。
「ふ、ふんッ!バ、バカはよく寝ると聞いたことがあるのだ!」
「バカがなんじゃって?」
寝ていたはずのアルタイルも、「バカ」という餌に引っかかってしまう。
「そ、そんなこと言ってないのだ!」
「何をそんな焦っておる?今起きたばかりじゃから、聞こえとるわけなかろう?」
デネブはアリスの体で悔しがっている。
「あぁ!もういいのだ!わっちも寝るのだ!」
デネブが裏へ戻り、アリスが表に出てくる。
「ファストに何かひどいこと言ってなかった!!?」
この二人、なんだか似ている部分が多いな。
「からかってただけよ」
気づけば、私が表に出てきている。
神同士は共鳴し合うようにできているのかもしれない。
アルタイルは頑なに全てを語ろうとしてくれない。そこにどんな意図が隠されているのか推測することすら困難だ。
信用していると言われたものの、その言葉が偽りなんじゃないかと思い始めてしまっている。少しだけね。
「それにしても、見張りのAIは全くいないのね」
見張りとは名ばかりに、気配すら感じない。
「そりゃ、だって……」
アリスは私の肩に触れてから、指先を天井へと向ける。
「え……どうして……?」
天井には何体ものAIが打ち付けられていた。
「ヤイチたちの仕業だよ」
呆れたようにアリスが呟く。
「あたしがおっかさんの元に向かってる時も、満面の笑みで次から次へとAIたちを跳ね飛ばしてたんだよね」
操縦者が操縦者だしな……あれ?
「ヤイチに会ったの?」
「会っては、ないかな」
アリスの話に耳を傾ける。
「すれ違いはしたけど、ヤイチはあたしに気づかなかった。まぁ、しずかーに移動してたからってのもあるけど、一瞬だけでも、アイコンタクトだけでもできたらなって思ってはいたね。でも、そんなことされたらおっかさんそっちのけでヤイチに飛びついちゃってたかも!」
やはり、アリスは大人の階段を登っている。
「……ん?手はもういいの?」
アリスの優しさを無駄にはさせたくない。
「腕、大きく速く振った方が速く走れるんでしょ?」
私はアリスの手を離し、全速力でヤイチの元へ向かう。
「おっかさんの手、温かかったなぁ」
娘の成長は喜んでなんぼ。娘を信じられないような親は、絶対恒河沙不合格だ。




