第十五章 断頭台
エドワード四世には死刑が宣告された。
罪状は、父王殺害。
反逆事件の捏造。
不法な処刑。
国家財産の私的流用。
秘密警察による組織的な拷問と殺害。
判決文は長かった。
アルベルトは署名しなかった。
裁判は北方連合の法官と、王国内に残っていた司法官によって行われ、最終判決も合議で出された。
それでも誰もが分かっていた。
アルベルトが望めば、死刑を止めることはできる。
彼は止めなかった。
処刑の日。
王都中央広場には数万人が集まった。
ギロチンは王国で高位貴族の処刑に使われる装置だった。
二十年前。
もし国王ロベルトの情けがなければ、アルベルト自身がここへ立っていた可能性もある。
エドワードは白い囚人服で現れた。
痩せていた。
それでも歩いた。
広場を見回す。
怒号。
罵声。
沈黙。
様々な声が混じる。
アルベルトは処刑台の近くへ行かなかった。
王宮のバルコニーから見ていた。
隣にはフレイヤ。
「行かなくていいのか」
「何をしに」
「最後に顔を見るとか」
「ここから見える」
エドワードが処刑台へ上がる。
一度だけ王宮を見た。
距離があり、視線が合ったかは分からない。
アルベルトは動かなかった。
判決文の最後が読み上げられる。
刑吏が準備する。
刃が落ちた。
広場の声が一瞬途切れた。
二十年前、アルベルトからすべてを奪った男の人生は、短い音とともに終わった。
アルベルトは目を閉じなかった。
「終わったな」
フレイヤが言った。
「ああ」
「満足したか」
答えはすぐに出なかった。
広場では人々が騒いでいる。
「分からない」
「そうか」
フレイヤはそれ以上聞かなかった。
セシリアに死刑は宣告されなかった。
しかし王妃として長年、違法な粛清を知りながら公的に止めず、王家財産の一部から利益を得ていた責任を問われ、王族としての地位と財産をすべて剥奪された。
さらに旧体制側からの政治利用を防ぐという名目で自由身分も失い、王国法に残っていた奴隷刑が適用された。
そして、王都の公営娼館へ身柄を移すとの決定が出た。
あまりに苛烈な判決だった。
法官の中には反対した者もいた。
アルベルトは止めなかった。
判決を聞いたフレイヤは夫を見た。
「これも必要か」
「法に基づく判決だ」
「聞いているのは、そういうことではない」
アルベルトは書類を閉じた。
しばらく沈黙した。
「必要ではないかもしれない」
「なら」
「止めたくない」
フレイヤは夫を見続けた。
「復讐か」
「ああ」
アルベルトは否定しなかった。
フレイヤは溜息をついた。
「私は、お前を善人だと思ったことはない」
「知っている」
「だが、これで二十年前が戻ると思うな」
「分かっている」
「ならいい」
セシリアが王宮を出される日。
アルベルトは見送りに行かなかった。
後から報告だけを受けた。
王妃だった女は名を奪われ、身分を奪われ、城門の外へ連れていかれた。
アルベルトは報告書を読み、机の引き出しに入れた。
その夜。
眠れなかった。
フレイヤは何も言わず隣にいた。
夜明け近く。
アルベルトが口を開いた。
「父は、復讐だけで生きるなと言った」
「そうか」
「守ったつもりだった」
「守っただろう」
「最後は?」
「人間なら、全部は守れない」
アルベルトは天井を見た。
「私は、あの二人を許すべきだったのか」
フレイヤはすぐに答えなかった。
「知らない」
「君でも?」
「私はお前の妻だ。神ではない」
アルベルトは少し笑った。
「ただ」
フレイヤは続けた。
「許さなかったことと、これからどう生きるかは別だ」
窓の外が明るくなり始めていた。




