第八章 北王
ハーコンが死んだのは、追放から十八年目の冬だった。
病ではなかった。
狩りの帰路、凍った川で馬が足を滑らせ、落馬して胸を強く打った。
三日間生きた。
最後の日、アルベルトとフレイヤを呼んだ。
「次の族長は、お前だ」
アルベルトはすぐには答えなかった。
「フレイヤではなく?」
「こいつは戦うのは上手いが、会議になるとすぐ怒る」
「父上」
「事実だ」
フレイヤは睨んだが、否定しなかった。
「私は南の人間です」
アルベルトが言う。
「もう十八年いる」
「血が違う」
「血で飯が増えるか」
ハーコンは息を整えた。
「お前が来る前、我々は隣の谷へ行くだけでも武器を持った。今は東の海から西の山まで、同じ貨幣が使える。商人が冬でも道を通る。子供が他の部族の言葉を覚える」
「私一人がしたことではありません」
「だからお前なのだ」
老人は目を閉じた。
「一人でやったと思う男には、任せられん」
三日後、ハーコンは死んだ。
葬儀から一か月後。
ヴァルグ族の会議でアルベルトは族長に選ばれた。
さらに翌春、北方連合を構成する十八部族の大会議が開かれた。
そこでも彼は、連合全体の代表に選ばれた。
正式な称号は「大族長」。
しかし南方の商人たちは彼を別の名で呼ぶようになった。
北王。
アルベルトはその呼び名を好まなかった。
「私は王ではない」
そう言うと、フレイヤは笑った。
「王国の王より、多くの土地を治めているのに?」
「王は血統でなるものだ」
「お前を追放した国ではそうかもしれない」
フレイヤは会議場の窓を開けた。
外には、新しく作られた市場が広がっている。
南の商人。
東の毛皮商。
北海沿岸の漁師。
異なる部族の人々が同じ場所で取引している。
「ここでは、皆が選んだ」
アルベルトは返事をしなかった。
二十年近い歳月は、人を変えるには十分だった。
髪にはまだ白いものは少ない。
しかし少年の頃にあった柔らかさは消え、顔には細かな皺が刻まれている。
決断の前には長く考え、決めた後は迷わない。
戦争で何百人もの死を見た。
飢饉で救えなかった村もある。
自ら下した判決で処刑された者もいた。
王太子の隣で、正しい政策を考えることが政治だと思っていた青年はもういなかった。
政治とは、正しい選択をすることではない。
誰かが必ず傷つく中で、もっとも少ない傷を選び、その責任を引き受けることなのだと知った。
その年の秋。
南から来た商人が、王国の話をした。
「国王陛下のご容体が悪いそうです」
アルベルトの手が止まった。
「ロベルト陛下が?」
「もう一年以上、寝たり起きたりだとか。王太子殿下がほとんど政務を代行しているそうです」
「そうか」
それ以上は聞かなかった。
商人も話題を変えた。
夜。
アルベルトは一人で家の外へ出た。
北の空には星が広がっていた。
国王ロベルト。
自分たちを追放した国王。
それでも幼い頃には何度も膝に乗せてもらい、剣を贈られた。
恨みがないと言えば嘘になる。
しかし死を願っていたわけでもない。
「南を見ているのか」
フレイヤが隣に来た。
「いや」
「では?」
「昔を少し」
フレイヤは何も聞かなかった。
二人はしばらく黙っていた。
アルベルトは知らなかった。
その頃、王都では既に、国王ロベルトを殺すための毒が毎夜少量ずつ薬に混ぜられていたことを。




