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鼓舞激励

 アレガは防御面や逃走本能において長けており、ベガはその点なんの特徴もない。この話は以前、アルタイルから聞いていた。

 しかし、肝心のアルタイルについての話は一切なかった。私が持ちかけようとしてもその度にはぐらかされたり、無視するように眠りについてしまうことばかりだった。

 だから、私がこういう状況になっても何ができるのかがわからない。

 炬燵シロコの長所は?と問われると、私には状況整理の早さとそれに応じた指示や合図を出すことができる点、と答えるようにしている。

 している、というか、教員採用試験の際に答えた一度きりではあるのだけど。

 それは自分を持ち上げた表現ではなく、客観的に見てもそうなんだろうなと思う部分であり、他人よりも状況を飲み込む早さにはかなりの自信がある。

 今みたいな非現実な状況においては例外として扱ってもらいたいが、それでも一般人よりかは溶け込むのが早いと自覚している。


「ねぇ、このままじゃ追いつかれ──」


 私の長所は、いつからか失われていたみたいだ。

 状況を整理することなく、まずは他人から情報を聞き出す。まるで順序が違う。

 きっと、子どもから大人に変わる時、下手にミスや間違いを犯さないように自分の判断ではなく、過去のデータや人からの伝聞によって判断するようになっていた。

 こんな時にそんなことを思い出させられるとは思ってなかった。

 頭の中にモヤがかかりすぎて、今にも雨が降り出しそうだ。


「何か言った?」


 声を聞かれていないと思ったが、走っているあつみんには届いていたようだ。


「独り言よ」


 私の中で眠っているのはアルタイルだけじゃない。本来の私も眠っている。

 アルタイルを起こす方法は知らない。けれど、本来の私を起こす方法なら知ってる。

 それはもう数秒前にやっていることで、本来の私を失ったことに気づくことだ。


「なんでそうもまた立ち止まるのよ!」


 あつみんは走り続けながら、顔だけ振り向かせ声を大にして訊いてくる。


「ここは私に任せて!」


 私たちが行く先の見張りに関してはヤイチたちが何とかしてくれる。

 背後から迫ってくる見張りたちを何とかすれば私たちは安全に目的地まで向かうことができる。

 あつみんと私、知識の量でいったら間違いなくあつみんに軍配が上がる。けれど、この状況下において的確な信号を生徒たちに送ることで現状を打破する力があるのは、私だ。


「何をする気!?」


 あつみんの声が遠くなっていく。


「あつみんはそのまま走り続けて!ヤイチの身に何かあったらお願い!それと、アリスと会ったら、トウカも無事だと伝えて!」


 私は背中であつみんに答える。


「さて、君たち!先生の言うことは絶対よ!」


 あつみんは止まることなく走り去ってくれた。

 ヤイチの件は任せないといけないにしても、アリスにはいずれ会うことができるんだし、伝言まで頼む必要はなかった。

 けれど、あつみんはやるべきことはしっかりとこなすタイプの人種だ。人にものを頼まれたら断れず、必ず遂行してくれる責任感のある女の子だ。

 それを逆手にとって目的地でのやって欲しいことを伝えた。おかげで危険な目に遭わすことなく、変に気を遣わせることなく、この場から離れてくれた。

 もしかしたら、私の気持ちを理解してくれたのかもしれないけど、そこまで信頼するのに私たちはまだお互いを知らなさすぎる。


「絶対にケガするんじゃないわよ!」


 保健室の先生として、十五年ほど高校に勤めていた。

 保健室の先生になる前は、子どもたちの心身を癒す場だと思っていた。

 生徒たちが訪れ、ケガの手当てをしたり、メンタルケアをしたり、色々してきた。

 けれど、たくさんの生徒を見ていくうちにとある理想が私の中で生まれた。


 ──ケガなんてしない方がいい。


 当たり前なことだけど、ケガなんてしない方がいい。心の底からそう思っていた。

 そう思ったところで保健室を利用する生徒の数は増減を繰り返すも、大きく変化することはなかった。

 そこで私はあの実験を行う決心がついたと思うと、少しバカだったなと思ってしまう。

 今、目の前にいる生徒たちには傷ついてほしくない。たとえ、中身が入っていないとしても、見てくれは私が何千人と見てきた生徒と変わらない。

 傷ついたのなら癒すことはできるけど、治すことはできない。

 だから、忠告として声を大にして彼らに伝えた。


「それくらい自分を大事にしなきゃいけないんだからね!」


 自分にも言い聞かせるように忠告する。


「んじゃ、死なない程度に暴れなさい」


 そして、最後には好きにさせる。これが私の流儀。


「さて、私はゆっくりとティータイムを……ティータイム?」


 自分に似つかわしくない言葉が口から飛び出て、咄嗟に口を押さえる。


「アルタイル……じゃないわよね」


 名前を呼んだのに、アルタイルからの返事はない。

 つまり、今の言葉は私の言葉であるということになる。

 今の現象に対して不気味に思いながらも、生徒たちが見張りのAIに対して猿のように群がる姿を見つめる。


「この子たちは本当に何者なのよ……」


 人間のようで人間ではなく、AIというには一貫性がない。

 唯一わかることと言えば、神の命令には従うということ。

 これは彼らが望んでいることなのか、私たちが強要していることなのかは定かではない。


「知りたいか?」


 誰かの手が肩を掴んでくる感触、低くて太い声、異様な緊張感が唐突に、一斉に降りかかってくる。


「あなたは、どっちなの……?」


 振り返らず、背後の人物に尋ねる。


「まずは私の質問に答えろ」

「……私はどちらでも構わない。それよりも、あなたについて訊きたい」


 降りかかる災難に私の鼓動は遅れて気づき、速度を増す。


「私について話すことはない。過去の世界の私と同じだ」


 背後の人物はそう答える。


「第三勢力……ということなの、ワタガシ?」


 正面から聞こえてくる金属音と、背後から伝わってくる悪寒のせいで、少しばかり両手がかじかんでしまっている。

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