神をやめてもらいたい
「なんで上から目線なのじゃ」
ヤイチが目を覚まし、メンタルを不安定にさせ、アレガを目覚めさせることに成功した。
すると、たちまちヤイチの姿は幼くなっていき、過去に一度写真で見たことのあるヤイチの幼少期とそっくりだ。
役目を果たしたことで私は裏へ回り、アルタイルを表に出させた。
「序列は守ってもらいたい。ルールだろ?」
「そんなの、アレガが勝手に決めたことじゃろ。わらわたちにも適用されると思わないでほしいところじゃが」
「世界と一緒に決めたのを覚えてないのか?」
「覚えておらん」
「記憶力が乏しいやつめ。そこがアルタイル、君の弱さだ」
「優劣は今から決めれば良いものじゃ」
「どの口が言うか」
「ケンカは、やーめーてー!!!」
トウカの見た目をしたベガが、アルタイルとアレガの間に割って入ってきた。
「優劣を決める最中だぞ、邪魔するな」
「今はまだベガのターンではないぞ」
「そういう問題じゃない!優劣とかなんとか決める必要もない!わらわたちは同じ神でしょ?争う必要なんてないじゃん!」
ベガの言う通りなのだが、今は正論を振りかざす時じゃない。アレガの力を抑制しないと、ヤイチが帰ってこれなくなってしまう。
そのためにアルタイルは優劣を付けようとしているのに、ベガはそれを必死に止めようとしている。ベガはどこまでも優しい神のようだ。もしかしたら、神は自分に似た人間に意志を宿すのかもしれない。
「ベガ、今はそういう時間じゃないんじゃ。少し落ち着──」
「この状況で落ち着いていられると思う!?好きな人と好きな人が争うなんて、わらわ見たくないんだけど!!!」
「寝ぼけたことを言うな」
「さっきまで寝てたアレガに言われたくないね!!!」
ベガはそっぽを向いてしまった。
「このまま訳のわからん話し合いを続けるか否か決めてくれ。答えによっては再び眠りにつかせてもらうぞ」
「ふ、ふーん。そう言って逃げるんじゃな?」
「だーかーらっ!アルタイルは煽らないのっ……へゃっ!?」
ベガは突然驚く様子を見せると、そそくさと私たちと距離を取り出す。
「ベガ、落ち着いて聞いてね。今、私たちは……」
微かに聞こえてくるこの声は間違いなくトウカだ。ベガのあまりの話の聞いてなさに見かねてトウカが状況を説明してくれているみたいだ。
「邪魔者はいなくなったが、争うとかいう気分ではなくなった。悪いが眠らせてもらうぞ」
「逃げたってことで、わらわの勝ちでいいか?」
「構わん、好きにしてくれ」
アレガはあっさりと負けを認めて目を瞑った。
「……寝れん」
ボソッと呟き、アレガは瞼を上げた。
「寝てよ」
アルタイルは語気を強めて言う。
「寝れんもんは寝れん。体を動かしたら眠気がくるかもしれんな。ということで、争いを始めよう」
アレガは煽るように指をくねくねさせている。
「そういう気分じゃないんじゃなかったのでは?」
「神というのは気まぐれな生物だ。アルタイルもそうだろう」
「アレガがそうだからって、一緒にせんでもらえるか?」
争いの火蓋は、切って落とされた。
「まぁ、争いにすらならんと思うがな」
アルタイルが距離を詰めようとすると、アレガは高々と浮かび上がる。
「そういえば、昔っから追いかけっこ好きだったな」
アレガの後を追うように、アルタイルも空中に身を投げるが、アレガに追いつく気配は全くない。
「長い年月が経ったとはいえ、成長の速さが顕著に現れるのはどうも悲しいことだな」
「嘆いていられるのも今のうちじゃ!」
アルタイルはそう意気込むも、アレガに翻弄されるだけで一瞬たりとも触れることすらできずにいる。
「ふぁ〜あ、あ、あくび出たってことは眠気がきたってことだな」
「そうやってまた逃げるのか?」
「"また"?」
「わらわたちが初めて邂逅した時、よく逃げ出しておったろ?」
「わらわが?記憶力が乏しいにも程があるぞ」
「それはこっちのセリフじゃ」
「逃げ出してなどしておらん。低俗な神と同じ身分にいることが恥ずかしくて避けておっただけだ」
「逃げるも避けるも同じことじゃろ!」
「そう思うならそう思ってもらって構わん。追いかけっこももう終いだ」
アレガが目を瞑るまでの間のコンマ数秒、アルタイルはこれでもかというほどにギアを上げ、距離を詰める。
しかし、明らかに時間が足りない。
それでもアルタイルは速度を緩めることなく、アレガの元に詰め寄る。
ゆっくり閉じゆく瞳の上下のまつ毛が出会った時、アレガの背後から近づいてくる影が瞳に映った。
「逃げないでよ!避けないでよ!目を背けないでよ!みっともない!!!カッコ悪いよ!!???」
アルタイルが触れることすら叶わなかったアレガの胴体に、ベガががっしりと抱きついた。
「んぁ?」
入眠したと思っていたアレガの頭はうまく働いていないらしく、困惑の表情を浮かべている。
「何その反応!!もしかして、今言ったこと聞いてなかったとか言わないよね!!?」
それぞれの神がどんなことを得意としているかはアルタイルから聞いていた。
アレガは対象の思考を読むことができるため、逃げることや守ることに長けている。
ベガは……特にないらしい。特筆すべき点はなく、神という名を持つ人間みたいな存在だと言っていた。
そんなベガがアレガを捕まえたことに、アルタイルは心の底から驚いているようだ。ひしひしと伝わってくる。
「離せよ」
「離さない」
「離せって」
「離さないから!!!離したらまた逃げるんでしょ!絶対に逃さないんだからね!!」
捕まえてしまえばこっちのもの。逃げることのできなくなったアレガは、ベガ同様にただの神だ。
「……ここまでして、何が目的なんだ?」
アレガが睨みながらアルタイルに尋ねる。
「神をやめてもらいたい」
その場の誰もが聞かされていなかった提案に、辺りに静けさが降り注ぐ。




