目的
またこの時間になってしまいました…
勝手にランキング50位に入っていました!
投票してくださった皆様、ありがとうございます!
今後とも、本作を宜しくお願い致します!
◇
時刻は午前1時頃。
辺りはすっかり静かに、という訳にはいかないが、真の周囲にある勇者たちのテントはすっかり静かになっている。
0時になった瞬間に、実織が「お兄ちゃん!!!」と言いながら入り口付近から弾丸の如く突撃してくるという事案が発生したが、真に到達する前にアオイの尻尾に「お兄ちゃん実織は!実織は、寂しかったでふべっ!」と叩き落とされそのまま気絶したので問題ない。
真は密かに幻惑魔法の一つ『偽りの微睡み』を発動する。
これは術者の指定した範囲に存在する者すべてに、強制的に眠りに着かせるという魔法である。ゲームなどでは強者には通じなくてなんだかなぁ、と思っていたものだが、これ現実に使えるととても便利な魔法である。戦場などの争いの場で使用すると、相手は否応無く無防備な姿をさらしてしまう。
抵抗のある者には効きづらいという点はこの世界においても同じなのだが、そこは魔王補正である。今発動した魔法に抵抗出来るのなど、魔王くらいのものだろう。
魔法が問題なく発動したのを確認すると、真はそっとテントを出る。魔法が効いていれば必要の無い事なのだが、念のためである。小心者とか言わないで欲しい。
ちなみにアオイは、入り口を通す時にだけ創造魔法『小型化』を使い、小型犬サイズにして入り口を通り抜けた。今夜の真の目的を考えると最低限の隠密性は必要となるので、入り口を通り抜けられないようなサイズのアオイは置いて行こうと思っていた。
思ってはいたのだが、真の考えている事が分かったのかアオイがすぐさま土魔法で「ズガガガッ!」とトンネルを掘る作業に入ったので、どうしたものかと考えた時にこの『小型化』を思いついた。……そうだよね。最初からこうしていれば良かったんだよね………
真は『大型化』でアオイを元のサイズに戻し、ユルド森林へと足を向ける。
◇
真は結局、『転移』を使い、以前魔力切れを起こした時に逃げ来んだ森林の中へ移動した。これはツバキの進言で、一度森林の中へ入ったことを思い出したからである。
転移した先の森林の中は、沈黙に包まれていた。
辺りには虫の一匹もいないのではないのかと思ってしまう程に静寂が満ちているが、真はツバキの『感知』によって、すぐ近くに数人の魔人が潜んでいるのが分かっている。
真は、とりあえず一番近くにいる魔人の元へ向かう。
すると、
「まままま魔王様!? す、すみません、このようなだらしない所を………!!」
そこには森林の草葉でベッドのような物を作り、その上で寝転んでいる美女がいた。……いくら敵にまだバレていないとは言え、くつろぎ過ぎではないだろうか。
「……落ち着いてくれ。君が誰に仕えているのかは知らないが、この戦の責任者と話がしたい。あと俺はまだ魔王じゃないぞ」
「…落ち着きました!………お聞きしたい事があるのですが……」
「ん?あぁ。何?」
「お見受けした所、魔王様…ではないのでしたか、えぇと…」
「シンと呼んでくれ」
「ありがとうございます。…シン様は、人族のように見えるのですが……」
「あぁ、そうだ。俺は間違いなく人族だ」
「えっ!?何でですか!?」
「何でって言われても……」
アオイが苛々して来ている。今も「処す?処す?」と尻尾を素振りしながらこちらの顔を除き込んで来る。処さないから。
「ひっ!し、失礼いたしました!」
「いや、気にしないでくれ。それで、頼んだ用件についてなんだが……」
「は、はい!魔王さ…シン様でしたね!ごめんなさい!シン様であれば、すぐにでもお会いになられると思いますぅ!」
「そうか……なぁ、少し騒ぎすぎじゃないか?他の魔人も近づいて来てるみたいなんだけど」
「…たた確かに!そうですね! でも、近づいて来ているのはシン様が魔王様に似た魔力を持っているからだと思います!」
会話をしている間にも、どんどん気配が近づいて来ている。というか周りの木々からチラチラとこちらを見ているのが見える。
「…はぁ。お前を最初に話しかける相手に選んだのは失敗だったな……」
アオイが「やっぱり処す?」という顔をするが無視する。
気配や魔力を隠して近づく事も考えないでは無かったのだが、その場合どうしても戦闘が発生してしまうような気がして実行には移せなかったのだ。だから、ある程度周囲にバレるのは織り込み済みだった。
「まぁいい。出来るだけ目立たないようにするつもりだったんだが、ここまで気付かれてしまっては意味がないな。主の元へ案内してくれないか?」
ここまで集合するほど杜撰な作戦なのだから、少しの間一人がこの場から離れるくらいは構わないだろう。
「はっはい!!」
「…ところで、君の名前を聞いてなかったね。よければ教えてくれないかな?」
「…エ、エリアル=ヴェントールと申します!」
「エリアルか…良い名前だね」
「……はい!」
酷く緊張している様子だったのと、そういえばと思ったのとで名前を聞く。真と会話している間、その端正な顔が終始引きつっていた。
最後には少し笑顔を見せてくれたので良かった。決して浮気では無いんだ佐倉。
などと真が言い訳じみた事を考えていると、エリアルが魔法陣を空中に描き始める。
「初めてご覧になるでしょうか。こちらが『転移』の魔法陣です。人族には伝わっていない魔法だと聞いていますから、驚きになられるのも無理はありません」
「いや、魔法陣を初めて見たんだ」
「そうでしたか。…では、転移の際に少々ご気分が悪くなられるかもしれませんが、ご容赦を」
「あぁ、いやそれは大丈夫。『転移』使えるし。それで、これに触ればいいのかな?」
「えっ!?あ、はい!」
エリアルが答えると真はすぐ魔法陣に触れる。アオイが真の身体に尻尾を巻き付けて来る。いつも転移する際にはそうしているからだろう。このモフモフのお陰で、真は転移の際に生じる妙な感覚に捕らわれる事なくいられるのだ。
モフモフって偉大だ。
◇
エリアルの描いた魔法陣に触れた次の瞬間、真は多数のテントが立ち並ぶのを見ていた。恐らくは『魔王軍』のベースキャンプだろう。背後にユルド森林が見え、正面には陣のような物がある事から、旧イルソン帝国側に来たのだろうと推測する。まだブライス王国側かもしれないが、エリアルが騙してまで王国軍の側へ転移するとは考えにくいだろう。
しかし、魔王軍の兵力が凄まじいのは分かっていたが、こんなにも多くのテントが立ち並んでいるとそれだけで壮観である。ざっと見た所、ここにあるのは千といった所だろうか。同じ物が規則正しく並べられているだけで、ある種の美しさを感じてしまう。
兵力の多さから考えるに、他にもここよりも大規模なキャンプが何カ所が存在している筈だ。
「ここが、魔王軍の本陣って所かな?」
「はい。申し訳ないのですが、魔王様のいらっしゃる所までは歩きでの移動です。それでは、こちらに」
そう言ってエリアルが真を先導して歩き始める。
すると「バババッ!」と音を立てて並んだテントの入り口が開き、その全てから魔人が飛び出て来てスライディング気味に真が歩こうとしていた道の両脇に跪く。
……何これ………
「「「「……」」」」
「………」
「「「「……ッ!!!」」」」
「何も言わないのかよ!!」
恐らく、自らの使える魔王がお出でになったのだと勘違いをし、慌てて参上したものの顔を見てみると違うしどうしようとでも思っているのだろう。ここは真が何か言わないと、彼らにもどうしようもないだろう。
「……ただの客人だから、皆それぞれ戻るといい。混乱させたようですまなかったな」
「「「「い、いえ!」」」」
「「「「そ、それでは!!」」」」
何とも息の合った解散である。
集まるのも一瞬であったが、散って行くのも一瞬だった。
「……はぁ」
「シ、シン様…彼らにも悪気はないのです……」
「あぁ……大丈夫、分かってるよ………」
「今度こそ、こちらです……」
エリアルもどこか疲れた様子で案内を再開し、テントが立ち並ぶ中を奥へと進んで行く。
◇
エリアルの先導で少しの間歩いて行くと、他のテントよりも一際大きく豪華なテントの前にたどり着いた。入り口には二人の警備兵が立っている。さらに、警備に死角が出来ないようテントを囲むように等間隔で警備兵が立っているようだ。
「シン様、少々こちらでお待ちを」
そう言うとエリアルは真の傍を離れ、テントの入り口を警備している者へと寄って行く。
エリアルが警備員と少し話すと、一人が慌てて中に飛び込んで行った。何を言ったんだエリアル。
「シン様、お待たせ致しました。ただいま、取り次ぎの者が陛下に用件を伝えに参りましたので、まもなくお会いになる事が出来ると思います」
「そうか。…助かったよ、ありがとう。エリアル」
「い、いえ! もったいないお言葉です! それでは、私はこれで…」
「え?もう行っちゃうのか?」
「えっ……その、まだ居ても良い、と仰って頂けるのであれば………」
「あぁ、なら是非頼むよ。何しろ魔王に会うのは初めての事だし、何か至らない事があるかもしれないし。そういう時、助言してくれるとありがたいよ」
「承知致しました!ありがとうございます!」
「…んん? あ、あぁ。とりあえずもう少しの間よろしくね」
何やら互いの認識に齟齬をきたしているような気がするのだが、とりあえず忘れる事にする。これから会うのはこの戦を始めようとしている張本人であり、さらに自分と同等の力を持つであろう存在である。
真にとって、自分と同様の力を持つ者と対峙するのは初めての事であるし、相手も戦の緊張感からピリピリしているかもしれない。
もしかしたら、真の事が気に食わずにそのまま戦闘に突入、なんて事もあるかもしれないのだ。とにかく、誤解を招いてしまうような事はこの場において御法度である。だからエリアルが居てくれるというのなら、居てもらった方が絶対に良い。
別に美女だと分かっていたエリアルが、明かりの下で見たら尚の事可愛かったからとか、そういうのは関係ないのだ。だから視線でプレッシャーを掛けて来るのはやめてくれないかな、アオイ。
アオイから発せられる殺気に、死期が近いんだなぁと悟っていると先ほどテントの中へ飛び込んで行った警備兵が真の元へとやってくる。
「……ハァッ、ハァッ……ま、魔王様が…ゲフッ…お、お会っ…ゴホッゴホッ!!」
「お、落ち着いて落ち着いて。何もこんな短距離をそんな全力疾走する事ないだろうに…」
「め、命令だったもので……お見苦しい所をお見せしてしまいました。申し訳ございません」
「構わないよ」
「……魔王様がお会いになるそうです。こちらへどうぞ」
警備兵がテントの入り口へと真を誘導してくれる。
「魔王様は中でお待ちです。どうぞ中へお入り下さい」
「ありがとう」
真は礼を言うと、周りに気付かれないように一つ深呼吸をして呼吸を整える。大丈夫、まだ慌てるような時間じゃない。
心の中で仙○に落ち着きを取り戻してもらい、覚悟を決める。
そしてアオイに『小型化』を掛け、真はテントの入り口にかかる幕に手を掛けて徐々に開いて行く。
◇
こうして、フェノーメノ史上初となる、強力無比な存在である『魔王』同士による会談は始まる事となった。
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