第10話
辺境伯シグフレイの居城に入る。高い城壁に囲まれた中には街がある。魔物が多い辺境では、城と街がひとつになっているのだ。
シグフレイを先頭に、街のメインストリートを直進する。通りには街の住人が大勢出迎えていた。
「見ろ! 我々を救いに来てくださった、王子妃殿下のエミリー様だ!」
「エミリー様! ありがとう!」
街の住人が、私を見て口々に歓声を上げた。手を振って応える。
その夜は、勝利を祝う酒宴が催された。城の広間に、酒とごちそうが並べられる。城の外でも兵士たちに酒が振る舞われた。
「では、我々の勝利に乾杯!」
シグフレイが音頭をとり、酒宴が始まった。
「改めてお礼を申し上げます。エミリー王子妃様。よくぞ援軍に来てくださいました。来られるのがあと1日遅ければ、我々は魔物に滅ぼされていたでしょう」
隣に座るシグフレイが礼を述べた。微笑んで返す。
「いいえ。当然のことです。それに、こちらこそ危ないところを救っていただきましたわ」
「まさか、王子妃様が最前線で指揮を執っていらっしゃるとは思いませんでした」
その時、シグフレイの隣に座っている聖女アイリスが話に入ってきた。
「エミリー様。なぜギュスターヴ王子殿下ではなく、エミリー様が援軍の指揮を執られていたのですか? ギュスターヴ様はどうなされたのか?」
アイリスは、ちょっとムッとした表情をしている。微笑んで答えた。
「ギュスターヴ様は、お体の調子が悪く来られませんでした。それで仕方なく私が代理を務めた次第です。王子は援軍の指揮が執れぬことを非常に嘆いておられましたわ」
「それは本当ですか? 使者の話だと、ギュスターヴ様は援軍など出さなくてよいと仰せになったと聞いております。我々を見捨てるおつもりだったのではありませんか!?」
アイリスが感情を露わにして叫んだ。シグフレイが手で制する。
「そこまでだ。アイリス。言って良いことと悪いことがある。もし、ギュスターヴ様が我々を見捨てる気だったなら、今こうしてエミリー様がいらっしゃることはないのだ。口が過ぎるぞ!」
アイリスは立ち上がって頭を下げた。
「申し訳ありません。エミリー様。シグフレイ様。頭を冷やして参ります」
アイリスは、そのまま去って行った。シグフレイが優しい目をこちらに向ける。
「お許しください。エミリー様。アイリスは、王子殿下に婚約破棄されたことを未だに引きずっているのです」
「いいのよ。それは仕方ないことだわ」
アイリスは、王子ギュスターヴ、そして私のことを今でも恨んでいるに違いない。危険だ。このままにしておくのは非常に危険だ。
小説のストーリーでは、彼女の心の傷はシグフレイに溺愛されることで癒されていくのだが。まだシグフレイとそこまでの仲にはなっていないようだ。
なんとかアイリスと王子ギュスターヴの確執を取り除きたい。
「そうだわ! 謝罪させればいいのよ! あのバカ王子に」
名案だと思った。婚約破棄は今さらどうにもならないが、彼女を傷つけたことを謝罪すれば、傷は少しでも癒えるかもしれない。
「シグフレイ。今度、ギュスターヴ王子をこの城に連れて来ます」
「王子殿下をですか? 何故に?」
「もちろん、アイリスに謝罪させるためよ!」
それを聞いて、シグフレイは目を丸くした。
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