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第7話

 町娘に扮して市井《しせい》を見て回った。


 酒場を出るとメインストリートを歩く、ここの人たちは生き生きしている。屋台なども並び活気がある。


 しかし、路地裏に入ると様子が変わった。物乞いをする人々や親のいない子供たち。


「王都にもこういう所があるのね。早急に何とかしなくてはならないわ」


 こういう貧しい人たちを救わなければならない。それが本来の政治というものだ。


 その時だった、向こうの方が何やら騒がしい。


 行ってみると、貴族風の男と孤児と思われる男の子が、何やらモメていた。


「この子供は、わしの財布を盗もうとしたのだ! 盗みは重罪である。両腕を斬り落とすほどのな!」


 孤児の子供が貴族風の男から財布を盗もうとしたらしい。だが、失敗して捕まったようだ。


 私は、貴族風の男に声をかけた。


「確かに盗みはよくないけど、幼い子供のやることよ。許してあげては、どうかしら?」


「何ッ!? 町娘ごときがわしに意見する気か!? わしは貴族だぞ!」


「弱い者を助けてこそ、真の貴族ではなくて?」


 貴族の男は、怒りに震えている。腰からサーベルを抜いてかまえた。


「平民の分際で貴族に意見するとは許せん! たたっ斬る」


 男は、今にも斬りかかって来そうなほど興奮している。


 私は、落ち着いてパンパンと手を打ち鳴らした。背後にサッと黒服の男が現れる。隠密の仕事をさせている暗殺者《アサシン》だ。


「お呼びですか? エミリー様」


「この男をしばきなさい」


 貴族の男を指さして言った。黒服の暗殺者は「御意!」と頷く。


 貴族の男は、サーベルで斬りかかってくるが、暗殺者はその攻撃を簡単に避ける、そして一瞬で男を取り押さえた。地味に間接技を極めている。


「痛たたッ! くそ! わしを誰だと思っている? わしは貴族だぞ! こんなことをしてただで済むと思っているのか!」


 叫ぶ男に、暗殺者はドスの効いた声を出した。


「お前の方こそ、この方を誰だと思っている。王子妃エミリー様だぞ。貴様の無礼な態度、処刑に値する」


「ひぃッ! 王子妃エミリー様!?」


 男は驚いた声を上げて私を見る。表情が引きつっていた。


 私は、頭巾を取り長い髪をなびかせて見せた。


「市井《しせい》を見て回るため、このような格好《なり》をしているが、王子妃エミリーである」


「ははーッ! 申し訳ございません! 王子妃様!」


 貴族の男は、その場に土下座する。地面に頭をこすりつけている。


「もうよい。去りなさい」


「はい、失礼します!」


 貴族の男は、急ぎ足で去って行く。その場には、財布を盗もうとした孤児の男の子が取り残された。


 私は、自分の財布から銀貨を3枚ほど出した。そして、孤児の男の子に手渡す。


「これで何か美味しいものでも食べなさい」


 男の子は、私から銀貨をひったくるように取ると走り去って行った。


「もう盗みはしちゃダメよー!」


 男の子の背中に向かって叫ぶ。


 ちょっとのお金を施したところで、問題は何も解決していない。


「王宮に帰るわよ」


 町娘に変装している侍女の方を見る。


「はい。エミリー様」


「まずは、貧民の救済が先決だわ。すぐに炊き出しができるように準備するわよ」


 忙しくなってきた。こうしてはいられない。飢えた子供たちを救わなくては。



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