第十一章 南征
北方連合の南征は、復讐という言葉だけでは動かなかった。
十八部族の長が集まる大会議で、アルベルトは二十年前の事情を隠さず話した。
自分が王国を憎んでいること。
冤罪だったこと。
しかし、それだけのために彼らに血を流せとは言わないこと。
その上で、現在の王国が北方の交易を妨害し、国境集落に軍事圧力をかけ、難民流入によって北方社会にも混乱を生んでいる現実を示した。
「戦えば人が死ぬ」
アルベルトは大会議で言った。
「戦わなくても、いずれ衝突する可能性が高い。だから私は、今の王国政府を倒し、南北を一つの秩序に組み込むことを提案する」
「王になるつもりか」
一人の族長が尋ねた。
「分からない」
「またそれか」
古くから彼を知る者たちが苦笑した。
「先に王冠を決めて戦争を始める気はありません」
「なら何を決める」
「戦後の法です」
略奪禁止。
降伏した都市の住民保護。
宗教施設の保護。
農地を荒らした兵への厳罰。
降伏兵は武器を置けば命を保証。
地方領主も、民衆への犯罪がなければ家族と財産の一部を保護。
「南は敵ではありません」
アルベルトは言った。
「敵は、王とその体制だ」
出兵は決まった。
北方軍四万二千。
王国が恐れてきた「蛮族」の軍勢だった。
しかし、二十年前までの部族軍ではない。
統一された指揮系統。
騎兵。
歩兵。
弓兵。
工兵。
補給隊。
軍医。
各部族の戦法を残しながら、全体として一つの軍隊になっていた。
国境を越えた日。
アルベルトは馬上から南の平原を見た。
二十年前。
この方向から北へ追放された。
今は逆だった。
王国側の最初の砦は、戦わずに降伏した。
守備隊長は五十代の男だった。
「北王アルベルト殿にお目通り願いたい」
アルベルトの天幕へ入る。
男は顔を見るなり膝をついた。
「私は、かつてグランフェルト公爵領軍の騎士でした」
アルベルトは彼を覚えていなかった。
「二十年前、何もできませんでした」
「立ってください」
「しかし」
「二十年前の話をしに来たのではないでしょう」
男は顔を上げた。
「この先の三つの砦も、ほとんど戦う意思がありません」
「なぜ」
「王のために死にたい者がいないからです」
それが王国の現実だった。
エドワードは北方軍侵攻の知らせを受け、王都で激怒した。
「アルベルトだと?」
二十年ぶりに、その名を口にした。
国務長官オスカーは青ざめた。
「生きて……」
「生きていることくらい知っていただろう!」
「北方の族長になったという噂はございましたが、まさかこれほどの軍を……」
「討て」
「陛下」
「五万出せ。いや、十万だ」
「動員には時間が」
「王命だ!」
王国軍八万が北上した。
数では王国が上だった。
しかし、兵の多くは急遽徴兵された農民だった。
将軍は王の寵臣。
補給計画は杜撰。
対するアルベルトは決戦を避けた。
王国軍の進路から食糧を先に買い上げ、橋を落とし、騎兵で補給線を切った。
三週間。
王国軍は戦う前に疲弊した。
そして夜。
王国軍内部の二つの連隊が離反した。
翌朝、さらに三つ。
将軍は逃亡。
八万の軍は大きな戦闘をせず崩壊した。
北方軍は南下を続けた。
アルベルトは勝利の宴を許さなかった。
「まだ何も終わっていない」
都市が一つずつ開城する。
農民たちは道端から北方軍を見ていた。
角のついた兜をかぶった怪物が来ると思っていた者も多かった。
実際には、兵たちは代金を払って食べ物を買い、畑へ入ることを禁じられている。
少しずつ、人々の態度が変わった。
そして夏。
アルベルトは旧グランフェルト公爵領へ入った。




