第4話
結婚式も無事終わり、私は晴れてこの国の王子妃となった。
自室で1人、バルコニーに出る。外の風が気持ちいい。美しい月夜だった。私は、手をパンパンと2回打ち鳴らした。
「お呼びでしょうか? エミリー様」
誰もいないはずのバルコニーに、サッと黒い人影が現れる。黒い服を着た男が1人ひざまずいて控えていた。
「辺境伯シグフレイの監視はどうなっているの?」
私は、冷たい声色で尋ねた。
「はっ! 辺境伯の元へは、使用人と兵士に扮して、数名の配下を潜り込ませております」
黒服の男が答える。彼らは、暗殺者ギルドから引き抜いた者たちだ。いわゆる忍者のような存在として使っている。諜報能力が高く、隠密に優れているのだ。
「シグフレイの人物評が聞きたいわ。どんな男なの?」
「はっ! 常に冷静で物静かなタイプですが、戦いの時は勇猛な戦士でもあります。実直で部下からの信頼は厚く、領民からも慕われています」
「なるほど。うちのバカ王子とは大違いって訳ね」
「また、戦士としての能力が高く、剣の達人でもあります。指揮官としても優秀で、戦いには滅法強いです。暗殺するなら毒殺がよろしいかと」
彼らは元々、暗殺者ギルドにいたため暗殺が本職である。だから、何かにつけて暗殺したがるのだ。
「暗殺はけっこうよ。引き続き監視なさい。聖女アイリスの方の動向は?」
「はっ! アイリスは、辺境に来てから聖女としての真価を発揮しつつあります。というのも聖女の能力は人間に対してではなく、魔物に対して効果があるものだからです」
「まさに、アイリスにとっては辺境は適材適所という訳ね」
「しかし、魔物に対して強いという以外は、ごく普通の人間でございます。簡単に暗殺できるかと」
黒服の男はニヤリと笑った。いや、どんだけ暗殺好きなのよ。
そもそも暗殺はリスクが高すぎる。もし失敗して辺境伯にバレたら、それこそ相手に攻め込む口実を与えてしまう。あくまで最後の手段だ。
「聖女アイリスも引き続き監視を続けなさい」
「……暗殺しないんですか?」
黒服の男は、残念そうな顔をする。よっぽど暗殺したいらしい。
「する訳ないでしょ! 他に報告はある?」
「はっ! ギュスターヴ王子が、男爵家の息女マリアと浮気をしようとなさっています。まだ未遂ですが、いかがいたしましょう?」
「あのバカ王子! 結婚式が済んだばかりなのにもう浮気かよ!」
「男爵家のマリアの方から誘惑しているようです。どうします? 暗殺しますか? ア・ン・サ・ツ♡」
ささやくように言うなよ! お前の頭の中は、暗殺することしかないのか! そう怒鳴りたい気持ちを抑える。
「暗殺はしないわ。二度と王子に手を出さないように軽く脅すだけでいいわ」
「……分かりました」
黒服の男は、おあずけをされた犬みたいな切ない表情になる。よほど暗殺したかったのだろう。
「今日は、もういいわ。行きなさい」
「はっ!」
黒服の男は、サッと一瞬で姿を消した。
「隠密としては優秀なんだけど、やたらと暗殺したがるのが考えものね。まあ、元が暗殺者だから仕方ないけど」
とにかく必要なのは情報だ。辺境伯の監視はもちろん、内部の動向にも目を光らせなくてはならない。情報を制する者が世界を制するのだ。
いや、別に世界を制する必要はないのだが。処刑ルートを回避するために、あらゆる手段を講じなければならない。
夜風が少し冷えてきた、バルコニーから自室に戻る。




