↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
北王帰還 ――追放された公爵令息は、二十年後に故国を征服する  作者: ゲント・カイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/17

第九章 親殺しの王

ロベルト三世の死は、穏やかな病死として発表された。


 在位三十四年。


 六十三歳。


 戦乱の少ない時代を築き、王国の財政を立て直した名君として、多くの民が喪に服した。


 葬儀の日。


 王太子エドワードは棺の前に立ち、父の死を悼んだ。


 誰も、その涙が偽物だとは思わなかった。


 実際、完全な偽物ではなかった。


 エドワードは父を嫌っていたわけではない。


 尊敬もしていた。


 ただ、父が生きている限り、自分は王ではなかった。


 それだけだった。


 毒は一年半前から使われていた。


 一度に多量なら痕跡が残る。


 少量を薬に混ぜ、心臓と腎臓を少しずつ弱らせた。


 最後の半年、ロベルトは自力で政務を行えなくなり、エドワードが摂政同然の立場となった。


 戴冠式の一か月後。


 エドワード四世は最初の大規模な人事を行った。


 先王の宰相バルディア伯爵を罷免。


 軍務卿を交代。


 司法卿も辞任を迫られた。


 理由は世代交代。


 表向きは穏当だった。


 半年後。


 バルディア伯爵の息子が汚職容疑で逮捕された。


 翌年には父本人も国家機密漏洩の疑いをかけられ、領地へ蟄居。


 軍務卿だった老人は、王命に反したとして処刑された。


 代わって要職へ就いたのは、エドワードに個人的忠誠を誓う者たちだった。


 その中にはオスカー・ヴァレンもいた。


 男爵から伯爵へ。


 王太子府侍従から国務長官へ。


 王の信任を背景に急速に出世した。


 新王妃はセシリアだった。


 アルベルト追放から二年後、ローゼン侯爵家と王家の婚姻が決まり、彼女はエドワードの妃となっていた。


 結婚の日、王都は祝賀に包まれた。


 セシリアは笑っていた。


 王妃として必要な笑みだった。


 しかし、婚礼の夜に一人となった時、侍女に命じて衣装箱の奥から小さな布を取り出した。


 銀の狼が刺繍されている。


 完成していた。


 渡す相手を失っただけだった。


 それから十年以上、彼女はそれを捨てなかった。


 エドワードが王となった頃には、二人の間には三人の子がいた。


 公の場では仲の良い王夫妻に見えた。


 しかし、王宮の奥では会話が減っていた。


「また処刑するのですか」


 ある夜、セシリアは夫に尋ねた。


 翌朝、元財務次官の処刑が予定されていた。


「反逆者だ」


「反対意見を述べただけでしょう」


「王の命令に従わない官僚は反逆者と同じだ」


「あなたは以前、そんなことを言う人ではなかった」


 エドワードは書類から顔を上げた。


「以前?」


「王太子だった頃」


「王太子と王は違う」


「そうでしょうか」


 セシリアは静かに夫を見る。


「アルベルトなら、今のあなたに何と言うでしょう」


 部屋の空気が凍った。


 エドワードはゆっくり立ち上がった。


「二度と、その名を私の前で口にするな」


 セシリアは動かなかった。


「なぜです」


「命令だ」


「あなたはまだ、彼を恐れているのですか」


 エドワードが彼女の頬を打った。


 一度だけだった。


 セシリアは倒れなかった。


 顔を横に向けたまま、長く黙っていた。


 やがて夫を見た。


「……そうなのですね」


 それ以後、二人の間でアルベルトの名が出ることはなかった。


 王国は徐々に変わった。


 秘密警察が作られた。


 密告制度。


 新聞や演劇への検閲。


 地方貴族の私兵削減。


 増税。


 国王直属軍の拡充。


 忠誠を示すための豪華な宮廷儀礼。


 一つ一つは、国家を即座に滅ぼすほどの政策ではなかった。


 しかし十年積み重なれば、人々の息を詰まらせるには十分だった。


 有能な官僚ほど黙るようになった。


 将軍たちは勝つことより、王の機嫌を損ねないことを考えた。


 地方貴族は領民を守るより、王都へ贈り物を送るため税を取り立てた。


 そして王は、それを秩序と呼んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。