第3話
それから、1ヶ月。質素倹約を心がけて生活して過ごした。
今日は、王子ギュスターヴと私エミリーの結婚式の日だ。盛大な式と披露宴が王宮で催される。
なるべくお金を使いたくないのだが、他国から来賓も訪れる外交的な面もあるので、さすがに地味婚という訳にはいかない。
王子と共に豪華なドレスを身にまとい、来賓の客に挨拶をする。常に笑顔を絶やさないよう気をつけなくてはならない。
やがて、1人の男性が私たちの前に訪れて膝をついた。長身で黒色の長髪に褐色の肌の美男子だ。金髪で色白の王子とは対照的なイケメンだった。
「本日はおめでとうございます。このシグフレイ・ガーランド、心よりお祝い申し上げます」
こいつが辺境伯だ。クーデターを起こし、私たちを処刑台に送る男。凛々しい顔が憎らしく見える。
「うむ。ご苦労だな、シグフレイ」
王子はぞんざいな態度で応じた。バカ王子! あんたそいつに殺されるのよ!
辺境伯シグフレイは顔を上げた。目つきが鷹のように鋭い。
「このような祝いの席で申し上げにくいのですが、辺境の地では魔物との戦いが続いております。ギュスターヴ殿下、援助をお願いできないでしょうか?」
切実な顔をするシグフレイ。しかし、それを聞いた王子は怒りに震えた。
「貴様ッ、無礼だぞ! シグフレイ! 今すぐここから出て行け!」
このバカ王子! 心の中で叫ぶ。
「お待ちください、あなた。シグフレイ様は、こんな時でも言わなくてはならないほど追い込まれているのですわ。願いをどうかお聞きください」
「エミリー…… 君はなんて優しい子なんだ。分かった。感謝しろ、シグフレイ。エミリーに免じて無礼は許そう。軍資金をいくらか援助してやる」
王子が言うと、シグフレイは平伏した。
「ありがとうございます。このご恩は忘れません。王子妃殿下にも心よりお礼申し上げます」
正直、辺境伯に援助などしたくない。力をつけられても困る。だが、下手に恨みを買いたくはない。ここは恩を売っておくのがいいだろう。
シグフレイは立ち去ろうとしたが、立ち止まる。
「そうそう、ギュスターヴ殿下。もうひとつ報告しなければなりません。私も結婚することになりました。アイリスという女性と」
「何ッ!? 偽物の聖女アイリスか!?」
「はい。私にとっては本物か偽物かは、どちらでも良いことですが。では、失礼します」
立ち去っていくシグフレイの背中を黙って見つめた。始まっている。処刑ルートまでのカウントダウンは既に始まっているのだ。
ギュスターヴの父、ヘンリー王は現在、病に臥せっている。今、国の実権を握っているのは、このバカ王子なのだ。
「あなた、これからは2人でこの国を豊かにしていきましょう」
王子は「ははは」と笑った。
「エミリー。君は何も心配しなくていい。政治のことは僕に任しておけばいいよ」
いや、お前に任せてたら辺境伯に攻め込まれるわ。このバカ王子。
潤んだ瞳で上目遣いに見る。ついでにアヒル口もする。バカ王子には、これが一番効く。
「そんなことおっしゃらないで、ギュスターヴ。私、少しでもあなたの力になりたいの。だから、国政の場に参加させて」
王子は、照れたような顔をして答えた。
「仕方ないな。エミリー。君は本当に優しい子だ。いいだろう。会議などには君も出席してもらおう」
こんなにチョロい王子で、この国は大丈夫だろうか? 既に暗澹たる思いが広がっていた。




