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人族なのに魔王  作者: 木ノ井 大貴
ユルド大戦編
14/17

始まりの時

昨日は薬を飲んだら寝落ちしてしまいました。


長めとなっています。


新章突入です!

 

 ◇


 「『魔王軍』がブライス王国内に侵入した」と報せを受けてから一週間が経過した。


 ブライス王国は国内の貴族から私兵を集め、冒険者ギルドへの要請を受けて馳せ参じた冒険者たちと合流し、装備や食糧をかき集め戦の準備を終えた。


 この総勢凡そ二十万となるブライス王国軍の指揮を執るのは王国騎士団の団長、バルテス=ミクリード公爵である。騎士団副団長は王の身辺警護やセイレーンに留まる軍の管理を任されているらしい。


 情報収集のため先立ってユルド森林へ向かった部隊からの報告によると、相手の兵力は凡そ三万程で、先遣部隊のような物ではないかとの事だ。しかしその中には、複数の魔人が確認されている。


 魔人とは、非常に厳しい訓練を耐え抜いた精鋭の騎士が百名程で当たってやっと討伐出来るかどうか、という程に強力な存在である。魔人の使う魔法は人族の扱うそれよりも遥かに強力であり、その身体能力も人族とは比べ物にならない程に高い。


 ブライス王国騎士団には五万人程が在籍しているが、その中で実力はピンキリであり精鋭と呼べるのは千名に届かない程度しか存在しない。それに加え魔人と相対出来る者というと、その数はさらに少なくなる。


 魔人の存在がする事を考えると、たかが三万程度の規模の軍など、といって決して油断は出来ない。いくら勇者たちがブライス王国側についているとはいえ、実際の戦場では何が起こるか分からない。


 それに、真は魔人がさらに強力になっている可能性がある事を知っている。


 魔王などの上位種による『名付け』である。『名付け』が行われた魔族や魔物は、名付け親の実力によって差はあるのだろうがその恩恵を受けて能力が向上するのだ。


 実際、真の眷属であるアオイやツバキは、『名付け』以前とは比べ物にならない程に強くなったようだ。特にツバキ。


 しかしながら、この『名付け』を知っている事による懸念は上申する事が出来ない。


 王宮内に軟禁といっていい扱いを受けている筈の勇者が、なぜそのような事を知っているのか、と問いつめられるのが目に見えているからだ。


 そうなってしまえば、いくらその場を切り抜けた所で真に何らかの疑いが向けられるのは必然であるし、最悪魔王軍との繋がりを疑われ処罰を受ける、なんて事もあるかもしれない。


 処罰で死ぬ事はないだろうが痛いのは嫌だし、そもそもそこまで疑われてしまうのはまずい。身動きがとれなくなってしまうのは御免だし、ブライス王国を離れる事が難しくなってしまうだろう。


 そういった理由から、真は『名付け』を誰にも報告する事なく、何かあったら自分が対処しなければと密かに決心していた。


 ◇


 ユルド森林方面、セイレーン東門の前にはブライス王国軍八万程が整列をして進軍の合図を待っていた。


 いつもならば行商や農民の出入りが激しく喧噪に包まれている東門は、兵達の緊張した雰囲気が伝染し静寂に包まれていた。


 真は隊列の中ほどにおり、佐倉は真よりも後方、市原、野田は前方にいるようだ。周囲を見ると戦闘力を持つ勇者の殆どが動員されているようだ。


 佐倉たちの所在が何故分かるのかと言うと、真が新たに創り出した『地図』と『目印』という魔法によって、真の脳内に今いる東門付近の地図が浮かんでおり、その地図に真の他アオイ、ツバキ、佐倉、市原、野田がそれぞれ色の着いた点で示されているからだ。


 『地図』と『目印』はツバキの盗難防止のために編み出したのだが、これは使えるかもしれないと思い、朝食の時に佐倉たちに『目印』をつけておいた。ちなみにこの『目印』、脳内に表示されている『地図』の範囲外へ出てもおおよその方角が分かる、という優れものである。


 辺りを暖め始めている朝日を受け目を細めながら、真が「『創造魔法』ほんと便利」と思っていると、ついに進軍の手筈が整ったようだ。


 「全軍、ユルド森林に向けて進軍を開始する! 敵軍はユルド森林から4キロ程前進した平原に人を構え待ち受けている! 一匹たりともセイレーンへ通してはならぬ!」


 途端に、東門はいつもの喧噪以上に騒がしくなる。


 「「「うおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」


 王国軍はバルテス騎士団長の言葉を受け雄叫びを上げ、軍の見送りに来ている民衆からは激励の言葉が次々に叫ばれる。


 「ブライスに侵入した魔物どもをぶっ殺して来い!」

 「死ぬなよ!お前ら!」

 「魔人なんか蹴散らしちまえ!」


 王国軍も民衆も、俄に高揚した雰囲気に包まれる。なんか浮ついているように感じてしまう。勇者たちもこの空気には馴れないのか、そわそわしている。アオイは俺の履いている革製のグリーブを何が楽しいのか、てしてしと両足で交互に踏みつけている。可愛いけど今はやめて。



 「進軍開始!!!」


 「「「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」


 ついに進軍が告げられ、王国内へと侵入した魔王軍先遣隊を討ち滅ぼすべく、浮ついた雰囲気のままにブライス王国軍は敵軍へと進軍を開始した。


 ◇


 ユルド森林へは、騎馬隊を除き全軍が徒歩で行軍する。


 騎士団や冒険者の面々はもちろん乗馬出来るであろうが、勇者たちの殆どは馬に乗る事が出来ないし、そもそも騎馬隊以外に訓練された馬を支給出来る程の余裕がブライス王国にはない。


 よって、前回は『身体強化』で駆け抜けた道のりを、装備を身に付けた上でえっちらおっちらと歩いて向かわなければならない。


 とは言っても真は楽な方だ。 そもそも真の能力値的に大抵の装備の重さは問題にならないし、真が『魔獣使い(仮)』である事から使い魔と共闘する前提の装備であるため、身軽に動けるように革製の胸当て、グリーブ、腕甲、それに鉄製の短剣だけだ。


 それに比べ市原は分厚い鉄製の全身を覆うフルプレートを着込んでおり、歩く度にガシャガシャ言わせている。本人曰く、「地球では歩く事さえ出来ないだろうな」だそうだ。


 野田は鉄製の鉢金に手甲、胸当てなどを付けている。市原よりは動きやすい服装に見えるが、やはり装備の重さは感じるらしくその足取りは重く見える。


 佐倉は魔法使い然とした装備で、朱色のローブに同色のとんがり帽子を身に付けている。朝食の際に「暑い」と言っていたので、「その中にも何か着ているのか?」と聞いたところ、その可愛い顔を真っ赤にして俯いて黙り込んでしまった。


 後で騎士団の魔法使いに聞いた所によると、女性の魔法使いにローブの中について聞くのは地球で言うセクハラに当たる。地方によってはその言葉自体が求愛に似た意味を持つ事があるらしい。


 要するに真は無意識のうちに、朝っぱらから佐倉に向かって「そのローブの中身を見てみたいもんだぜ………ベッドでな」と言ってしまったに等しい。それを知った時、真は佐倉の反応の意味を知り、真の死にたいという願いの強さは天元突破した。


 とりあえず今は佐倉がこちらに見向きもしてくれないので、ユルド森林前での戦いが終わった頃にタイミングを見計らって土下座しなければ、と真の優先順位高めの所に位置づけて忘れないようにしておく。


 しかしながら、佐倉との間に生まれた誤解を解消するタイミングは、真が思っていたよりも早く訪れるのだった。


 ◇


 朝の8時頃にセイレーン東門を出発したブライス王国軍だったが、その行軍は想像以上に遅々としていた。


 隊列を組んで行動する事に馴れていない冒険者に加え、勇者たちが徒歩での長距離移動に馴れていないからだ。体力的には何の問題も無い筈であったのだが、装備を身に付けて隊列を組んで緊張した雰囲気の中行軍するのと普段の訓練では大きな違いがあったのだろう。


 ブライス王国軍は夕方に差し掛かる16時頃にその行軍を止め、野営するためにテントを張り一時的なキャンプを設営する。


 後から合流して来た輜重隊が運び入れた食料などを用いて炊き出しが行われ、本日の夕食はカレーライスが振る舞われた。今回はブライス王国内での争いとなるので、こういった戦時にしては豪華な食事も可能になる。


 そう、この世界には米がある。


 この米は、地球にあった米とは種類が異なるらしいが、初代の勇者がこの米を見つけ、世界中に広めたらしい。そしてカレーのためのスパイス類はギルドを設立した勇者が、設立のために世界中を奔走している際に見つけたらしい。


 初めて勇者宿舎で米を使った料理が出て来た召喚されてから二日目の朝は、勇者たちが狂喜乱舞した。召喚され二日しか経っていなかったが、皆どこかで米などの日本食は暫く、あるいは二度と食べられないのだと諦めていたのである。


 夕食を平らげた後、勇者たちは夜番を言い渡される事もなかった。各々支給された個人用の小さなテントを決められた区画に張った後は、そのまま寝ても良し、キャンプ内で仲間との交流を深めても良し、と自由時間だった。


 もちろん真は佐倉たちくらいしか知己がいないため、テント設営後佐倉たちの方に向かおうとしたのだが、朝の失態を思い出して眠ってしまう事にする。


 テントの中に入り、支給された寝袋を広げその上にゴロンと横になる。テントの入り口では、アオイが何とかして身体をテント内に捩じ込もうと、入り口に挟まりながらガサゴソとしている。


 すると、アオイは「これだっ!」という顔をした後テントに背を向け、九本の尾を使ってテントの入り口をぐいぐい押し広げようとし始め……


 ……って、待って! やめてやめて!! 


 このテントそういう素材で出来てないから!! 伸びないから!!


 「分かった!アオイ悪かった! 俺が悪かったよ! 少し楽しげに眺めててごめんな!! 今テントに入れるような魔法創る! 創るから入り口広げるのやめて!!!」


 テントが素材的な限界を迎えそうな程、入り口付近が広げられた時になって慌ててアオイに声を掛ける。


 アオイは真の声を聞き、嬉しそうな雰囲気を放ちながら入り口の少し外でお座りしてこちらを見ている。


 しかし入れるようにするとは言ったものの、どんな魔法にすればいいんだろうか。


 テントの中の空間を広げて、アオイを中に転移させればいいか……? と見当をつけ、真は魔法を創り始める。


 すると、テントの内側の空間が光を放ち始め、光が収まるとその空間の広さはかつて召喚された時の地下空間を彷彿とさせるような………


 「広すぎるわ!!」


 真のツッコミが虚しく響き渡る。


 確かに、アオイが入る事を考えて少し余裕を持たせたいな……とか思ったけど! 度が過ぎる!度が過ぎるよ!!


 この中だけでアオイが30匹は飼う事が出来そうな広大な空間が生まれた。天井は広さに比例するのか、4メートルはあるだろうか。こんな広い中、一人と一匹と一機で寝るとか嫌すぎる。


 『空間操作』と名付けたこの魔法をもう一度発動し、アオイ3匹分くらいの広さまで空間を縮小させる。


 魔法が丁度良くいったのを確認すると、アオイを転移させて中に入れるために一旦テントの外へ出る。一応テントの外観を見てみるが、大きさに変化は無く個人用テントそのままだ。上手く空間だけを操作する魔法が出来たらしい。


 アオイが近寄って来たので、周りに誰もいないのを確認すると柔らかな毛並みが感じられる頭をモフモフしつつテントの中へ転移する。


 ◇


 アオイをテントの中に入れる事に成功し、アオイにもたれかかりその尻尾や胴のモフモフを心置きなく楽しんでいた時の事だった。


 アオイが急に立ち上がり、テントの入り口へと目を向ける。どうしたのか、と考えているとテントの入り口から声がかかる。


 「真、中にいる……?」


 その声は、真が朝に失礼を働いてしまった佐倉 千乃その人だった。


 真はその声に慌てて立ち上がり、急いで入り口の方へ向かう。このテントの中へ入れる訳にはいかなかった。


 入り口に立ち、中をが見えないように少しだけ開いて外に出る。


 そこには、美しいその髪を少し濡らしどこか色っぽさを感じさせる、朱色のローブを身にまとったままの佐倉の姿があった。帽子は外したようだ。


 「あ、あぁ。佐倉じゃないか。 済まない、少し中でうとうとしていて……な、何か用かな?」


 動揺してる感が全面に押し出された対応をしてしまった。だって今朝話してくれなくなってしまう程の失態を犯してしまった相手が、こんなに早いタイミングで来るなんて思っていなかったんだもの。


 「えぇと………その、用というか…」


 佐倉の歯切れが珍しく悪い事に、真は朝の失態は一先ず置いておく事にする。優先順位は佐倉自身の方が高いのは当然だ。


 「とりあえず、そうだな……いま俺のテントの中は使い魔でいっぱいだから、話を聞くのは佐倉のテントの中でもいいか?」


 「えぇ!? でも、そっか……うん、そういうパターンも良いかな……うん、そうしよっか。私のテントはこっちだよ」


 何やら中ほどが真の聴力を持ってしても声が小さく、もにょもにょとしていたために聞き取れなかった。難聴系男子にはなりたくないのだが、実際の会話ではこんなに小声とは聞き取りづらいのかと、妙な感慨を覚える。


 佐倉のテントに到着すると、中に入る。俺が中に入る際、佐倉が妙に周囲を気にしていた。


 テントの中に入り向かい合って座る。佐倉が切り出すのを待っているのだが、もじもじとして中々話し出せずにいる。その様子も大層可愛い。


 普段クールな彼女の、髪をいじりながらこちらをちらっと見ては顔を赤くして背ける、といった行動には破壊力がある。効果は抜群だ。


 しかしながら、客観的に見て真は彼女に対して朝っぱらからセクハラを仕掛けた変態に過ぎない筈。もしかしたらこれは……


 「あ、あのね、真」


 真の思考が堂々巡りになり、ついには愛とは何か、という哲学の扉を開いてしまった時、ついに佐倉がその口を開いた。


 「し、真になら、その………わ、私、いいよ………?」


 「マジで!? っじゃない!違う違う! ……佐倉、女の子が好きでもない相手に裸を見せちゃいけませんの事よ?」


 一瞬、素で喜んでしまう真だったが、すぐに冷静になり佐倉に言い聞かせるように言う。いや、まだ動揺してたなこれ。人生初の語尾とかついちゃったし。


 「……私、真の事好きだよ?」


 知らなかったの?みたいな表情ですぐに佐倉が答えて来る。


 「それは素直に飛び上がっちゃう位に嬉しいし、ル○ンダイブしちゃいたい位には気分が高揚している。俺も佐倉の事、好きだしな。でも、何と言うかきっかけは朝のアレ……なんだよな?」

 

「う、うん。真がそんな風に私を見ててくれたって知らなかったから、嬉しかった。 こっちの世界に来てからは、距離を感じてたから……」


頬を朱に染めながら、そう教えてくれる。くれるのはいいのだが……


「すまない、その、朝の事なんだけど…女性の魔法使いに、ローブの中について聞くって事がそんな意味だって知らなかったんだ」


何も言わずにこのまま佐倉と付き合う事も出来たのだろうが、それは真の良心の呵責的に無理だった。それに、初めて女の子と付き合う時は、楽しく過ごしたい。後ろ暗い思いを持ったまま平然と付き合うなど、ヘタレな真には不可能だ。


「ふふっ…やっぱり」


「……え?」


「何と無くだけど、そうかもなって思ってた。真ってどこか抜けた所あるし。

…でもね、良い機会かなって思って。もし駄目でも、冗談みたいに済ませる事も出来るし。その分、真剣に受け止められないかもって不安だったけど、ちゃんと聞いてくれて嬉しい。しかも、真が、その、私の事………好き、って言ってくれたし………」


「俺は、とりあえず朝の事は謝らないとって思ってたんだ。怒らせちゃったと思ってたし。佐倉の様子を見れば真剣だってすぐ分かったから、とりあえず誤解を解かないとって焦ってたら…その、本音が…

……発言に責任は持たないとな。俺、佐倉の事が好きだ。これからも、ずっと一緒にいたい。良かったら、俺と付き合ってください」


「……ッ! はい…!!」


なんというか、朝のちょっとした発言がこんな結果を齎しててくれるとは、思いもよらなかった。


佐倉は真の告白に、少し瞳を潤ませながら、可憐な笑みで答えてくれた。


(一人目ですね)などとツバキが告げたのが耳に入らない。今の真は幸せの絶頂にいる。


「…中、見る?」「見る!!」



翌日、明らかに距離が近くなった真と佐倉を見て、市原と野田は何も言わず、ただただ親のような表情をしていた。とても温かな視線を向けて来るのだが、居心地が悪いのでやめてほしいものだ。


もっとも、居心地が悪いのは二人のせいだけではない。市原と野田が好意的な視線を向けて来るのに対し、佐倉に思いを寄せていた男子、つまりは殆ど全員が真に向けて嫌な視線を向けている。嫉妬は以前からあったのだが、今向けられている中にはひょっとすると殺意もあるかもしれない。アオイも刺々しい視線を向けている。お前は何でだ。



戦時とは異なった緊張感に包まれつつも朝食を済ませると、皆迅速に片付けをこなし、準備を整えて朝日が差す中行軍を開始する。


思えばこの時すでに、引き金は引かれていたのかもしれない。


真が王国を離れるきっかけとなる、後世には伝えられる事のない、人の欲望に塗れた嫌悪すべき事件の。





誤字・脱字等のご指摘ございましたら、

よろしくお願いいたします。



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