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北王帰還 ――追放された公爵令息は、二十年後に故国を征服する  作者: ゲント・カイ


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終章 新しい王国

王国の征服が終わっても、アルベルトの仕事は終わらなかった。


 むしろ、そこからが本当の困難だった。


 旧王国は疲弊している。


 北方連合とは言語も慣習も法も異なる。


 北方部族の中には、勝者として南の土地を分けるべきだと主張する者もいた。


 旧王国貴族は、自分たちの権利を守るよう求めた。


 農民は減税を求める。


 都市商人は自由交易。


 聖職者は教会特権の維持。


 すべてを満足させることはできなかった。


 アルベルトは王宮の玉座に座ることを、半年近く拒んだ。


 その間、北方と南方双方の代表を集めた大評議会を開いた。


「また独裁者が現れれば、我々が勝った意味がない」


 議論は数か月続いた。


 国王の課税権を制限する。


 死刑には複数の司法官の同意を必要とする。


 秘密逮捕を禁止。


 土地没収には裁判を必要とする。


 都市、農村、貴族、北方部族から代表を選び、常設評議会を設置。


 軍の指揮権は国王に残すが、大規模な国内動員には評議会の承認を求める。


 完全な平等ではない。


 貴族制度も残った。


 王も存在する。


 しかし、エドワードのような王が同じ方法で権力を握ることは難しくなった。


 翌年。


 アルベルトは正式に戴冠した。


 南の王冠と北方大族長の腕輪。


 二つを同時に身につける。


 国号は変えなかった。


 ただ、王国憲章が公布された。


 王妃となったフレイヤは、戴冠式の間ずっと窮屈そうな顔をしていた。


「重い」


 式が終わって最初に言ったのがそれだった。


「何が」


「冠だ」


「王妃だから仕方ない」


「北ではこんなものはかぶらなかった」


「外すな」


「お前は王になって細かくなった」


 アルベルトは久しぶりに声を出して笑った。


 長男レオンは北方軍の一部を率いる将校となった。


 娘エルザは南方の学問に興味を持ち、王都大学に入った。


 次男ロルフは北方と南方を行き来しながら、交易行政を学んだ。


 アルベルトは子供たちに爵位を乱発しなかった。


「王の子だから優秀なわけではない」


 そう言った。


 フレイヤは笑った。


「お前が若い頃に聞いたら、怒ったかもしれないな」


「昔の私は公爵家に生まれたことを、自分の能力だと思っていたところがある」


「今は?」


「王になったことを能力だと思わないよう気をつけている」


「難しいか」


「かなり」


 五年が過ぎた。


 王国の税収は回復した。


 北方と南方を結ぶ街道が整備され、海産物、鉄、毛皮、南の穀物、葡萄酒、織物が行き交う。


 旧国境には大きな市場町が生まれた。


 かつて敵同士だった人々が、同じ宿で酒を飲む。


 もちろん争いもあった。


 北方人を蛮族と呼ぶ者。


 南方人を臆病者と呼ぶ者。


 小さな衝突は絶えなかった。


 だが、少なくとも軍隊同士が殺し合うことはなくなった。


 ある春の日。


 アルベルトは王宮の庭を歩いていた。


 五十歳に近づいている。


 髪には白いものが増えた。


 隣にはフレイヤ。


 少し前を、既に成人した子供たちが歩いている。


 王宮の西庭。


 二十数年前。


 エドワードとセシリアと三人で歩いた場所だった。


 花の種類も変わっていない。


 アルベルトは足を止めた。


「どうした」


 フレイヤが聞く。


「昔、ここを三人で歩いた」


「三人?」


「私と、エドワードと、セシリア」


「そうか」


 フレイヤはそれだけ言った。


 遠くから鐘が鳴った。


 北方から来た大商隊が王都へ到着した知らせだった。


 王宮の高台から見ると、城門を抜けて長い荷馬車の列が入ってくる。


 逆方向には、南の葡萄酒を積んだ馬車が北へ向かっている。


「帰ってきた気分はするか」


 フレイヤが尋ねた。


 アルベルトは王都を見渡した。


 自分が生まれた街。


 青春を過ごした街。


 すべてを奪われた街。


 征服した街。


 今では自分が治める街。


「いや」


 首を振った。


「ここは故郷ではないのか」


「故郷だった」


「だった?」


「私が帰るところは、君たちのいる場所だ」


 フレイヤが少し笑った。


「王らしくない言葉だな」


「王になる前の方が長い」


 アルベルトは再び歩き始めた。


 庭の先には、新しく整備された北門へ続く大通りが見える。


 二十年前。


 彼はあの道を逆方向へ進んだ。


 爵位を失い、家を失い、友を失い、婚約者を失った。


 当時の自分は、その先に何があるか知らなかった。


 凍える土地。


 新しい家族。


 戦争。


 父の死。


 子供の誕生。


 族長。


 北王。


 征服。


 王冠。


 何一つ望んでいなかった。


 そして、望んでいたもののほとんどは手に入らなかった。


 人生とは、そういうものなのかもしれない。


「父上」


 前を歩いていたレオンが振り返った。


「評議会が始まります」


「分かっている」


「また遅れますよ」


「王を待たせればいい」


「待たされるのは評議員です」


 アルベルトは足を速めた。


 フレイヤが横で笑う。


 春の風が庭を通り抜けた。


 アルベルトは一度だけ振り返った。


 そこには誰もいなかった。


 若いエドワードも。


 セシリアも。


 二十一歳の自分も。


 もうどこにもいない。


 それでよかった。


 失った二十年は戻らない。


 犯した過ちも消えない。


 復讐を果たしても、死者は蘇らず、傷がなかったことにもならない。


 それでも人間は、その先を生きなければならない。


 アルベルトは前を向いた。


「行こう」


 誰に向けるでもなく言った。


 王妃と子供たちが、その隣を歩く。


 遠く北へ続く街道の上には、今日も多くの人々が行き交っていた。


 かつて国境だった場所を越え、かつて敵だった者たちの土地へ向かい、それぞれの生活へ帰っていく。


 アルベルト・グランフェルトは、二十年前に故国を失った。


 そして二十年後、その国を征服した。


 だが彼が最後に手にしたものは、奪われた故郷でも、復讐の満足でもなかった。


 これから作っていく国と、そこに生きる者たちの未来だった。


 その未来には、まだ名前がなかった。


 だからこそ彼は、ようやくそこへ歩いていくことができた。


了


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