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アラーム

 校門に戻ると、鮫田カンナは生徒たちと同様に水中から顔を出しているだけになっていた。


「だ、大丈夫か?」


 隣に立ち、声をかける。


「それ、どういう原理で立ってるの?」


 答えるよりも先に、質問が飛んでくる。


「足が沈む前に足上げてるんだよ」

「へぇー」


 訊いてきたんならもっと興味示せよ!!!


「それで、大丈夫なの?」

「大丈夫に見える?」

「見えないから確認のために訊いたんだけど」


 鮫田カンナは口元まで沈ませ、ブクブクさせている。どうやら機嫌を損ねているようだ。


「手も足も出ない」

「あんたが出すのは牙じゃないのか?」


 彼女の目がギロっとこっちに向かう。


「キバでもヒレでもなんでもいい。なんでもいいのに、何もできなかった」


 鮫田カンナは全身を水中に沈める。


「あんたは召使いをどうしたいんだ?」


 水中から浮いてくる泡が空中に飛び出し、割れたと思ったら声が弾けて聞こえてくる。


「捕まえたい」

「それから?」

「謝らせたい」

「誰に?」

「シロコに」


 鮫田カンナは水中に身を潜めたまま、質問に答えてくれる。


「どうしてシロコさんに謝らせたいんだ?」

「シロコが苦しい思いしてるだろうから」

「幽閉されてるのはワタガシのせいじゃないのか?」

「最後にそうしたのはワタガシ。でも、そうなるように仕向けていたのはアイツなんだよ」


 なるほどな。鮫田カンナが何をしたいのか理解できたし、それが叶わなくて機嫌を損ねてるってわけね。


「で、俺にどうして欲しいわけ?」


 鮫田カンナが水中から顔を出す。その表情は驚きと希望を含んでおり、まんまるの瞳を向けられている。


「何ができるの?」

「何でも?」

「まるでアイツみたいなこと言うんだな」

「俺は俺だよ。召使いじゃなくて、オチヤだよ」


 彼女は瞬きをして、いつもの表情に戻す。


「じゃあ、僕に協力して」

「そのつもりで来たからね」

「とにかく、生きたまま行動不能にできたらそれで満足」

「二人ならできる?」

「一人でもできた」

「できなかったじゃん」

「うるさいっ!」


 鮫田カンナはバシャバシャさせたせいで、水しぶきが全身にかかってしまった。


「あーあ、風邪ひいちゃうな」

「本当に任せていいんだな?」

「うん、いいよ」


 召使いをどうにかしない限り、学校の外から出ることはできない。

 学校の世界が召使いを脅威だと思わなければ、校門は開かれる。

 鮫田カンナと目的は一致しているわけだが、彼女の素性を全く知らない。

 鮫のように泳ぎ、鮫のような牙を持ち、鮫のように肉を求める。文字だけ見れば相当強そうな気がするが、あっさりとコトリの犬にさせられてたし、今回だって手も足も出ないと嘆いていた。

 あまり過信しすぎない方がいいかもな。かと言って俺にできることは限られてくる。バックアップは得意だが、メインとなって目標を攻撃できるほどの力は持ち合わせていない。


「なぁ、俺の腕に」

「カンナでいい」

「カンナ、俺の腕に噛みついてくれないか?」


 カンナの牙にどれほどの力があるのか次第で、この戦闘における勝敗が決まるといっても過言ではない。


「何割がいい?」

「もちろん、十割で」

「骨までいっていいのか?」

「あぁ、思う存分噛みついてくれ」


 そう言うと、カンナは口角を上げ、勢いよく空中に飛び出し、左腕に噛み付いてくる。


「いっただっきまーすっ!」


 思っていたよりも深く牙が刺さっていく。


「いっ……」


 俺の体がどれだけ頑丈になろうと、神経が走っているうちは痛みが伴う。体はもっても、痛みによって引き起こされるメンタルへのダメージは軽減されない。

 このレベルの痛みを受け続ければ、精神衰退によって体が潰れてしまいそうだ。


「……やりすぎちゃった?」


 いや、問題ない。十分すぎるパワーだ。これなら召使いに対して有効だろう。

 彼がどれほどの人物なのか知らないが、俺の腕が神経一本しか残らないほどの顎だ。致命傷くらいは与えられるだろう。

 それに、生きたままの捕獲がノルマだ。召使いには簡単に死なれては困る。


「これくらいがちょうどいいな」

「もしかして、そっち系?」

「……目覚めちゃったかもな」


 ダメージが無かったように見えていたが、実際にはただ回復するスピードが人間の数百倍にまで跳ね上がっていただけのようだ。

 コトリが背中に降ってきた時、明らかに肋骨は複雑骨折していた。相応の痛みも感じた。けれど、ものの数秒で何事もなかったかのように立ち上がることができた。

 今だってそうだ。ぶらぶらさせていた腕がカンナと話しているうちに回復し、傷ひとつ残っていない。


「なんでっ!?どうしてっ!?すっごっ!?」


 カンナさん、俺の腕触るのはいいんだけど、噛み付くのはもうやめてくれない?痛いんだわ、普通に。


「知ってるでしょ、タナバタにいたんなら」

「タナバタ?」

「タナバタだよ、綿加シドウと一緒にいた組織の名前だよ」


 カンナは腕を組んで、思い出そうとしている。

 思い出したかと思えば違い、思い出したかと思えば違い……を延々と繰り返している。


「それ、本当に僕のこと?」


 頷いて肯定する。


「あーっ!そうだっ!」


 ようやく思い出したのか、手のひらをポンっ、と叩く。


「僕、記憶力ないんだ!一つの指示を出されると、それ以外のほとんど忘れちゃうんだよねっ!」


 ほう。


「つまり、タナバタなんて組織は知らないし、綿加シドウも知らないと?」

「シドウは知ってるよ。僕の同僚だもん。忘れるわけないよ」


 シロコさんのことを覚えてたのも同じ要領ってとこかな。


「シドウの指示に従ってるんだもん。忘れたら元も子もないよ。でも、今は彼に怒りをぶつけたいと思ってる」

「シロコさんのこと?」


 カンナは静かに頷く。


「じゃあ、とっととここから出ないとな」


 上空に浮かぶ召使いに視線を向けようとした時だった。


 ──ドクン


 突然、鼓動が重く動いた。今までに感じたことがないほどにのしかかってくるような心臓の動きだった。

 重く響いたのはその一瞬だけだったために、気のせいだと思うことにした。深く考えていては行動に支障が出てしまう。

 このことは後回しにしよう。今はとにかく、召使いをなんとかして、学校から出ることが最優先だ。

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