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 背後から伝わる緊張感は、綿加シドウにそっくりなことからワタガシだということは見なくてもわかる。

 綿加シドウは世界としての器形成のため、ソウルターミナルを離れることができない。

 そのため、他の世界を監視することができないと考えた彼はクローンを生成し、各世界へ飛ばすという策をとった。

 ワタガシ。綿加シドウといずみんが共同で生み出したAI。綿加シドウの神経と直結している。

 どの世界にもいるため警戒しないといけなかったものの、初めて訪れた世界故に、その考えがすっかり抜けてしまっていた。


「第三勢力、とは?」


 囁くような声で尋ねられる。


「あなたも知らないの?」


 ワタガシは小さく唸り声を上げている。

 この様子だと知らないようだ。

 あつみんによると、綿加シドウは死んでいない。それなのに、過去の世界のワタガシは指示に背くように行動していた。


「ねぇ、あなたはどっちなの?」


 ワタガシはため息をつく。


「またその質問か?」

「さっきの意味とは全く違うわ」

「……と言うと?」

「指示に従ってるのか、自らの意思での行動なのか、あなたはどっち?」


 ワタガシはフン、と鼻を鳴らす。


「お前に有利な情報なのか?」

「気になるから知りたいだけ。だから、まぁ、有利っちゃ有利ということになるわね」

「なるほど、そうか」


 言い終えると、私の肩から重みが消えていく、


「私の元に指示は届いていない。しかし、自分の意思で動いているかはわからない。これが答えだ」


 ワタガシはあっさり教えてくれた。


「根拠は?どうしてわかったの?」


 緊張感に逆らうように振り返りながら尋ねる。


「こうしたんだ」


 すると、ワタガシは自身の左腕を引っこ抜いた。


「ちょ!や、やめてよ、いきなり!痛いって!いや、痛いどころじゃ済まないやつだけど!」


 ワタガシは何もなかったかのように左腕を元に戻す。


「そう、普通はそういう反応がオリジナルから届くはずなんだ」


 ワタガシは接合部分である肩をさすりながら口を動かしている。


「綿加シドウも普通の人間みたいに驚くのね」

「……さすがに同じような驚き方はしないがな」


 当たり前のように訂正された。


「最初に腕が外れたのは事故によるものだが、その時に気付かされた。私たちは見捨てられたのだと」

「どうして?綿加シドウはあなたたちを見捨てる必要なくない?」

「多くの世界に私たちを配置する必要がなくなったと捉えることも可能だ」

「つまり、綿加シドウが世界になる日がもうすぐだってこと?」


 ワタガシは小さく頷く。


「でも、どうしてそんなこと急に教える気になったの?さっきまで『私について話すことはない』なんて言ってたのに」


 ワタガシの視線が一瞬、私から外れて背後にいる生徒たちには向かった。


「自由に、生きてみたい」


 その言葉を耳にした瞬間、頭の中にかかっていたモヤが一斉に消え、どこまでも続く青空に成り変わった。


「私たちは中身が空っぽかもしれない。しかし、空っぽということは何でも詰め込めるということでもある。外側だけは一丁前に人間なのに、中身はAIなんてのは、どの時代でも居心地が悪いものだ。外側だけではなく、中身も人間になれるような、そんな生き方をしてみたい」


 私はこんな表情のワタガシを見たことがない。

 オリジナルである綿加シドウでさえ、建前としての笑顔しか見たことがない。

 今、私の目の前にいるワタガシは、比喩表現ではなく、まさしく太陽そのものだ。


「人間と変わらない対応してるから、気にしなくていいのに」


 私を蝕むように襲っていた緊張感は、いつの間にか風に吹き飛ばされていたみたいだ。


「つまり、私たちに協力してくれるってこと?」


 生徒たちの様子を窺うべく、ワタガシに背中を向けながら尋ねる。


「……誰もそんなこと言ってないじゃないか」


 一瞬。その一瞬の気の緩みが、私の最大の弱点のようだ。


「なん──」


 ワタガシの腕によって、首を強く締め上げられてしまう。


「私が尋ねる問いに、肯定なら一度、否定なら二度、私の腹部を触れ」


 今にも閉じてしまいそうな瞳には、傷ついていく生徒たちが映る。


「触れ」


 こんな状態でまともに話が聞けるわけないのに、ワタガシは容赦なく腕に力を加えていく。


「よし」


 こんなところで命を落とすわけにはいかない。

 力は全く入らないが、軽くて小さい拳をつくり、なんとかワタガシの腹部に触れることができた。


「第三勢力について、お前は詳しく知っているか?」


 ゆっくりと、拳を二度、腹部に触れさせる。


「彼らを従えてるのはお前か?」


 元々はヤイチ、もといアレガが従えていたが、今は私たちのことを信仰している。

 説明はできないが、現在のことで考えたら答えはイェスだ。


「アルタイルは眠っているのか?」


 拳を一度、触れさせる。


「っはぁ、はぁ、げほっ、はぁ……どうして、そのままでも、答えてあげるのに」


 突然、ワタガシの腕から解放された。

 私は崩れるように膝をつき、地面と頬を出合わせる。


「格付けだ。私たちはお前らの味方ではない。もちろん、協力なんてしない。言っただろう、自由に生きたい、と」

「だとしても、私を殺そうとしてまで訊きたかった質問でもなさそうなのに、どうして」


 ワタガシは視線を生徒たちへ向ける。


「向こうを見ればわかる」


 生徒たちの方を見ると、さっきまで争っていたはずなのに、見張りのAIと同じ向きで立っている。


「私たちが人間となるのなら、過去の人間はもう不要だ」


 ゆっくりと、見張りと生徒たちがこっちへ向かってくる。


「さぁ、そろそろ幕を下ろす時が来た」


 AIたちは腰を低く落とす。


「終わらせるんだよ、最高に醜くて最高に美しいこの戦争をなッ!!!」


 ワタガシの言葉を引き金に、AIたちが一斉にこちらに向かって走り出す。

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