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姉妹

 アレガがやってきたということで身構えていたのだが、やってくるや否や着地に失敗して意識を失ってしまっている。

 着地の失敗が直接の原因ではなく、次々とここへやってきた無数の生徒たちの下敷きになったことが主な原因になっているようだ。


「この山、どうするの?」


 ヤイチの上に無数の生徒が山となって積まれている。

 アレガの意思が宿った肉体なら、痛みも痒みも何も感じないのだろうけど、見た目がヤイチなだけあって、心配が勝ってしまう。


「アレガの意思は勝手に働いてるから、それに気づけば自ずとどいてくれるんじゃない?」


 ユキノさんの言った通りだった。

 その言葉のすぐ後から、組体操のピラミッドを完成させた後のように、上から順番に生徒たちが降りていく。

 私たちは仕方なくそれを見守ることしかできない。私たちの目的は、最下層且つ最奥部にいるヤイチだからだ。

 彼が姿を現すまで、私たちにできることは待つことだけ。緊張感を持っていただけに、ドッと疲れが押し寄せてくる。


「おっかさん?」


 疲れを感じただけで、表に出していないはずなんだけど、トウカには察されたみたいだ。


「どうかした?」

「それは私のセリフなんだけど」

「私は大丈夫だから」


 私は甘え方を知らない。甘えるという行為自体、いらないものだと思っている。

 甘えるなんて、自分が辛い、苦しい、もうダメ、諦めたいという意思の弱さが生み出す行為であり、人間の弱さと直結するから、私は嫌いだ。


「本当はそんなこと思ってないくせに」


 アルタイルが飛び出てくる。


「あ、それって」


 トウカが私と自身とを交互に指差す。


「話は聞いてると思うけど、私たちには同じように神が宿ってる。ヤイチやアリスも同じようにね」


 色んな人と出会ってきたわけで、トウカ自身もベガと仲良くやっているようだし、基本的なことは認知していそうだ。


「でも、どうして私にも?」


 トウカが質問した時、ピラミッドの中層に差し掛かったあたりから一人の少女が顔を出したのが見えた。


「あ」


 ヤイチが抱えていたのが少女だというのは見えていたが、それが誰なのかははっきりとわかっていなかった。

 今この距離でなら顔がはっきりと見える。そして、彼女が私の初めての友達であり、初めての後輩であることも瞬時にわかった。


「あ!!!!!」


 私の声を遥かに上回る声量で指さしてきたのは、鮫田カンナだった。


「シロコ!」


 私の名を叫ぶと、ピラミッドの傾斜を全力で走ってくる。


「シロコシロコシロコシロコ!!!!」


 走ってるうちに足が絡まり、カンナはコロコロと団子のように転がり始める。


「んーーーー!シロコ!!!」


 転がっていたカンナは私の目の前で止まり、両手を大きく広げて抱きついてきた。


「苦しいよ、カンナ」

「無事でよかったよ、シロコ……」


 カンナの瞳から涙が溢れそうになっている。


「喜んでくれるのは嬉しいけど、甘噛みはやめて。普通に痛いから」


 カンナは感情を抑えようとすると、何かに噛み付くという修正があった。

 今は涙を堪えようとして私の腕に噛みついている。普通に出血しているし、普通にめちゃくちゃ痛い。


「でも、ありがとね」

「ご、ごごご、ごめんなさい」


 感謝をしたのだが、返ってきたのは謝罪だった。

 カンナはその場の感情で行動したり発言したりするタイプだ。要するに、あまり周りが見えていない。

 私はそれが懸念で仕方なくて、何かカンナがやらかしてしまう度に叱っていた。だから今もこうやって謝ってきているというわけだ。


「今は何も気にしてないから、そんなに謝らないで」


 強くしつけすぎたかもしれない。少しだけ申し訳なく思う。

 長い間カンナと過ごしてきて、友達ではなく妹のような存在になっている。

 カンナが私のことをどう見ているのかはわからない。おそらく怖い人という認識なのだろう。

 姉妹を知らない私だったけど、アリスとトウカの掛け合いを見ていると、私とカンナに通ずるものが見受けられた。

 だからきっと、私たちは姉妹のような存在なんだと思う。

 放っておけなくて、そばにいないと心配になるし、何かやらかしても不安になる。けれど、カンナの知識や才能にはいつも嫉妬していた。だから余計に強く叱ってしまっていたかもしれない。

 カンナがいなかったら、間違いなくトウカは私の元から離れてしまっていたであろう。

 言い方は悪いけど、カンナは私にとっての練習台のようなものだった。


「何よその顔は」


 感情に任せた行動をすると、決まって叱っていたため、叱ってこない私を見て目をまん丸に見開いている。


「叱ら……ないの?」

「私だって叱りたくて叱ってたわけじゃないんだから」


 思い返してみれば私もカンナと同じだ。感情に任せてカンナのことを叱っていたのだ。


「そんなことされると、調子に乗っちゃうぞ?」

「人様に迷惑かけたらその分強く叱るからね?」


 強く縛っていたはずのリードが外れてしまいそうになったため、今一度強く縛り直しておく。


「おっかさんって怒ると怖いの?」


 なぜか私にも聞こえる声量でトウカがカンナに耳打ちする。


「やっばいぞ。ほら、叱られると思ってたから右手めっちゃ震えてるだろ?」


 いや震えすぎだろ。私って自分が思う以上に強く叱ってたりする?え、この無自覚もしかしてやばい?もう少し控えめにした方がいいかも?


「シロコさん」


 崩れゆくピラミッドを注視してくれていたユキノさんから声がかかる。


「そろそろ顔を出す頃合いね」


 ピラミッドの最下層から生徒たちが掃けていき、仰向けに倒れているヤイチが姿を現す。


「……まだ眠ってるみたいね」


 遠くから声をかけてみるも反応はない。私たちは恐る恐る近づいてみることにした。


「うんともすんともしないね」


 トウカがヤイチの顔をつんつん突きながら呟く。


「無理に起こしてみる?」


 ユキノさんが提案してくる。


「……ありだな」

「無しでしょ!」


 精神的に参らせるには寝起きを悪くさせるのが一番だ。そう思って賛同したのだが、どうやらトウカは反対みたいだ。


「先輩が可哀想じゃん!」


 結果、トウカの一声で無理に目覚めさせるのは却下となりました。

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