第11話
「王子妃様。あなたは、本当に面白い女性だ。しかし、王子殿下がアイリスに謝罪することはないでしょう」
シグフレイは優しい顔つきで断言した。ちょっとムッとなる。
「あら? どうして? やってみなければ分からないじゃないの」
シグフレイは「ふふふ」と笑った。
「王子妃殿下。あなたは、男心というものが分かっていない」
☆ ☆ ☆
それから、王都に帰還すると、さっそく玉座に掛ける王子に報告をする。
「ギュスターヴ王子殿下。辺境の地の魔物を討伐して参りました」
「ご苦労だったね。エミリー。大活躍だったそうじゃないか」
「いいえ。私は何もしておりません。兵たちが皆頑張ってくれたのです」
王子は、満面の笑みでこちらを見る。
「謙虚だな。エミリー。君の活躍で辺境の地は救われた。これで当分、シグフレイのやつも大きな顔はできまい」
嬉しそうな顔をする王子。ここで話を変えてみる。
「ギュスターヴ様。辺境伯の城で聖女アイリスに会いましたわ」
王子は眉をひそめる。
「偽物の聖女アイリスか。それで?」
「アイリスは未だに王子に婚約破棄されたことを引きずっている様子でした」
「しつこい女だな」
「いかがでしょう? 王子。ここはアイリスに謝罪をなさっては」
王子は、露骨に嫌そうな顔をする。
「謝る? 僕が? 冗談だろ。騙されていたのはこっちなんだ。あの偽物の聖女に」
「しかし、王子。アイリスは、偽物ではなく本物の聖女でした。辺境の地で聖女の力を使い魔物を退けています」
「そうか。だが今となっては本物だろうが偽物だろうが、どっちでもいい。謝る気はない」
このバカ王子め。訴えるように声を出す。
「アイリスは、王子に偽物の聖女と言われたことで深く傷ついています。それだけでも謝罪してください」
王子は「はあ」とため息をつき、間を置いてから答える。
「正直に言おう、僕もアイリスが偽物の聖女だとは思っていなかった。婚約破棄した時もね」
「じゃあ、どうして?」
「僕はアイリスが嫌いだったんだ。聖女であることを鼻にかけて、プライドの高い嫌な女だと思っていた。だから、君から彼女が偽物の聖女だと聞かされた時、信じたふりをしたんだ」
王子がアイリスのことを嫌っていたというのは初耳だった。王子は話を続ける。
「それに何より、エミリー。僕は君のことがずっと好きだったんだ。だから、君からアイリスのことを聞かされた時、正直チャンスだと思った。君のためなら、アイリスを傷つけてもかまわない。そう思ったんだ」
「そんな……」
王子は遠い目をして彼方を見つめる。
「僕は最低な男だよ。わざとアイリスを傷つけて婚約破棄をした。これは許されることじゃないし、許してもらおうとも思っていない。だが、僕に後悔はないよ。こうして君と夫婦になれたんだからね」
単純で騙されやすいバカ王子だと思っていたが。そう単純でもなかったらしい。
「僕は、全てを知った上で、アイリスではなくエミリー。君を選んだ。そのことに後悔はないし、アイリスに謝るつもりもないよ」
ギュスターヴは、憂いを含んだ表情をする。
やだ…… バカ王子。そんな顔されたら、何も言えないじゃないの。
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