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人族なのに魔王  作者: 木ノ井 大貴
ユルド大戦編
15/17

シーク草原


今日中に、日を跨がないうちにもう一話いきます。



 ◇


 佐倉へ思いを告げ、晴れて付き合う事となった翌日。ブライス王国軍は隊列を組み、その遅々とした行軍を進めていた。


 ちなみに、あの後そのまま佐倉のテントで朝チュン展開かと思っていた真だったが、というか佐倉の誘惑発言を受けてル○ンダイブを決めようとしていたのだが、自由落下中にアオイの尻尾に絡めとられて自分のテントへと戻って寝る事となった。


 どうやってテントから出たのかと思ったが、その疑問はテントまで戻った時に入り口の前に空いたアオイが通れそうな穴を見た時に解消された。アオイの綺麗な毛並みが土で汚れていたのだが、そういう訳だった。


 ツバキの報告によると、それまで真がゴロゴロしていた寝袋をクンカクンカしていたアオイが、弾かれたように起き上がり土魔法を駆使してあの穴を作り出して飛び出して行ったらしい。女の勘というやつだろうか。


 翌朝、朝食の際に急に帰ってしまった事を佐倉に謝罪していると、周囲からの嫉妬に混じってアオイが殺気のような物を放っていたのもそのような理由からだろう。


 ともあれ、現在は主戦場となるユルド森林前にある草原、シーク草原に向けて行軍中である。


 昨日と変わった事と言えば、ツバキが全く話しかけて来なくなった事と、少し前を行くアオイがそのモフモフとした尻尾でこちらを一瞥もせずに往復ビンタしてくる事と、隣を嬉しそうな雰囲気を発しながらあるく佐倉くらいのものである。


「………なぁ、佐倉」


「ん?何?」


「いや、行軍とは言え、隊列を崩すのは如何がなものかと…」


「大丈夫だよ!昨日のうちに、私の班にいる騎士団の方には伝えて許可も貰ってあるから!」


「それならいいんだけど……」


 視線が痛い。今も周囲からの嫉妬のこもった視線をひしひしと感じている。


 それだけならまだ許せるのだが、中にはあまり良くない感情のこもった視線もあるように感じる。それは嫉妬を超えた憎悪のような薄暗い感情で、元から幼馴染みという立場にいた真の事を心良く思っていなかった一団から発せられているようだ。


 彼らは何かにつけて真に関する陰口を叩いていた集団でもあるようで、真が訓練という名の魔獣たちと触れ合いを行っているのを「怠けている、大した力も持たないくせに調子に乗っている」と言ったのも彼らだろう。


「………はぁ」


「あぁ、あの人たちね」


 気配を気取られないように気を付けつつ目を遣り、溜め息を吐いた真に佐倉が答える。


「あの人たち、前から真に対して目障りな態度だよね。フェノーメノに来てからも、真の悪口言ってるの聞いたし」


 やっぱりそうだったのか…… まぁ、凹みはしないけど。碌に会話をした事も無い。


「それなのに、私に対してはやたらと好意的に接して来るわ真から遠ざけようとするわ、下心が見えすぎてて気持ち悪いよあの人たち」


 親しい人以外には辛辣な佐倉さくら 千乃ちのの毒舌は、今日も健在である。


「まぁ、気にする事ないだろ」


 ああいった手合いは、人の上辺だけを見て幻想を抱き、その幻想に対して執着する事が生き甲斐な感じだ。だから、直接佐倉に対して思いを告げるなんて事はしないし、ちゃんと佐倉と接しようともしない。宗教とかにいつかどハマりしそうだ。


「そうだね。直接何かして来るっていっても、今は目立った事も出来ないだろうし」


「あぁ……」


 どこか上の空な感じになってしまうが、同意する。


 確かに今は、軍事行動中であるため目立つような行動はして来ないだろう。


 しかし、ああいった連中の本当に厄介なところは……


 真の心の機微を感じ取ったのか、アオイがそれまで往復ビンタしていた尻尾を止め、柔らかく顔を包んで来る。モフモフしていて至高の感触なのだが、視界が塞がれて一切前が見えなくなってしまった。


 気を使ってくれたアオイの尻尾を撫でつつ、真は再び行軍に意識を戻す。


 ◇


 休憩中に聞いた話によると、このままの速度で行くと明日の昼には陣を張る位置にたどり着くそうだ。


 相手の軍が動いてもおかしくないくらいの遅さでの行軍なのだが、相手の軍はそこから微動だにしていないらしい。


 とりあえずその日は行ける所まで移動し、夕方には昨日と同様にテントを張り野営をした。いつの間にか離れた位置にあった筈の佐倉のテントが隣に移動していたが、騎士団は付き合い立てなのだからと許してくれているようだ。多分、戦でこれが最後になるかもしれないから、という理由もある。


 佐倉のテントが隣に移動して来た事にアオイがひどく不機嫌になってしまったが、その日は眠る前に少し話をしただけだったので寝る頃には機嫌を戻し、いつも通り真をその身体で包み込むようにして眠ってくれた。


 翌朝、テントが隣同士なので朝食の席まで一緒に行くと市原、野田と合流すると早速からかわれる。


 「真、幸せそうでなによりだな」


 「まぁ、やっとかって感じもするよな」


 「お前ら、開口一番にそれかよ…」


 真の口調は嫌がっているが、軽口であることを理解しているので実際は何とも思っていない。それよりも、真には大事な用件があった。


 「市原、野田。今夜、時間空けておいてくれないか」


 「……わかった」


 「オッケー! どうせ暇だしな!」


 市原はこちらの真剣さを汲み取ってくれたようだが、野田お前って奴は………


 とりあえず真がここで言うべき事は言ったので、朝食を取る事にする。今日の朝食は、目玉焼きにベーコン、レタスっぽいもののサラダ、みそ汁に白米だ。ここ日本?と思ってしまうようなメニューだったが、文句があるはずもなく美味しく頂いた。


 朝食を終えると昨日と同じように片付けて出発の準備を進める。準備を終え、出発する頃には9時頃になっていた。この行軍が続くのも後三時間といった所か。


 今日も今日とて、真の隣では佐倉が幸せそうに歩いている。彼女と親しい人にしか分からない程わずかな変化ではあるが、少し頬が緩んでいる。少なくとも戦争前には見えない。


 「佐倉、一応これから戦いに赴くんだ。だからその、少しは気を引き締めないと……」


 「あっ……うん、そうだよね。ごめん……」


 「いや、俺も昨日は気付かなかったし。それにそんな佐倉を見るのは初めてだったから、嬉しかったっていうのもある」


 「……へへ」


 あぁ、何この子可愛いなぁもう!と思っていると、アオイが往復ビンタを開始してくる。困ったものだ。


 実際、隣に好きな子が歩いていて、前にはモフモフが歩いていて、懐には信頼の置けるツバキがいる。これまで市原や野田、佐倉たちがいた言え基本的に孤独に過ごして来た真にとっては、この上なく幸せな状況である。


 そんな風に幸せを噛み締めながら歩き、一度だけ休憩を挟むとついに主戦場となるシーク草原に到着した。


 ◇


 目の前には辺り一面に膝に届かないくらいの長さの草が生えた、広大な草原が広がっている。艶々とした緑一色で埋め尽くされ、波打つ光景は、眺めていると海原は緑に染まってしまったのかと錯覚してしまう。


 その光景の中で異質であるのがブライス王国軍と、真たちから見て正面、ユルド森林前に陣取っている『魔王軍』である。


 王国軍は到着すると、本部となる本陣を形成し始める。真はそのタイミングでツバキに『索敵』を頼む。ユルド森林にいたアオイをセイレーンという離れた位置から察知する程に、ツバキの索敵は優秀なのだ。


 真は、目の前に展開する魔王軍以外にも、ユルド森林から嫌な気配を感じていた。


 (これは………!! ……魔王様、ユルド森林内に多数の強大な魔力を持つ存在を感知しました。恐らく魔王軍に在籍する魔人の物と思われます。その力ですが…)


 (どうした?)


 (………森林前の軍とは比べ物にならない程、強力です。)


 ……なるほど。かなり不利な戦いになりそうだ。少なくとも佐倉やアオイだけは守り通さないと。


 (…それだけではありません。ユルド森林の向こう、旧イルソン帝国側に魔王軍本隊と思われる、強大かつ多数の数の反応が見られます。私が捉えられたのも、一部に過ぎないかと…)


 詰んでいる。つまりは、そういう事だった。


 ユルド森林の中に潜んでいる魔人たちの真意は分からないが、このまま開戦すると王国軍が壊滅するのには一日とかからないだろう。


 実際のところ、真にはこのブライス王国にさしたる思い入れは無い。魔王軍到来の報せに、日常が失われた事で少なからぬショックを受けはしたが、それも「また、変わらぬ日々を失ってしまった」という自分の感情に基づいたものであり、ブライス王国自体に愛着を持っていた訳ではなかった。狼さんガルルに対しては持っていたが。


 だから、ブライス王国軍が壊滅しようと真の知った事ではないと思っていた。第一、真からすればいくら真摯な態度を取っているとはいえ、ブライス王国は真が戦争に投じられる事となった原因そのものである。

 

 しかし、現在は佐倉が隣にいて、アオイ、ツバキ、そして市原と野田もいる。彼らは真にとって、本当に日常と呼べる存在となっている。彼らを失いたくはなかった。


 恐らく戦争は、未だ戦端が開かれていないとは言っても、回避する事は出来ない所に来ているのだろう。両軍は既にこうして相対してしまったのだ。


 真にとって掛け替えの無い存在となった彼らの事を守るためにも、密かに戦争を終結させるべく動くことを決意する。


 まだ高校生でしかない真には、戦を早く終わらせる以外に佐倉たちを確実に守り抜く方法が思い浮かばなかった。


 ◇


 シーク草原に到着し、王国軍が陣を構えたその夜。


 真は市原や野田、佐倉を自分のテントへ呼び、大切な話をしようとしていた。市原たちはテントの中に入るとその広さに驚いていたが、真の真剣な表情を見ると彼らも真剣な表情になり、真が話し始めるのを待った。


 「……このまま開戦すると、恐らく王国軍はなす術も無く負ける事になる。きっと、壊滅するのには一日もかからない」


 再び彼らの表情が驚きに染まる。


 真は、ユルド森林に敵勢力が潜んでいる事、そしてユルド森林の旧イルソン帝国側に魔王軍本隊が待ち構えている事を説明した。


 市原は途中で何故そのような事を知っているのか、どのように知ったのか聞きたそうにしていたが、佐倉が目で黙らせていた。怖かった。


 「…という訳だ。これを知ったのは、詳しくは話せないが俺の能力を使っての事だ。 ……そして、今まで話した事は本題じゃない」


 真の言葉に、市原と野田の表情が真剣味を増す。


 「……俺は、この戦争が一段落ついたら、この国を離れる。この事については、既に佐倉には話した」


 「……なッ!?」


 「なんでだよ真!!」


 「……ごめん、これについてはフェノーメノに来た日から、ずっと考えていた事なんだ。理由は………まだ、話せない」


 テントの中が沈黙に包まれる。佐倉はその隙に真の隣に移動しようとして、真の背後に陣取ったアオイの尻尾に阻まれている。アオイはこの空気の中で真の頭に顎を載せたり、真の髪にスリスリしている。


 「……着いて来てくれとは、言わない。ただ、着いて来たら大変な事に巻き込んでしまう事になると思う」


 「……そうか」


 「着いて行くわ」


 「だから、今すぐにこの場で返事をとは……えっ、何?野田なに?」


 「着いて行くって」


 「いやいやいや!俺が言うのも何だけど、さっき言った情報だって怪しさ満点じゃない!?」


 「信じるっつーの。大体、お前はそんな真剣な表情で嘘吐けるような奴じゃねーし」


 「…そうだけどさ」


 「それに、今ってブライス王国に飼われてるような感じで気に食わないっつーか…とりあえず、着いて行ったら真の助けになるなら着いて行くって感じかな」


 「野田……」


 こいつ良い奴だな……フェノーメノに拒まれているみたいに登場の度にシーンを阻まれていたというのに。許さんぞ世界め。


 「市原、野田は何と言うかこう……特殊だ。だから市原はゆっくり考え「俺も行くぞ?」


 「え?」


 「だから、俺も着いて行くと言った。聞いていれば何だ水臭い。全く…お前が真剣になる程の事なんだ。手を貸さない訳がないだろう」


 「市原まで……」


 アオイは市原と野田の言葉に嬉しそうな表情を浮かべ、「気に入ったぞ」と言わんばかりに尻尾で彼らの肩をバシバシと叩いている。


 「それで?真。どうするつもりなんだ? 言っては何だが、今は軟禁されているに等しい状況だ。戦争が終わった後、どのような扱いになるか分かったものじゃないぞ」


 「……あ、あぁ。それについてなんだけど…」


 真は、あまりにもあっさりといった幼馴染みたちへの相談に肩透かしを食らった気分になりつつも、計画を話して行く。


 「……なるほどな。そんな事が可能なのか? ………いや、真が言うんだ。わかった、それでいこう。俺たちがその計画に入っても大丈夫か?」


 「問題ないよ、魔力量には自身があるし」


 「オッケー! とりあえず、戦が始まったら真の傍にいくわ!」


 行けたら行くわ!みたいなノリで野田も同意した。大丈夫かなこの子。


 「よし、話したかった事はこれで全部だ。市原、野田。本当にありがとう」


 「気にするな。それじゃあそろそろ戻るよ。おやすみ」


 「アバよ!」


 市原と野田がそれぞれのテントへと戻って行く。佐倉はごく自然にテントに残りそのまま真の寝袋に入ったが、それがアオイの逆鱗に触れ寝袋ごと振り回されている。


 そんなこんなで佐倉は自分のテントへ戻らざるを得なくなり、真も自分の寝袋へ潜り込み眠りへ着く。寝袋には佐倉の匂いが少しだけ残っていて、ちょっと興奮した。


 ◇


 そうして夜は更けていく。


 闇の中に、暗躍する存在を隠しながら。



誤字・脱字等のご報告いつもありがとうございます。


ご指摘があれば引き続きよろしくお願いいたします。



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