第1話
何で? 何でこっちの方に転生したのよ!
王宮の広間で、パーティーに参加した大勢の人々が見守る中、王子ギュスターヴは高らかに言い放った。
「聖女アイリス! いや、聖女の名を語る偽物め! お前の悪事は全てお見通しだ! 僕はお前との婚約を破棄する! そして、伯爵家のエミリーを新たな婚約者とする!」
聖女アイリスは、ジッと黙っている。その冷めた表情からは何も読み取れない。
間違いない。ここは私の好きな小説「婚約破棄された聖女ですが、辺境伯に溺愛されたので幸せに暮らします」の世界だ。
私は、その小説の世界に転生してしまったのだ。
しかも、私が転生したのは、聖女アイリス…… の方ではなく。彼女の婚約者を寝取った悪女の方。伯爵家の息女エミリー・クローツだった。
「あわわ…… 何で? 何でエミリーの方に転生したのよ。よりによって」
自分の隣にいるのは、聖女アイリスに婚約破棄を言い渡した、王子ギュスターヴである。
小説のストーリーでは、この後、聖女アイリスは王都を追放されてしまうが、辺境伯に見初められて結婚することになる。
一方、エミリーは王子ギュスターヴと結婚し王子妃の地位を手に入れるのだが、贅沢の限りを尽くし国民の反感を買うことになる。
それを好機とみた辺境伯がクーデターを起こし、軍勢を率いて王都を制圧するのだ。
最後は、聖女アイリスと辺境伯が仲良く国を治めて、めでたしめでたしと。
ちなみに、王子ギュスターヴとエミリーは処刑されて、ざまあな展開となる。
いやいや、今の自分はそのエミリー本人なのだ。このままでは処刑台送りなのだ。
転生したのが、聖女アイリスとギュスターヴ王子が婚約破棄をする前なら、まだ避けられた事態なのだが。
よりにもよって、婚約破棄した直後の世界に転生してしまった。いや、今からでも遅くはない。王子ギュスターヴを説得すれば。
「ギュスターヴ様! 違うのです! アイリスは本物の聖女なんです! 悪事を働いたなんてデタラメなんです! 婚約破棄は撤回してください!」
懸命に訴えるが、王子ギュスターヴは憐れみの眼差しをこちらに向ける。
「君はなんて優しい子なんだエミリー。この偽物の聖女をかばうなんて。だが、僕の目は誤魔化されないぞ! 偽物の聖女アイリス! お前を王都から追放する! 二度とそのけがらわしい姿を僕らの前に見せるな!」
ダメだこのバカ王子。自分に酔ってやがる。婚約破棄はおろか、追放宣言までしてしまった。
「分かりました」
アイリスは背中を見せると去って行こうとする。慌ててその背中を追いかけた。
「待って! アイリス! 行かないで!」
必死で呼び止めると、アイリスは立ち止まってこちらを振り向いた。
「これは何かの誤解なのよ、アイリス。もう一度話し合いましょう。話せばギュスターヴ王子もきっと分かってくれるわ」
アイリスを説得しようと試みるが。彼女は、軽蔑したような冷たい視線をこちらに向ける。
「いいのよ。エミリー。王子と幸せに」
そう言ってツカツカと去ろうとする。慌ててアイリスの腕をつかんだ。
「待って! お願いだから、話を聞いてちょうだい!」
「嫌よ! 離して! 偽物の聖女なんて言われたら、こちらも我慢できないわ! 絶対に許さない!」
アイリスは、強引に私の手をふりほどいた。そして、ツカツカと去って行く。
あ、ダメだこれ。マジギレしてらっしゃるわ。
膝から崩れ落ちて、アイリスの後ろ姿を見送った。
彼女は去って行く。だが、いつかまた戻ってくる。辺境伯と共に軍勢を率いて。
その時、自分は処刑されるのだ……
嫌よ! まだ死にたくない!
考えるのだ。処刑ルートを回避する方法を。そして、生き抜くんだ! この世界を!
ヨロヨロと立ち上がる。
だけど、どうすればいいの!?
続きが気になる方、ぜひブクマしてください。
感想をいただけると作者が喜びます。




