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光速超越せし救世主~サオシュヤント・ルチルクォーツ~  作者: ストラテジスト
エピローグ

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エピローグ2

 光斗が腰かけた途端に二人は当然の如く距離を詰め、ほとんど腕と腕が触れ合うほどに密着してきた。二人の髪の毛から漂ってくる女の子の香りすら間近に感じられるほどだ。傍から見れば両手に花という状況に、周囲から嫉妬の視線が突き刺さる。だがこの状況を役得と感じられるほど光斗の精神は図太くなかった。


『ククク、遂にやってきたぞ。今宵の生贄が……』

『ご、ご愁傷さまです……』


 挙句にショールとサファイアが不安になる事を口走るのだから、最早生きた心地がしない。唯一の救いはこの場に他の男、つまりは宗二がいる事くらいである。


「では主役が来たという事で、お邪魔虫は退散させて頂きますね」

『あとは若い人たちでごゆっくり~、だね。さあ帰ろう、すぐ帰ろう』

「ちょっ!? お願い待って! 男を俺一人にしないで!?」


 しかし宗二は晴れやかな笑顔で颯爽と踵を返したので、即座に縋りついて懇願した。左右を固められているため、テーブルに身を乗り出す形で恥も外聞もなく。

 こんな状況で一人にされたら完全に孤立無援である。<結晶人(ジュエリアン)>も含めれば女性割合が圧倒的に多いため、何としても宗二だけはこの場に留めたかった。


「……はあっ。分かりましたよ、全く。躊躇いなく命を投げ出す覚悟はあるというのに、こういった事には心底情けない方ですね?」

『まあ仕方ないさ。戦いや命の危機とは別方向の修羅場だからね』


 深々とため息を零しながらも、宗二は再び席についてくれた。アクアと共に憐憫と同情の眼差しを向けてくるが、哀れまれる程度で留まってくれるなら是非も無い話である。


「ねえ光斗、覚えてる? 久遠との事にけりが付いたら、あたしの告白への返事をしてくれるって」


 しかし息を吐く間もなく、右隣の翠が先制攻撃を仕掛けてきた。静かに光斗の右手に触れ、下から覗き込むように上目遣いで見上げながら。相変わらず花のような愛らしい笑顔だが、悲しいかな今の光斗には悪鬼羅刹の憤怒の形相よりも恐ろしく映っていた。


「あ、ああ、もちろん。覚えてるよ」

「――それじゃあ、私の告白も覚えてる? ヴィーヴルの一件が片付いた後の事」


 若干震えた声で答えると、今度は左隣の久遠が光斗の腕を抱きながら尋ねてきた。一見すると地味な見た目に反し、同年代の女子と比べても大きな胸の膨らみが二の腕に押し付けられる。普段なら役得と取れたかもしれないが、今の光斗には二の腕に蛇が絡みついてるのにも似た怖気しか感じられなかった。

 実はヴィーヴルとの戦いを終えた翌日、久遠までもが光斗に告白してきたのだ。未来の久遠が最期に口にした言葉から考えるに、こちらの久遠も幼い頃から光斗への想いを胸に秘めていたのだろう。擦れ違っていたために告白できなかっただけで。

 とはいえ確執は埋まり、諸々の事件も終息を迎え、更にはすでに光斗に告白している少女の存在も明らかとなった。幾ら臆病な所があろうと、手遅れになる前に告白に至るのは半ば必然であった。

 尤も翠への返事も保留にしている光斗が、その場で答えを返す事が出来る訳も無い。先延ばしにした結果、翠だけでなく久遠への返事も今日この日に決めなければならなくなったわけである。


「ああ、も、もちろん……」

「二股ですね。最低です」

『どっちかというとキープってやつじゃないかな。まあ最低なのは変わらないね』


 乾く舌を必死に回して答えると、今度は宗二とアクアから蔑みの視線が向けられる。男子の比率を操作するために残って貰ったが、どうやら味方と言うわけではないらしい。針の筵状態の光斗は気が気でなかった。


「それじゃあ光斗くん、もう単刀直入に聞くね?」

「光斗はあたしと久遠、どっちを選ぶの?」


 そして遂に、久遠と翠は決定的な言葉を口に出した。どちらの好意を受け入れるのかという、究極の選択を。

 自分に好意を抱き告白までしてきた二人に対し、諸々の事情から返事を先延ばしにしていたツケが遂に回ってきたのだ。どちらかを受け入れ、どちらかを切り捨てなければならないという究極の二者択一。こんなもの簡単に決められるわけが無かった。


『もちろん、我が魂の片割れたるマグネーターに決まっておろうな!?』

『く、久遠、凄く良い子だよ……だから、久遠だよね? ね?』

「う、ぐぅ……!」


 左右から翠と久遠が、それぞれの<結晶人>と共に真剣な眼差しで見つめてくる。期待と不安に揺れた、美しい宝石のような瞳で。

 二人は背中を預けて戦った掛け替えのない仲間であり、同時にタイプは多少異なるが紛れもなく美少女だ。翠の方は明るく朗らかで活発なスレンダー美少女、久遠の方は物静かで穏やかなスタイルの良い健気な美少女。

 傍から見れば幼馴染である久遠の方に軍配が上がりそうなところだが、深く傷つけてしまった負い目もあり自分が彼女に相応しいのかどうしても疑問に思ってしまう。それに対して翠には別段確執や負い目が無いので、条件は完全に五分五分といった所。

 光斗自身は二人を憎からず思っているので、恋仲になる事自体は問題無い。しかしそのために二人のどちらかを選ばなければならないのが問題だ。どれだけ思考を加速させて頭を捻ろうと、選択する事が出来なかった。


「だ、駄目だ! 二人のどっちかなんて、選べないっ!」

『かーっ! この期に及んでまだ迷うか! 本当に優柔不断な奴じゃのう!?』


 体感的には数十分近く悩んだが、やはり決められず頭を抱えてしまう。融合している都合上、加速された時間に付き合わされたルチルが怒るのも無理はなかった。


「だってしょうがないだろ!? 二人共魅力的で可愛い子なんだし、どっちか片方を選べとか無理あるだろ! ていうかそもそも俺が選ぶ方なのが間違ってないか!? 二人ならどんな男だってよりどりみどりだろ!」

「やだもうっ、魅力的で可愛すぎて良いお嫁さんになれるなんて……」

「こ、光斗くんったら、口が上手いんだから……」


 極めて優柔不断な発言を逆ギレ気味に叫んだ光斗だったが、翠と久遠は満更でも無さそうに頬を染めている。同時にどこか安堵した様子を見せている辺り、二人共自分が選ばれないかもしれない可能性に怯えていたのだろう。

 その恐怖を呑み込み選択を迫ってきた辺り、二人の覚悟は本物である。結局選べず逆ギレ気味の弱音を零した自分が情けなくて、涙が出そうなくらいだった。


「そうですか。ではもう、二人共娶ってしまえばいいのではないですか?」

「はあっ!?」


 だがそんな折、宗二が極めて投げやり気味な面持ちでとんでもない解決策を口にした。これには光斗も、そして光斗の腕に抱き着く二人も飛び上がって驚いてしまう。


「日本国憲法では一夫多妻制は禁止されていますが、そもそも法律とは人間に適用されるもの。<結晶人>と融合している僕らは、恐らく遺伝子的にはすでに人間ではなくなっていると思います。ならば別に一夫一妻制に縛られる必要も無いのでは?」

「い、いや、だからってお前……!?」

「というか修羅場に付き合わされる僕らの身にもなってください。ハーレムだろうがなんだろうが、さっさと話が終わってこの地獄から解放されるなら全力で推し進めますよ」

『ハーレム良いよ、最高! だからこの話は終わりって事にしようよ!』

『ぶっちゃけおったな、こやつら。まあ他人事じゃからなぁ……』


 酷く擦れた目付きで零す宗二と、満面の笑みで同意するアクア。

 確かに二人からすれば他人の、しかも面倒な色恋話に付き合わされているのだ。ハーレムだろうが何だろうが、話が手早く終わるのなら是非も無しと言う事だろう。


「ば、馬鹿言うな! 大体、二人がそんなの受け入れるわけないだろ!」

「……あたしは、光斗が良ければそれでいいよ?」

「う、うん。私も……」

「なっ!? しょ、正気かよ、お前ら!?」

「だって、本当ならあたしが選ばれるわけ無いもん。久遠の方が可愛いし、賢いし、おっぱいも大きいし……」

「ううん。きっと選ばれるのは翠ちゃんだったよ。だって明るくて元気で素直で、正に女の子って感じだもん……」

「重要なとこで自己評価低いな、コイツら!?」


 先ほどまでの覇気はどこへやら。翠も久遠も心底ほっとした様子で背もたれに身体を預けていた。緊張から解放されたかの如く表情を緩ませ、身体も震わせている様子だ。どうやら光斗に選ばれない可能性を想像以上に恐れていたらしい。


「お前らも何とか言ってやれよ! 現代社会でハーレムとかおかしいだろ!?」

『別に良いのではないか? 優れたオスが複数のメスを娶るのは自然な事であろう?』

『ど、どっちかが選ばれずに悲しむより、みんな幸せの方が良いと思う……へへ……』


 なお、ショールとサファイアはハーレム肯定派らしい。どうやら宇宙人とは倫理観の問題で会話にならないようである。


「る、ルチル……!」

『わらわも名案だと思うぞ。<融輝人(ベゼル)>と<融輝人>が子を成せば、新たな<融輝人>が生まれるやもしれん。そうなれば<結晶人>という種の復興も夢ではないな。好きなだけ産めよ増やせよして地に満ちるが良い』

「んなぁ……!?」


 一縷の望みを賭けルチルに救いを求めるが、返って来たのは実に生々しく切実な問題の解決策。しかも明らかに気が早すぎる内容であり、これには光斗も絶句してしまう。


「では民主的に多数決で決まりですね。おめでとうございます、翠さん。久遠さん」

『新たなカップルの誕生を寿ごうじゃないか! おめでとう!』

「ありがとう、二人共。ああ、夢みたい。光斗くんと結ばれるなんて……」

「えへへ、憧れの人との恋が実っちゃった!」


 挙句光斗が固まっている間に、話がどんどん進んでいく。久遠と翠は頬を綻ばせて光斗に抱き着いてくるし、宗二と<結晶人>たちはパチパチと祝福の喝采を送ってくる始末。

 何としてもこの状況を切り抜けなければ、少女二人を同時に娶るクズになってしまう。そんなものは光斗の目指すヒーロー像とは全く逆の姿である。故に何とか頭を働かせ、翠と久遠を傷つけずに不埒な関係を拒絶出来る道を探そうとしたのだが――


「――あっ、サイレンだ。何だろ、事故かな?」


 カフェの外を通り過ぎるサイレンの音を耳にして、光斗以外の全員がそちらに意識を傾けた。告白や恋愛の話は終わったとでも言うように、全員が携帯を取り出してニュースやSNSを確認し始める。


「わっ、銀行強盗だって。しかもアサルトライフルで武装した集団って書いてあるよ?」

「日本で武装強盗ですか。しかも重火器とは、明らかに大きな犯罪組織が拘わっていそうですね。国際犯罪シンジケートなどでしょうか?」

「ふふん、相手にとって不足は無いって感じだね!」


 出来れば先ほどの話に戻って欲しい所だったが、光斗も調べてみると無視できない規模の凶悪犯罪なのが判明してしまう。どうやら銀行で人質を取り、今正に大金を奪っているところらしい。


『ククッ! 電磁気力を支配する我らにとって、重火器などただの玩具に過ぎん!』

『こ、怖いけど……ヴィーヴルに比べたら、全然かな……』

『実はボクらには新技があるんだ。せっかくだから実戦で試したいな?』

『弾丸など秒速数百メートル程度じゃろ? 遅すぎてあくびが出るわ』


 <結晶人>たちも先ほどの話は終わったものとしているらしく、武装強盗を打倒するのにやる気十分といった所。強盗たちに裁きを下しに行くのは半ば確定事項と化していた。

 人質は丁重に扱うものだと思いたいところだが、日本で重火器を扱うような者には期待するだけ無駄かもしれない。だとすれば人質たちの身が危険であり、一刻も早く現場に到着する事が求められる。

 それが可能なのはこの場に一人しかおらず、どう足掻いても先ほどの話の続きは出来そうになかった。


「よーし、それじゃあ皆で正義を執行しよう! ほら、光斗! 号令お願い、号令!」

「ぬああぁぁぁぁぁっ!! チクショウ、分かったよもうっ! 行くぞお前ら! チーム<久遠の蒼星(エタニティ・シリウス)>、出動だ!」


 恋人が二人も出来てしまった事を半ば自暴自棄気味に受け入れ、光斗たちは手早く会計を済ませて外に出るのだった。

 そして最速の自分が真っ先に走り出し、現場へと超音速で向かう。希望の未来をもたらしてくれた者たちの名をチームの名として背負い、彼女たちが護ってくれた平和と安寧を紡いでいくために。

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