第十三章 王都陥落
王都リューデンを守る最後の王国軍は、約三万。
北方軍は五万を超えていた。
数だけなら攻城戦は難しくない。
しかしアルベルトは正面攻撃を命じなかった。
人口二十万を超える王都へ大軍で突入すれば、兵士だけでなく民間人にも膨大な犠牲が出る。
「三日待つ」
城外に陣を敷き、布告を出した。
三日以内に開城すれば、守備兵の罪は問わない。
王家の兵士も武器を置けば帰郷を許す。
市民への報復は行わない。
王宮関係者については個別に裁判を行う。
エドワードは拒否した。
「最後まで戦え」
将軍たちに命じた。
「陛下、市街戦になれば……」
「民も王国のために戦う義務がある」
「市民に武器を?」
「配れ」
王妃セシリアが立ち上がった。
「おやめください」
謁見の間。
重臣たちの前だった。
「黙れ」
「王都を戦場にするおつもりですか」
「敵が攻めてきたのだ」
「あなたが作った敵でしょう」
エドワードの目が細くなった。
「何だと」
「二十年前」
セシリアは夫を見る。
「あなたが彼を追放した」
「またその話か」
「あなたが証拠を作った」
誰も動かなかった。
「黙れと言っている」
「私は二十年間、黙っていました」
セシリアの声は震えていなかった。
「あなたがお父様の古い重臣を追放した時も。人を処刑した時も。税を上げた時も。密告者を褒めた時も」
「王妃」
「だから、今こうなった」
エドワードは玉座から降りた。
しかし彼女を打たなかった。
「お前も私を裏切るのか」
セシリアは長く夫を見た。
「二十年前に、私は一度裏切りました」
「誰を」
「アルベルトを」
その瞬間、エドワードの顔が変わった。
「出て行け」
「陛下」
「出て行け!」
セシリアは一礼した。
それが王妃として夫に向けた最後の礼になった。
三日目の夜。
王都西門の守備隊長が、秘密裏に北方軍に使者を出した。
条件は一つ。
市民を守ること。
アルベルトは受け入れた。
夜明け前。
西門が開いた。
北方軍は静かに入城した。
略奪は禁止。
火を放つことも禁じられた。
王国兵の多くは抵抗せず武器を置いた。
一部の王直属軍だけが王宮周辺で戦った。
午前中には決着した。
二十年前。
アルベルトは罪人として王宮を出た。
今、北方軍の総司令官として同じ門をくぐった。
馬から降りる。
石段。
廊下。
柱。
何も変わっていない場所もあった。
変わったのは人だった。
謁見の間の扉が開く。
エドワードは玉座に座っていた。
周囲には兵士が十数人。
武器は既に取り上げられている。
王妃セシリアもいた。
二十年。
三人が同じ部屋に揃うのは、あの日以来だった。
アルベルトはゆっくり中へ入った。
エドワードが立ち上がる。
「アルベルト」
名前を呼ばれた。
アルベルトは歩みを止めた。
セシリアも彼を見ている。
若い頃の面影は残っていた。
しかし髪には少し白いものが混じり、目元には年月が刻まれている。
アルベルト自身も同じだった。
もう二十一歳ではない。
「国王エドワード四世」
アルベルトは言った。
友人の名としてではない。
捕虜となった敵国王の名として。
「あなたを拘束する」
エドワードの顔が歪んだ。
「私に命令するつもりか」
「そうだ」
「私は王だ!」
「今朝までは」
沈黙。
外から遠く鐘の音が聞こえた。
王都の陥落を知らせる鐘だった。
エドワードはその音を聞きながら、ゆっくり玉座に腰を下ろした。




