第8話
それから、1ヶ月が経った。
孤児院を建てたり、炊き出しを行なったり、貧しい人たちのために、出来る限りのことをした。その甲斐あってか、政治についての評判は日に日に良くなってきた。
そんなある日のこと、国政の会議の場に急ぎの使者が通された。辺境の地からの使者だった。
「申し上げます! 辺境の地にて、魔物が大量発生しました。辺境伯シグフレイ様は、魔物に城を取り囲まれて危機を迎えております。早急に援軍を送ってください! お願いします!」
使者は必死の形相をしている。しかし、王子ギュスターヴは興味なさそうな顔をした。
「辺境がどうなろうと知ったことか! 放っておけばよい」
あいも変わらずバカ王子め!
この世界は、小説「婚約破棄された聖女ですが、辺境伯に溺愛されたので幸せに暮らします」の世界だ。
もちろん、小説にも魔物が大量発生するエピソードがある。王子は、辺境伯に援軍を送らなかった。
その結果、聖女アイリスは命がけで出陣する。そして、聖女の力が覚醒し、大聖女となり魔物を消滅させるのだ。
このことによって、辺境伯シグフレイと聖女アイリスの評判はうなぎ上りに上がる。対して、援軍を送らなかった王子ギュスターヴの評判は地に落ちる。その上、辺境伯の恨みまで買ってしまうのだ。
私は、声を上げた。
「ただちに援軍を送りましょう! そして、その軍の指揮は、王子! あなたが執るのです!」
王子は、露骨に嫌そうな顔をする。
「僕には無理だよ。軍の指揮を執るなんて。そんなことやったことがないし」
このヘタレ王子め! ならば仕方ない。
「分かりました。ならば軍の指揮は王子に代わって、私エミリーが執りましょう。ガルベス将軍。至急、出陣の準備を!」
側にいた将軍ガルベスが「はっ!」と返事をする。王子は驚いた表情を見せた。
「正気かいエミリー! 君が軍の指揮を執るなんて、無茶にもほどがある!」
「王子。無茶でもやらなくてはなりません。辺境伯が滅びれば、魔物たちは王都までやって来ます。国を守るためにもここは出陣せねばならないのです」
「でも、何も君がやらなくても……」
お前が行かないからだろーが! このヘタレ王子め!
「ご安心ください王子。王子の代わりに立派に務めて参りますわ」
「分かった。エミリー、気をつけて」
こうして、辺境に向けて魔物討伐軍が派遣されることになった。一万の兵士が集められる。指揮を執るのは、この私だ。
一万の軍勢を前に、馬上から大きな声を張り上げた。
「これより辺境の地へ向かい、我らが同胞を救出する! 指揮は、王子ギュスターヴ様に代わり、この私エミリー・クローツが執る! 魔物など蹴散らしてくれようぞ!」
兵士たちが「おおーッ!」と歓声を上げた。士気は高い。
「よし! 出陣よ!」
辺境を目指して軍は出発した。王都から辺境までは5日はかかる。その間に、アイリスが大聖女に覚醒しないことを願う。
辺境伯に恩を売り、国民の支持を受けるためにも、魔物を討伐するのは我が軍でなくてはならない。
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