第十四章 三人の幼馴染
裁判は公開で行われることになった。
アルベルトは私的な処刑を拒んだ。
「二十年前、私は裁判の形だけを整えた断罪を受けた」
北方側近たちに言った。
「同じことはしない」
国王エドワード。
国務長官オスカー。
秘密警察長官。
複数の将軍。
王族、貴族、官僚。
罪状は個別に調査された。
二十年前の冤罪事件についても、アルベルト本人の証言だけではなく、文書、証人、司法官による検証が行われた。
一か月。
王都の広場に設けられた臨時法廷で、証拠が公開された。
国王エドワードが反逆事件を捏造したこと。
父王ロベルト三世の薬に毒を混ぜるよう命じた記録。
元侍医の証言。
重臣粛清。
違法な財産没収。
秘密警察による拷問。
すべてが明らかになっていく。
オスカーは途中で自白した。
「王太子殿下が望まれた」
責任をエドワードに押しつけようとした。
しかし自ら偽造を提案した証拠も残っていた。
判決前夜。
エドワードがアルベルトとの面会を求めた。
アルベルトは一度断った。
しかししばらく考え、受け入れた。
地下牢ではなく、王宮の小さな会議室。
兵士を外に待機させ、二人きりとなった。
エドワードは痩せていた。
王冠も豪華な衣装もない。
二十年前と同じ男だと認識するまで、アルベルトには少し時間が必要だった。
「久しぶりだな」
エドワードが言った。
「二十年だ」
「北で随分出世したらしい」
「そうだな」
「王になった」
「まだ王ではない」
「皆がお前を王と呼んでいる」
アルベルトは答えなかった。
エドワードは笑った。
乾いた笑いだった。
「結局、私が恐れた通りになった」
「何が」
「お前は王になった」
「お前が追放しなければ、私は公爵になっていた」
エドワードの笑みが消えた。
「お前の隣でな」
アルベルトは静かに続けた。
「お前が王になり、私は公爵として支える。それ以外を望んだことはない」
「今さら、どう証明する」
「証明する必要はない」
エドワードは机に目を落とした。
「私は、お前が怖かった」
初めてだった。
アルベルトは何も言わず待った。
「皆がお前を見ていた。父も。軍務卿も。宰相も。何をしても、お前がいた」
「だから消した?」
「最初は、少し離すだけのつもりだった」
「公爵家を滅ぼして?」
「私は……」
言葉が止まる。
「途中から戻れなくなった」
アルベルトは彼を見る。
「二十年前も同じだったな」
「何が」
「自分で決めたことの責任を、最後まで別の理由にする」
エドワードが顔を上げた。
「助けてくれ」
声が変わった。
「何?」
「死刑になる」
「そうだろう」
「お前なら止められる」
アルベルトは動かなかった。
「俺たちは友だった」
その言葉が、二十年を越えて届いた。
「そうだ」
アルベルトは答えた。
エドワードの顔にわずかな希望が浮かぶ。
「だったら」
「だから許せない」
希望が消えた。
「敵だったなら、ここまで覚えていない」
アルベルトは椅子から立った。
「知らない男なら、二十年前に忘れたかもしれない」
「アルベルト」
「友だった」
彼は扉へ向かった。
「それだけだ」
翌日。
セシリアも面会を求めた。
アルベルトは少し迷った。
それでも会った。
同じ部屋。
セシリアは王妃の衣装ではなく、黒い簡素な服を着ていた。
立ったままアルベルトを待っていた。
「座ってください」
「ありがとう」
二人は向かい合った。
沈黙が続いた。
二十年前なら、何も話さずとも苦にならなかった。
今は、何から話せばよいのか分からない。
「フレイヤ様という方と結婚されたそうですね」
セシリアが言った。
「そうだ」
「お子様も」
「三人いる」
「……そう」
彼女は膝の上で手を組んだ。
「幸せですか」
アルベルトは少し考えた。
「幸せだ」
セシリアは目を伏せた。
「それなら、よかった」
「君は?」
質問してから、自分でも意外だった。
セシリアは小さく首を振った。
「分かりません」
二十年前と同じ言葉だった。
二人とも気づいた。
セシリアは苦い笑みを浮かべた。
「また、同じことを言いましたね」
「ああ」
「私は、あの日からずっと考えていました」
アルベルトは黙っている。
「なぜ、あなたを信じられなかったのか」
「答えは出た?」
「怖かったのだと思います」
「何が」
「もしあなたが本当に反逆者だったら、私は自分の人生すべてを間違えていたことになる。だから、自分であなたを信じるより、殿下や裁判に判断を預けた」
セシリアは顔を上げた。
「卑怯でした」
アルベルトは否定しなかった。
「その後、殿下と結婚した」
「聞いた」
「断ることもできました」
「なぜしなかった」
「断れば、あなたが正しかったと認めることになるような気がしたから」
アルベルトは目を閉じた。
長い沈黙。
「愚かだな」
「ええ」
「私も、君なら信じると思い込んでいた」
「ごめんなさい」
「その言葉を二十年前に聞きたかった」
セシリアの目に涙が浮かんだ。
それでも声は崩さなかった。
「一つだけ、お願いしてもいいですか」
「内容による」
「昔のように」
少し息を整えた。
「一度だけ、私をセシリアと呼んでください」
アルベルトは彼女を見た。
二十一歳の少女だった頃の顔が、一瞬だけ記憶に重なる。
東屋。
刺繍。
春の庭。
来年には結婚するのだと、何の疑いもなく話した日。
だが、それは過去だった。
「王妃陛下」
アルベルトは言った。
セシリアの目から涙が落ちた。
「あなたの処遇は裁判で決まります」
「分かりました」
彼女は静かに頭を下げた。
二人の間には、もう何も残っていなかった。
それを確かめるために、二十年かかった。




