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ワタガシはかたい

 監獄という奥に細長い空間で、前方には無数のAIが、すぐ後ろにはワタガシが配置されている。

 ワタガシからはとても重い緊張感を与えられ、一歩を踏み出すのも躊躇ってしまうほどだ。

 しかし、前方から迫ってくるAIたちから逃げなければ、八つ裂きになってしまう。

 結論、現状は最悪だ。


「ねぇ」


 顔を振り向かせずに口を開く。


「私が、私たちが協力してあげよっか?」


 ワタガシに尋ねる。


「私は人間のそういう上からな態度が気に食わない」

「ごめんなさい、訂正するわ。協力するから、私たちの命までは奪わないでください」


 最悪な現状を打破できるほどの力を持ち合わせているわけではない。

 無理に対抗するのではなく、落ち着いた状況に持っていくのが先決だ。

 命乞いをするのはカッコ悪いが、ワタガシの発言を聞く限り、彼らは被害者の立場にいる。

 私たち側からしてみれば彼らは敵ではないので、手を出すことなく、可能であるのなら協力関係に持っていきたいと思っている。

 まぁ、アルタイルが出てきてくれれば万事解決しそうだけど、未だに起きる気配は感じられない。


「誰が命を奪うと言った?」


 私は口を滑らさないように、慎重に言葉を選びながら吐き出す。


「この状況、私のことを狙ってるとしか思えないけど?」

「いきすぎた妄想はやめてくれ。さっきも言ったが私たちは中身が空っぽなんだ。そのため模倣する対象がいなくては人間になることはできない」

「だから、協力はするって」

「協力なんかいらない。私たちは私たちでなんとかできると証明するんだ」


 ワタガシは私たちと対等な立場を築くことを嫌がっている。

 あくまでAIがピラミッドの頂点に君臨することが最低条件。

 そして、AIを中身まで人間にさせるために私を用いると。

 つまり、ワタガシの言う通り命まで奪られることはない。


「じゃあ、あの子たちは寸前で止まってくれるのよね?」


 AIたちは血眼になって、よだれのようなものを口から飛ばしながら向かってきている。まるで、一ヶ月餌を与えられなかった獅子のようだ。


「いや?」


 想定していた答えと違い、ワタガシの口からは否定の言葉が飛び出てきた。


「だって、私の命は奪らないんじゃ」

「いつ、彼らがお前のことを狙って走り出したと言った?」


 突然、脳裏にヤイチたちの顔が浮かんでくる。


「お前と私の格付けはすでに済んでいる。彼らは別の場所に向かわせている。AIとしての地位を確保してもらうためにな」


 AIたちの狙いは鼻っから私なんかじゃなかった。

 私の背後の奥へと進んでいったヤイチたちだったようだ。


「ほう?」


 つまり、現状はワタガシと一対一ということになる。


「人間、舐めんなよ?」


 緊張感を背負いながら振り向き、ワタガシの左手首を強く掴む。


「それで、次はどうする?」


 煽るような言葉を投げられる。


「次は……」


 喧嘩なんかしたことない。人を殴ったこともない。

 そういうことは言葉をうまく使えない人がする愚行だと思っていた。

 けれど、その考えは今、改めさせられた。

 自分がどれだけ言葉を巧みに操ろうとも、受け取る側が拒否してしまえば、言葉での和解は難を極める。

 時間が限られてる現状で、時間をかけて言葉を利用するのは愚策だ。

 今日、私は人を、人の形をしたAIを初めて殴る。


「かった!!!」


 殴ったはいいものの、ワタガシの肌は名前に反してとても硬く、かえって私の拳の方がダメージを喰らう形となってしまった。


「協力関係はこれで結ばられることはなくなったな」


 ずる!!!


「卑怯だ!」

「これも人間らしい、だろ?」


 私からしてみれば、AIだって区別されてるだけであって、人間と言われれば人間なのに。

 私の思うところでは、名前による区別のせいでAIは人間になれずにいる。

 二者をうまくまとめた言葉があれば、それを用いることで万事解決……しそうだなと思ったり思わなかったり。


「まぁ、ゆっくりしようじゃないか。リミットはリセットされたんだし、急ぐ必要はないだろう?」


 無数の足音が横を通り過ぎ、ヤイチたちの向かった奥へと去っていく。

 ワタガシの言った通りだ。途中で思考を変えた可能性はあるが、私のことを狙っていないというのは事実だった。


「私はリセットされた。だけど、アリスはリセットされてないし、リミットが来ても来なくても次に向かうのは自然とソウルターミナル。一緒に向かう必要があるのよ」


 ヒリヒリと痛む右手を振りながら答える。


「私たちには関係のないことだ」

「関係あるわよ?」


 ワタガシの眉がピクリと動いた。


「どういうことだ?」


 ワタガシが私の思考に興味を抱き始めてくれた。


「綿加シドウが世界として生まれてしまうと、この先も永遠とAIと人間は争い続けることになるのよ」

「だから、今から優劣をつけて上位に位置付けようとしているのだ」

「そこが間違ってるのよ」

「はっきりと言ってくれないとわからない」


 やっぱり、AIと接しているとわかってても、受け答えや反応が人間すぎている。

 AIという言葉はもういらないんじゃないかな。それをひっくるめて人間と呼ぶのも少し違う気がするけど。


「ピラミッドのない世界にすればいいのよ」

「ピラミッド?」

「上下関係って意味」


 カースト制度なんてものは、きっと神が作ったものではないし、想定していなかったものだと思う。

 人間によって生成された愚かなもの。上下関係なんてものは、上の者が下の者を見下ろして気持ちよくなるためのものである。

 上に対して伸ばすのではなく、横に対して伸びるような、そんな関係を築くことができれば、誰にだって優しくすることができるし、いじめや暴動が起きることもなくなる。

 些細なことで喧嘩は起こるかもしれないけど、優劣や上下がなくなれば、次のステージに発展することはなくなる。

 まぁ、これは私が夢見る理想郷に過ぎないのだけれど。


「私たちが上に立つ。私の考えは変わらない」

「違う、違いすぎるわ。あなたたちと、私たちで一緒に上に立つのよ。どうしていちいちプライドが高いのよ」

「人間──」

「それは言い訳でしょ!自由に生きたいんじゃなかったの!?今まで綿加シドウに縛られてたから解放されたいんじゃないの!?方法を間違えたら全て元通りになるのよ!」


 ワタガシは完全に被害者だ。この世界に生み落とされ、その瞬間から人間の奴隷として働かされている。

 人間に対して恨み辛みがあるのは心苦しいほど理解できる。

 けれど、それを復讐心に変えるだけじゃ、世界は簡単に変わらない。

 世界はどこまでも非情なのだから。


「……だとしても、私は私の見つけたやり方でやる。これが私の考える自由だ」


 ワタガシは名前に反して、頭が硬いようだ。


「……はぁ、わかったわ。私を好きに動かしなさい。好きに使いなさい。そして、それが愚行だと気づきやがれ、クソ野郎」


 アルタイル、早く目を覚まして。

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