↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破滅の英雄 ──心を失った亡命王女が触れたもの──  作者: 綾沢恵理子
第1章 キャフリル王国の秘密

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/7

3、隠された魔導書


 城の図書室で、掃除係の男ジェームズはまた王女を見かけた。今年で十五歳になったラーナ王女は男の気配に気がつくと、本を閉じて、シンプルなドレスを少し持ち上げてからこう言葉をかけた。


「いつもありがとうございます」


 男は毎度聞いているので慣れてしまったが、王女が小さい頃に初めて話しかけてきた時は驚いた。王はもちろん、位の高い者は図書室の掃除係の男など無視を決め込むものだ。それに仕事に関して感謝などされない。いつもは王女に「こちらこそありがとうございます」と礼を述べるところだが、今日は、王女に用事があったので会話を続けることにした。


「王女は私のような者にも話しかけてくださいますね」


 王女はすぐに答える。


「だって人は皆平等だと思ってますから。差をつけるなんて本来おかしいことですよ」


「そうお考えになるなんて、お父様とは違う様子ですね」


「お父様は時々変なことをおっしゃいますわ」


 時々王と王女は言い争うことがあった。王妃も含め仲がいい家族だが、国民や国民の生活に直結することになると意見が分かれることもある。そして王女は王に似たのか自分の意見をしっかり持ってなかなか曲げない。だがまだ未成年の王女だ、最終的には王が政策を判断するので王女の意見は採用されないことの方が多い。最近は不満を覚えることが多くなっていたようだ。


「それにしても今日も図書室にいらっしゃるなんて、王女様は本がお好きですね」


 すると顔を綻ばせて明るい声を出した。


「科学や歴史などたくさんある中で、私は魔法に関する本が好きなのです。特に呪文が書かれた魔導書です。この図書室にある魔導書は多分全部読んでしまいましたわ。ちょうど二回り目をしようと考えていたところです」


 王女ラーナトラヴィアはそう言って自慢げににっこりと笑った。この部屋には万に達する本はある。その中でも魔法の呪文集である魔導書は管理している方も数えきれないほどある。たくさんの魔導書を図書室から借りて、毎晩読み込たがる王女だからこそ、たくさんの魔法を覚えて使えるのだろう。


「でも私がまだ未熟で使えない魔法も多いのです。もっと訓練が必要ですわ」


「さすが王女様ですね」


 ジェームズはその時、あの話をしようと考えた。


「そんなに魔導書がお好きなら、王女にいいことを教えて差し上げましょう」

「いいこと? なんですか?」

「この図書室には『隠された魔導書』があるのです。そこには王族にしか使えないとある魔法が載っていると言われています」


 王女の金色の瞳がぱっと輝いた。思わず手に持っていた本を落としてしまった。


「本当ですか? そんなものがここに?」


「はい。掃除している時に気がついたのです。最後の扉まで行ったのですが、そこは王族の持つ魔力でしか入ることができず、私のような掃除係では行き着くことができなかったのです。王女ならば、必ずその扉を開けて魔導書を手にすることができるでしょう」


「とても気になります」


「ならば……一緒に行きませんか?」


 掃除係のジェームズは王女の目を見た。輝くような金色の瞳には期待と共に不安の色がある。


「でも、お父様に言わなくて大丈夫かしら。護衛はいらないかしら」


「何おっしゃいます。ここは王女のお城でございます。なんの危険がありましょう。それに護衛をつけると大騒ぎになってしまいます。この城の隠されたことなのですよ? ここは二人でこっそりと参りましょう」


「そうね、行きましょう。隠された呪文……なぜ隠されているのかも含めて興味があります」


「さすが王女様、勇敢な方でいらっしゃる」


 では参りましょうか、深々とお辞儀したジェームズに連れられラーナは図書室の階段を昇り、その中央の書棚で足を止めた。梯子でも使わないと最上段の本は取れないほど、高くて大きな書棚には本でびっしり埋まっている。ラーナはもちろんここの本を手にすることもあるような、馴染みの深い書棚だ。ただ左右の書棚と若干木材の質が違うことをジェームズに指摘され、ラーナは初めて気がついた。


「本当だ、こんなのよく気がつきましたね。それだけ念入りに掃除してらしてるってことなのかしら」「ありがとうございます」


 ラーナは本棚の木枠を撫でるように指を当ててみた。埃がついていない。毎日綺麗にされていることがわかる。と、奥の方でギシッと音がしたので手を引っ込めた。


「王女、離れてください」


 ラーナは一歩足を引いた。


 鈍い音を立てながら本棚が後ろに下がり、左隣の本棚の後ろに移動していった。階段が現れる。その奥は暗く何も見えないが、冷たい風が吹きつけてきた。


「こ、これは……」


 思わずラーナは言葉を失っていた。


「人が指で上から四段目の木枠を撫でるとその体温を感知して動き出すようです。王女は今、偶然その仕組みを解いてしまいましたね」


「そんなことが……心臓が音を立てていますわ。この奥にその魔導書が……」


 王女は一歩、引っ込めた足をまた前に出した。


「行きましょう。ここからは光の魔法を使って進みましょう」


 ジェームズは魔法が使えない、そう知っているラーナは、自分が魔法で光を灯し、ジェームズと共に階段をおりて行った。階段はゴツゴツとした石でできていて、空気が埃っぽい。螺旋状になっている古い造りだ。蜘蛛の巣もところどころに張っている。いったい何年にできたものだろうか。そして多くの者がこれに気がつかなかったとみえる。王と王妃は知っていたのだろうか。


「あなたは以前ここに入ったのですか?」


「はい、その時はランプを照らして行きましたよ」


「そうよね、この奥に行ったから例の扉のことを知っているのよね」


 階段を降りきった。石で作られた空間に降りたった。図書室は城の一階にあるから、ここは地下に当たるだろうか。ラーナは部屋の中に広がる光景に、すなおな疑問をぶつけた。


「一体なぜ、こんなに何もかも壊れているのかしら」


 鎧のようなものが、頭がとれて腕がとれている。それも一つだけではない、何体もだ。もともとなんだったのかわからないほど、何かが壊れている。石が崩れている、一体ここはなんの空間なのか。そしてその部屋の奥に扉がある。その重たそうな扉は金の装飾がされて王国の紋章も確認できた。


 周りを確認するようにゆっくり歩き、ジェームズはつき従った。扉まであと少しというところでラーナは足を止めた。


「扉に何か書いてあるわ」


 確かに扉には金のレリーフが施されており、明らかに文章になっていた。魔法で書かれたのだろうか、高度な技術とみえる。


「そうなんです。昔の言葉でしょうか、学のないわたくしにはわかりませんでした。王女様、お分かりになられますか?」


 少し時間を置いてから、息を整えるように言った。


「二つの文章が書かれています。まず一文目は短くて……」


 『立ち去れ』


「立ち去れ、ですか……」


「本当にこの奥に行っても大丈夫なのでしょうか」


 そういう王女の声は、やや震えているようにも聞こえた。そんな王女をよそにジェームズは恐れの色さえ見せない。


「単なる脅しでしょう。そもそも、王族のみが使えるような魔法が隠されているのですから、それ以外の人間に対しての警告でしょう。きっと、そうではない者に対して言っているのです」


「そ、そうよね。私なら、大丈夫ということよね」

「ついでに、わたくしも興奮が抑えきれません」


 扉には取手がある。ラーナはその取手を持ち、押し開いた。


 また冷たい空気が吹きつけてラーナの長い金色の髪を靡かせた。同時に砂埃のようなものが舞い上がり思わず二人を咳き込ませた。この部屋は一体いつ作られ何年閉ざされてきたのだろうか。


「前一度訪れた時はもっと酷かったものです。とても王女様がいられるような状態ではありませんでしたよ。埃っぽいのに慣れているのは、わたくしが掃除係だからかもしれませんね」


 警告を読むことができずにこの部屋に入ったジェームズは、どこか楽しげに当時の感想を言った。三十代くらいのジェームズは、まるで少年のように声を弾ませる。


「この部屋が最後でしたか?」


「はい、この部屋の奥にある扉は、王族しか開けられない様子でした。これは、古語ではなく、現代の言葉で比較的新しい注意書きだったのです。王族の力のみと。ただ、その上に古語で何か書かれていましたが」


 ラーナは部屋を見てみた。また人の石像や鎧が壊れている。この部屋はさっきの鎧ばかりとは違って、一般市民が生活しているような様子が伺えた。そして、それが壊れていた。頭が壊れている、腕がない、床に散らかっている。先ほどの部屋よりも床の崩れ具合が大きい。まるで、大地震が起きたみたいに歪み、崩れ、あるところは剥き出しになっていた。


 子どもを含む家族が食卓を囲んでいるのにその石像が壊れている様子を目にして、思わずラーナはつぶやく。


「なんだか、見ていると気味が悪いですわ。なぜこんなにも壊れているのでしょうか、形がないのでしょうか。なぜ人々はこんな姿に……。何かを表しているようですね。そうだ、扉に文字があるのですよね。それを読めば何かわかるかも」


 ラーナは足元に注意しながら扉に向かっていった。気をつけながらも、常に視界には、一見石の壁のように見える、金の装飾が施さえた扉にあった。


 今度は取手がない。開き扉ではなく……押して開けるタイプだろうか。それはジェームズにもわからない様子だった。


「この扉に触れた時、魔力で守られた扉なのか、わたくしには手が痺れて開けられなくなるのです。それを感じて、思いました。現代語の注意書きの通り、王族しか、開けられないと」


 そうジェームズは早口に言った。夢中になる王女に聞こえているかはわからない。


「この扉は王族しか開けられないようですので、もちろん行ったことはありません。王女、何が書かれてありますか?」


『この部屋の様子を見てもなお、秘密が知りたいか』


「知りたいわ。国民のように見える石像が、なんでこんな姿になっているのか。私は、王女として、これを知らなければならないのだわ」

「さすが、王女様でございます」

「そして、ジェームズさん、もう一つ書かれてします。えっと……」


 ラーナは読み上げた。


『それでも知りたいのならば、手を当てて、王族の魔力をこの扉に授けろ』


 ラーナは壁のように見える扉を指先で撫でてみた。


「この奥に行けばわかるのでしょうね」

「はい、きっとそうでしょう」

「……では、いきます」


 片手を扉に当てる。すると、まず金の装飾が輝き出した。ラーナは目を瞑ることなく、その様子をただ眺める。ラーナの掌が輝き出し、光を放つ。光はまるで石の壁に注ぎ込まれるよう。ラーナは確かに壁が動き出すような鈍い音を耳にした。


 光が消えゆく。石の壁は地響きのような音を立てて、自ら動き出し、石の扉の向こうにある部屋を二人に見せた。


「これは……」


 ラーナは一歩前に出た。


 床も天井も白い壁に囲まれた小さな空間が広がっていた。ここは地下であるのに、白い太陽の光さえ感じられる明るさを持っていた。その部屋には、家具もなければ、壊れた石像もない……たった一つ、中央に佇む石の台を除いては。その上に一冊の本があることを除いては。


 ゴホゴホとラーナとジェームズは咳き込んだ。この部屋も、他の部屋のように埃っぽい。窓もない、誰も立ち入ったような形跡がない、掃除もされていないから空気が悪いのは仕方ない。


「本当に、秘密の部屋なのですね」


 ラーナは台に向かって進みでた。これが、自分が求めていたものだ。


「ここに、本があるようです。これが……」


「隠された魔導書のようですね」


次話の更新は2026年11月4日の朝8時ごろを予定しています。

よろしければまた次もお読みください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。