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北王帰還 ――追放された公爵令息は、二十年後に故国を征服する  作者: ゲント・カイ


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第七章 新しい家

アルベルトとフレイヤが結婚したのは、追放から九年目の夏だった。


 求婚らしい求婚はなかった。


 ある日の会議が終わった後、フレイヤが彼の隣に座り、机の上に残った地図を眺めながら言った。


「父が、そろそろ私に夫を選べとうるさい」


「族長の娘だからな」


「候補が五人いる」


「多いな」


「一人は隣の部族の族長の息子。大きい」


「何が」


「身体が」


「なるほど」


「一人は戦士。強い」


「良いじゃないか」


「一人は金持ちだ」


「ますます良い」


 フレイヤはアルベルトを見た。


「お前は何とも思わないのか」


「君が決めることだ」


「そうか」


「そうだ」


 フレイヤは立ち上がった。


 そのまま扉へ向かう。


 しかし途中で止まり、振り返った。


「では、お前にする」


「何を」


「夫だ」


 アルベルトはしばらく言葉を失った。


 フレイヤは真顔だった。


「待て」


「嫌か」


「嫌ではない」


「なら決まりだ」


「こういうことは、もう少し話し合わないのか」


「南では何年も話し合うのか」


「場合による」


「だから南は面倒なのだ」


 彼女はそう言って出て行った。


 翌日にはハーコンが知っていた。


 三日後には集落全体が知っていた。


 一か月後、結婚式が行われた。


 母エレナは久しぶりに泣いた。


 妹マリアは北方の商人の息子と既に婚約していた。


 弟カールはヴァルグ族の若者たちと騎馬隊を作っている。


 グランフェルト家は、いつの間にか北方で根を張っていた。


 結婚から一年後。


 長男レオンが生まれた。


 アルベルトは生まれたばかりの息子を抱き、長い時間何も言わなかった。


「怖いのか」


 寝台の上からフレイヤが尋ねた。


「少し」


「戦場でもそんな顔をしないのに」


「戦場なら何をすればいいか分かる」


「子供も同じだ」


「何をすればいい」


「落とすな」


 アルベルトは思わず笑った。


 その二年後には娘エルザが生まれた。


 さらに三年後、次男ロルフ。


 家の中は騒がしくなった。


 朝食の席で子供同士が食べ物を取り合い、フレイヤが叱り、アルベルトが仲裁する。


 王宮の晩餐とは何もかも違った。


 それでも、ときどきアルベルトは奇妙な感覚に襲われた。


 かつて思い描いていた未来の中にも、子供たちはいた。


 その母親はセシリアだった。


 王都の公爵邸。


 王太子、やがて国王となるエドワード。


 自分はその側近。


 そんな人生が確かに存在するはずだった。


 だが、目の前ではフレイヤが娘の髪を結び、長男が弟を追いかけている。


 二つの人生を比べることは、次第に意味を失っていった。


 同じ時期、北方では大きな変化が起きていた。


 東方から侵入してきた騎馬部族が、複数の集落を襲った。


 ヴァルグ族だけでは対抗できない。


 ハーコンは周辺五部族に共闘を呼びかけた。


 しかし、長年の争いが邪魔をした。


「昨日まで牛を盗み合っていた連中と肩を並べろというのか」


「戦が終われば、次はヴァルグが我々を襲う」


 会議はまとまらなかった。


 アルベルトは黙って聞いていた。


「南の男。何か言え」


 ハーコンに促される。


「皆さんの言うことは正しい」


 長老たちが怪訝な顔をした。


「隣人を信用できないのは当然です。だから、信用しなくていい」


「何?」


「共通の規則を作ります」


 戦時のみ適用される盟約。


 兵数。


 補給。


 指揮権。


 戦後の分配。


 盟約違反への制裁。


 アルベルトは王国軍の規則と、北方の慣習法を組み合わせた。


「人を信じるのではなく、約束を守らせる仕組みを作る」


 それが北方連合の始まりとなった。


 戦争は二年続いた。


 アルベルトは初めて、数千人規模の軍勢を指揮した。


 王国で学んだ軍学。


 北方で学んだ地形戦。


 騎兵の機動力。


 部族ごとの戦い方。


 それらを組み合わせ、東方騎馬軍を山岳地帯へ誘導し、補給を断った。


 決戦では圧勝した。


 戦後、共闘した六部族は盟約を解消しなかった。


 交易路を共同管理し、紛争を会議で解決するようになった。


 さらに三部族が参加した。


 やがて十部族。


 十五部族。


 アルベルトが四十歳に近づく頃、南の王国が「蛮族」と呼んでいた広大な土地には、一つの政治共同体が形成されつつあった。


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