第2話
ギュスターヴ王子が歩み寄って来る。さわやかな微笑みを浮かべ、こちらを見た。
「これで邪魔者はいなくなったね。僕と君は、堂々と婚約できる。愛してるよ、エミリー」
ムカついて王子の顔をグーで殴りそうになった。落ち着け私、自分に言い聞かせる。
そもそも、アイリスが偽物の聖女であると噂を流したのは、転生する前のエミリーだ。他にも様々な悪事を働いていると吹聴した。王子の耳に入るように計算して。
王子は単純だから、簡単に噂を信じアイリスに対して不信感を募らせていた。
「可哀想なギュスターヴ王子。あんな非道い婚約者に騙されて」
後は、こうやって王子に擦り寄ればイチコロだった。本当に単純な王子だ。
「ありがとう、エミリー。僕のことを分かってくれるのは君だけだよ」
王子はいとも簡単にエミリーを信用し、アイリスとの婚約破棄に至った。そして、王都からも追放した。
どうする? どうすればいい?
この後、アイリスは辺境伯の元へ赴き、辺境伯と婚約することになるはずだ。
それが終わりの始まりだ。やがて、辺境伯はクーデターを起こし、王都に攻め込んでくる。その時、自分たちは処刑されてしまう。
ん? 待てよ……
アイリスが辺境伯の元に行かなければいいのでは?
それには、どうしたらいい?
いっそアイリスを暗殺して亡きものにしてしまうとか……
いやいやダメだ。さすがに人を殺したくはない。それに、よく考えたらアイリスと出会わなくても、辺境伯はクーデターを起こすかもしれない。
アイリスをどうこうするのではなく、辺境伯にクーデターを起こさせない方法を考えなくては。
隣にいる王子はのんきな顔をしている。
「エミリー。君と僕の婚約パーティーは盛大にやろう。今夜のパーティーよりもうんと豪華にしよう。お金ならいくらかかってもいい。国費で賄うから安心して。ドレスも新調するといい」
その言葉を聞いて、ハッと気づいた。
「それだわ!」
辺境伯にクーデターを起こされたのは、国政が不安定になっていたからだ。その原因のひとつが王子とエミリーの贅沢三昧の生活である。
王子とエミリーは、毎晩のようにパーティーを開催したり、別荘を建てたり、豪華な装飾品の購入など、贅の限りを尽くし財政を圧迫させた。そのことが、国民の反感を大いに招く結果になったのだ。つまり。
「贅沢をしないで質素に暮らせばいいんだわ」
一筋の光明が見えた気がする。贅沢をせずに質素に暮らせば、国民の反感は買わないし、財政も圧迫しない。そして、国政が安定していれば、辺境伯もクーデターを起こさない。自分たちが処刑台送りになることもないのだ。
「ねえ、ギュスターヴ。私たちの婚約パーティーはしなくていいわ」
まずは、無駄なパーティーの費用を少しでも減らさねば。
しかし、王子は顔をしかめる。
「それは困る。新しい婚約者を紹介しないと、僕の面子が立たない。盛大なパーティーにしないと君や君の父上にも恥をかかせることになる」
うーん。まずは、このバカ王子を教育しなくてはならない。
「ギュスターヴ。実は、私はパーティーが好きではないの」
「どうしてだい?」
「だってパーティーには綺麗な女性がいっぱい来るでしょ? あなたの心が他の女性に奪われるんじゃないかって不安になるの」
瞳を潤ませて上目遣いで王子を見る。王子は満面の笑みを浮かべた。
「何だ、そういうことか。本当に可愛い子だな、エミリーは。分かった。それならパーティーはやめておこう。安心して。僕の心は君だけのものだよ」
「ありがとう。嬉しいわ、ギュスターヴ。婚約のお知らせは、皆に手紙で伝えればいいと思うわ」
「そうだね。そうしよう」
チョロい王子だ。よしよし。今後は、無駄なパーティーを節減するぞ。




