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光速超越せし救世主~サオシュヤント・ルチルクォーツ~  作者: ストラテジスト
エピローグ

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エピローグ1

「――お兄ちゃん、起きてー! もう朝だよ!」

「んんっ……うぅ……」


 身体を揺り動かされ、光斗の意識は夢の世界から呼び戻される。朝の日差しに眩しさを堪えつつ瞼を開くと、薄ぼんやりした視界に最初に映ったのは可愛い妹のキス顔だった


「早く起きないとチューしちゃうよ? おはようの、チュ――うきゅっ!?」

「おはよう、愛理。今日も朝からご機嫌だな?」


 とりあえず額に軽く手刀を叩き込み、キスをキャンセルしつつ挨拶を口にする。普通ならかなり刺激の強い目覚ましだが、別に今回が初めてではないので慣れたものだった。


「おはよう、お兄ちゃん! 今日も新しい一日がやってきたよ! お兄ちゃんが護った世界の新しい一日だ!」


 もちろんやる側の愛理もこの対応には慣れっこ。額への手刀を特に気にした様子もなく立ち上がり、新しい朝の到来を祝うかの如く両腕を広げ満面の笑みを浮かべていた。ベッドに仰向けで寝ていた光斗に跨る形のため、スカートの中が丸見えである。気にしていないのか狙っているのかは不明だ。


「俺だけの功績じゃないよ。仲間たちが頑張ったおかげさ」

「謙虚! さすがはスーパーヒーローのライトニング! カッコいい!」

「ああ、分かった分かった。ほら、着替えるから早く出てけー」

「キャハー!」


 朝から無駄にハイテンションな妹を部屋の外に押しやり、着替えのためにクローゼットを開けようとする光斗。しかしその途中、窓の外に見えた光景に足を止めた。

 愛理がカーテンを全開にしたらしく、窓の向こうには見慣れた街角が広がっている。絶望の未来など欠片も匂わせない、普段通りの街並みだ。暖かな日差しが降り注ぎ、犬の散歩やジョギングをしている人の姿が見受けられる平和な光景であった。

 ヴィーヴルとの激闘から五日が経過し、今は六月十日の土曜日。戦いの舞台となった松雪中学校の近辺や、光斗が走るためにぶち抜いた建造物の数々こそ未だ滅茶苦茶なままだが、努力の甲斐あって世界は穏やかな未来へと進んでいた。

 尤も平和を実現した一番の立役者は、もうこの世界には存在していない。それが何とも悲しく、やるせない気持ちにさせるのであった。

 きっとこれからも、この気持ちを抱えたまま生きて行かねばならないのだろう。しかし悲しみが消えない限り、彼女たちは胸の中で生き続けている。世界を救い、未来を救ってくれた彼女たちの存在を忘れない事こそが、光斗に出来る最大限の感謝の形であった。


「――おはよう、光斗。いえ、ライトニングって言った方が良いかしら?」

「朝っぱらからねちねち言うのはやめてくれよ、母さん……」

「良いじゃないこれくらい。息子が身の危険を顧みずにヒーロー活動なんてしてるんだから、これくらいの嫌味は言わせてほしいわね」


 着替えを終えた光斗が一階に降りると、リビングに入った所で朱理の無駄に良い笑顔で迎えられた。前半の挨拶部分はともかく、後半部分は実に刺々しい響きがあった。

 ヴィーヴルの一件で正体を明かし、戦いに赴く事を認められたのは過去の事。あの時は結構な緊急事態だったために認めて貰えたのだが、最近ではやはり思う所があるのか唇を尖らせ、不満気な顔をしてキッチンに戻って行った。


「あっ、そうだ。あなたの衣装、修繕終わったわよ。出してあるから確認しておいて」


 その途中、ソファーの前にある小さなテーブルを指差す。見ればきっちり畳まれた光斗のヒーロー衣装が置かれていた。

 ヴィーヴルとの決戦の後、正体を明かした事もあり駄目元で修繕を頼んでいたのだ。グリーフとの戦いを経て、ヴィーヴルとの決戦により最早完全に襤褸切れと化したのだが、一体どんな手段を用いたのか完璧に修繕されていた。


「……何だかんだ言いながらやってくれたんだな。ありがとう、母さん」

「あの人の子供だもの。言っても聞かない事は分かってるわ、全く……」


 素直に感謝の礼を述べると、朱理は慈愛と呆れが複雑に入り交ざった表情を残して今度こそキッチンへと去っていた。

 思う所はあれど、光斗の活動を応援はしてくれているらしい。あるいは困った人を見過ごせない気質を持つ者に対しては、それを全力で支えてあげるしか無いと割り切っているだけなのかもしれないが。


『くああぁぁ……おっ、もう朝か。少し寝坊してしまったようじゃの』


 衣装を片付けに部屋に戻った所で、ようやくルチルが姿を現した。大あくびをかましながら伸びをしている半透明な<結晶人(ジュエリアン)>の姿が、光斗の傍らの定位置に浮かび上がる。

 元々ヴィーヴルに追われて逃げてきたルチルたちは、諸悪の根源が討伐された事で自由の身となった。尤も故郷の星は滅ぼされ、残った<結晶人>も僅か四人という事で行き場も無い。今後の身の振り方を考える必要もあるそうで、結局は今も一心同体のまま過ごしていた。

 また悲しい別れにならずに済んで、光斗たちとしては一安心だった。プライバシーがあまり存在しないのは少々厄介だったが。


「おはよう、ルチル。お前は好きなだけ寝てられて良いよなぁ? 羨ましいぜ……」

『何じゃ、朝っぱらから辛気臭い。今日は決戦の日じゃというのに、そんな様子では纏まる話も纏まらんぞ』

「だってなぁ。結局結論は出てないし、心底気が重いんだよ……」

『優柔不断な奴じゃのう? まあ分からないでもないが』


 ルチルの言葉に今日の重要な予定を思い出してしまい、沸き上がった暗鬱とした気分に耐えられずベッドに倒れ込み打ちひしがれる。

 世界の命運を賭けた決戦は終わり、希望の未来を勝ち取った事自体に異議はない。しかし一つの戦いが終われば新たな戦いが幕を開けるもの。世界の命運を握る程ではないが、光斗の人生に深く拘わる戦いが今日この日、予定されている。

 究極の二者択一を迫られる戦いだと分かっているのに、結局光斗はどちらを選ぶか決めかねている。今日に限っては身体能力や<星彩光(アステリズム)>はクソの役にも立たないのだ。あまりにも気が重く、全てを忘れ二度寝したくなってくるほどであった。


「――光斗ー、ご飯できたわよー?」

「早く食べよー、お兄ちゃん!」

「ちくしょう、もう朝メシかよぉ……」


 ベッドの上でうじうじ塞ぎ込んでいると、やがて階下から朱理と愛理の声が聞こえてくる。どうやらいつの間にか結構な時間が過ぎ去ってしまったらしい。

 意識を加速し時間感覚すら操作できる光斗でも、非常に億劫な戦いを控えていれば時が経つのを早く感じてしまうらしい。着々と決戦の時が近づいてくる事実に、ますます気が滅入ってしまうのだった。


『いずれにせよ、万全の状態で臨まなければ始まらんぞ。まずはきっちり食事を摂るべきじゃ。愛する家族との幸せな時間を噛み締めながら、しっかり栄養を付けるが良い』

「だよなぁ。あんまり腹に入らなさそうだけど……」


 とはいえ腹が減っては戦が出来ぬ。何より<結晶人>と融合している<融輝人>は常人よりも多く栄養を取らなければならないので、食事を抜くのは死活問題だ。

 やむなく立ち上がった光斗は愛する家族との団欒で癒しを得るため、香しい味噌や醤油の香りに誘われるように一階へ降りるのだった。





 午前十一時頃、遂に光斗は決戦の舞台へと赴いた。

 そこは正に魔王の城とでも言うべき、凶悪な面構えを誇る城塞――ではなく、石造りのオシャレなカフェだ。異形の化物が蔓延っているわけでもなければ、提供されている飲食物が猛毒の劇物というわけでもない。完全に普通の飲食店である。

 何の変哲も無いカフェが決戦の舞台になる理由は、極めて単純明快な話。ここが待ち合わせ場所であり、同時に雌雄を決する戦いの舞台となるからだ。厳密に言えば、決めるのは雌雄ではなく雌という事になるのだが。


「うわぁ……」

『これはまた。実にひりつく空気じゃのう……』


 極めて憂鬱を抱えながら踏み入ると、店内を見回す必要もなく待ち人たちを見つけた。店内の一角、隅のテーブル席から尋常でない覇気や闘気の類を感じ取り、自然とそちらに視線を向けてしまったのだ。

 恐る恐る確認してみれば、そこには信頼のおける仲間たちが勢揃い。ただし宗二は顔を青くして妙な汗を流しており、翠と久遠はベンチシート側に二人で腰掛けひりつく空気を生み出していた。


「光斗さん、ようやく来てくださいましたか! さあさあ、どうぞこちらへ!」

『本当に待ってたよ! 来てくれてよかった! ボクら生きた心地がしなかったよ!』 


 見なかった事にして帰りたいと切実に願ったが、行動に移す前に宗二に見つかってしまう。彼は心底安堵した様子で駆け寄ってきたかと思えば光斗の腕を掴み、有無を言わせず席に引きずって行くという悪魔の所業に走る。


「や、やめろ離せ! 俺はちょっと予定を思い出したから帰る!」

「いいえ、絶対に帰しませんよ! 何故渦中の人物が逃げるつもりなんですか!」

『そうだそうだ、責任を取りなよ! 無関係のボクらがどれだけ精神をすり減らしてたか分かるかい!?』


 必死に抵抗するが宗二も必死であり、抵抗虚しく席に連れていかれてしまう。

 もちろん逃げようと思えばいつでも逃げられる。高速移動の<星彩光>を持つ者を捕まえるなどほぼ不可能だ。しかし翠と久遠が笑顔で視線を向けてきた瞬間、光斗の身体は凍り付いたように動かなくなった。可愛らしい笑顔だというのに、まるで鬼人の如き迫力を感じてしまったから。


「おはよう、光斗。ほら、ここ座って?」

「あ、いや、俺は椅子の方が……」

「ここに座ってね、光斗くん?」

「……はい」


 二人はベンチシート側、しかも自分たちの間をポンポンと叩いて座るよう促してくる。声音は優しく、悪感情は微塵も含まれていない。しかしヴィーヴルと相対した時以上の恐怖と絶望を感じてしまった光斗は、素直に従い二人の間に腰掛けるのだった。


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