表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光速超越せし救世主~サオシュヤント・ルチルクォーツ~  作者: ストラテジスト
第5章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/32

無限の輝き

「翠、どうした? 何かあったのか?」

「こ、光斗、何か変だよ……磁力を、凄い磁力を感じるの!」

『磁力が渦を巻きながら、急激に発達しているのだ! さながらトルネードのように!』


 平静を失った翠とショールの発言に、全員が反射的に空を見上げる。

 いつのまにか空には天を覆い尽くす分厚い黒雲が広がっていた。しかも発達を続ける積乱雲として、腹の底に響く雷鳴を轟かせながら。ヴィーヴルとの戦いが始まった当初は、黄金色に輝く月や瞬く星々も見えていたというのに。

 天候の急変に誰もが不安を覚えた直後、一際激しい雷鳴が轟き白光が閃いた。稲光によって照らされ全貌が露わになった黒雲に、誰もが息を呑み凍り付く。発達した積乱雲の底部が漏斗状に形を変え、渦を巻きながら降下して来ているのだから。

 それは日本でも稀に見られる気象現象。渦巻く激しい暴風が全てを吹き飛ばし更地に変える自然災害――竜巻だった。


「嘘だろ!? 何でこんなタイミングで竜巻が!?」

『恐らく、ヴィーヴルの置き土産じゃろう。磁力が渦を巻いているという発言から察するに、複数の<変彩光(シャトヤンシー)>を組み合わせて作り上げておるな。ただの竜巻ではあるまい』

「こ、これはかなりマズいですよ。あの竜巻そのものが強い磁力を帯びているのなら、渦を巻く事で激しい電磁誘導が発生します。竜巻底部の大きさから察するに、恐らく風速は音速にすら到達するでしょう。そんな速度で周囲の磁界がかき乱されたら――」

『――金属は磁力で舞い上がり吹き飛ばされ、誘導加熱によって激しく熱され、生じた電磁パルスによって機械製品が次々と破壊されるだろうね』


 顔を蒼褪めさせた宗二の言葉を、同じ表情のアクアが引き継ぐ。

 それは金属を用いた製品や建造物が溢れるこの世界では、あまりにも致命的に過ぎる災害だ。金属が激しく熱されれば鉄筋コンクリート製のビルや家屋は燃え上がり、水道管は破裂し、あらゆる電子機器が爆発する事だろう。


「そ、そして本当に風速が音速に達するなら、磁気再結合が起こるかもしれない……ねじ切れた磁力線が再結合して、莫大なエネルギーが放出されるの……た、太陽フレア、みたいな……」

『つ、つまり、その……最終的には、ガンマ線とか宇宙線とかの放射線が、致死量レベルで撒き散らされると思う……』


 更に久遠とサファイアが、顔面蒼白になりながら絶望的な補足を付け加える。

 太陽フレアといえば強い電磁波や高エネルギー粒子が地球に影響を及ぼし、無線通信障害や人工衛星の故障、果ては大規模な電力網の停電を引き起こす事すらある災害だ。

 竜巻自体の物理的破壊力を抜きにしても、致死量の放射線により恐らく星宮市の住人は即死を免れない。周辺の街の人々も致命傷レベルの放射線に毒され、遠からず死を迎える事だろう。安全圏にいたとしても、電磁パルスがあらゆる電子機器を焼き尽くす。

 少なくともこの竜巻が完成し磁気再結合が発生すれば、日本は石器時代に逆戻りだ。滅亡と言って差し支えない。


「そ、そんなの駄目だよっ! こうなったら、あたしが何とか……!」

『無駄だ、翠。この竜巻はエネルギー吸収によって得た莫大なパワーを費やしたもの。我らに御しうる電磁気力を当に超えている。我らに出来る事は、もう何も無い……』


 電磁気力を操る<星彩光(アステリズム)>を持つショールですら、この状況には匙を投げていた。磁力を感じ取る事が出来る分、絶望感は光斗たちよりも強いのだろう。普段の騒がしい様子はどこへやら、己の無力を嘆き唇を噛み締めている。

 皆が絶望に打ちひしがれる中、上空の竜巻は着々と発達を遂げて行く。周囲には俄かに強風が吹き荒び、すでに磁場に影響が出ているのかメカヴィーヴルの破片がカタカタと揺れ動いている。積乱雲全体を稲妻が荒れ狂う龍のように駆け抜け、漏斗状に下りつつある雲の底部が青白く発光を始めていた。

 竜巻で発生する事は非常に稀だが、あの青白い発光はセントエルモの灯という現象だ。大気中の電位差が急激に拡大した際に発生するコロナ放電の一種であり、通常は船のマストや航空機の翼といった電場が集中しやすい尖った先端部分に現れる。

 古来より広く知られた現象であり、船乗りたちにとっては主に吉兆として扱われてきた経緯がある。彼らの守護聖人たるセント・エルモが船を守ってくれていると信じられてきたのだ。

 尤も今の光斗たちにとっては、あの竜巻が破滅の力を秘めている証明となるため、どちらかといえば凶兆に近いかもしれない。


「……いいや、まだ手はある。あの竜巻を消し去る手段がな」


 だがそこは守護聖人の名を冠された現象。おかげで光斗はこの状況を打開する一つの策を閃くのだった。

 とはいえ未来の久遠の遺体を抱えたままでは実行できない。後ろ髪惹かれる思いを感じながらも、彼女の身体を静かに横たえた。


「ほ、本当!? 光斗凄い! で、どうするの!?」

「走る」

「……えっ?」

「幾ら破滅的な災害でも、基本は渦巻く風で作られた竜巻だ。だったら俺が超高速で走って、逆方向の風の渦を生み出せば相殺出来るはずだ」

『なるほどのう。お主、ここに来て果てしなく力技の解決方法を見出しおったな? じゃが……悪くない』


 皆が呆気に取られて固まる中、ルチルだけはニヤリと笑う。

 光斗がこの解決法を閃いたのは、セントエルモの灯が放つ青白い輝きが酷似していたからだ。未来から来た久遠が最後に見せた疾走、その時に生じていた青白いスパークに。

 あの時の久遠は防護膜の展開に用いる力をも疾走に割り振り、身に纏った星紅玉の鎧一つで断熱圧縮や摩擦に対抗していた。防護膜を纏わなければ、大気との摩擦で凄まじい高熱や稲妻を生み出すほどの抵抗が生じるのだ。

 裏を返せば、衝撃波を伴う暴風をも巻き起こせるという事。超音速で円を描くように疾走し地上から逆回転の竜巻を生み出せば、破局竜巻が完成していない今なら吹き飛ばす事も不可能ではない。光斗はそう確信していた。


「無茶です! あれほどの竜巻を相殺するには、あなたは水晶膜による防護無しで超音速で走らなければなりません! 強度の低い水晶鎧だけで臨むなど完全な自殺行為です!」

『身体がズタズタになるならまだいい方さ! 運が悪ければ君は死ぬし、下手をすると竜巻の相殺も敵わないよ!』


 唯一にして最大の懸念は、宗二とアクアが険しい表情で述べた通りの事象。

 ルチルの力で展開する水晶膜は、高速走行に伴い生じるあらゆる作用・反作用を極限まで低減させる力を持つ。この効力は外部と内部の双方に生じており、だからこそ光斗は自身と周囲に被害を出さず気軽に音速で走る事が可能なのだ。

 だがあの破局竜巻を相殺する暴風を巻き起こすには、水晶膜はむしろ邪魔になる。故に水晶の鎧だけで挑む必要があるのだが、その強度はかなり低い。途中で鎧が壊れ肉体がズタズタになるのはほぼ確定事項。運が悪ければアクアの指摘通り無駄死にだろう。

 久遠にサファイアの鎧を貸して貰う事が出来れば話は別だが、残念ながらそう都合よくは行かない。剣や盾といった形で貸し与える事は可能でも、鎧は大元たる久遠しか纏えないのだ。ヴィーヴルとの戦いに関する作戦会議の時、互いの<星彩光>の事を話し合う中でその性質が判明していた。


「そんなの駄目! 絶対死んじゃうよ!」

『例え我らと世界が救われても、貴様が死んでは意味が無い! 考え直すのだ!』

「そうだよ! 他の方法を考えようよ、光斗くん!」

『き、きっと何か、方法があるはずだから……君も死ぬのは、怖いでしょ? だから、そういうのはやめよ? ね?』


 翠と久遠が泣きながら必死に縋りつき、二人の<結晶人>も光斗の案を否定する。

 しかし竜巻は刻一刻と発達を続けており、風はすでに吹きすさぶ烈風と化していた。磁力も相応に強まっており、周囲に転がるメカヴィーヴルの破片が一斉に天を仰ぐ。方位磁石が北を指し示すのと同じく、最も強い磁界に引き寄せられているのだ。

 まだ金属が反応して動くだけで済んでいるが、いずれは引き寄せられ空に飛び立つのは明白だ。そうなれば螺旋を描く猛烈な暴風に呑まれて加速し、散弾の如く周囲に発射される事だろう。最早一刻の猶予も無い。


「ごめん。でも俺はやらなきゃ。俺の生まれ育った町を、これ以上壊させるわけにはいかない。愛する家族たちを、大切な仲間たちを死なせるわけにはいかない。そして――久遠の努力と想いを、無駄にするわけにはいかないんだっ!」


 二人を強引に振りほどき、人生最後の疾走を始めるために大地を踏みしめる。

 融合している以上命運は一蓮托生だが、ルチルはただ穏やかな微笑みを浮かべてこちらを見下ろすのみ。どうやら死出の旅に共に出向いてくれるらしい。孤独な旅路にならない事に安堵を覚えつつ、光斗は大地を蹴り走り出す――


『――全く、どこの世界でも命を粗末にする奴だな?』

「っ!?」


 その寸前、突如として生じた眩い光が胸に直撃した。倒れ伏した未来の久遠の胸元から飛び出してきた、透き通るように美しい蒼い光が。

 衝撃は無い。しかし明確かつ劇的な変化が身体に生じていた。


「これは、久遠の……」


 胸元に蒼玉の輝きが咲き誇り、全身を覆い尽くし瞬く間に鎧となる。深い蒼の向こうに宿るは星の煌めき。それはスタールビーと対を成す存在、星蒼玉――血と涙が拭い去られた事で真の輝きを取り戻した、スターサファイアの光であった。


『存在の核が傷ついた私は余命幾ばくもない。放っておいても砕け散る身。だからこそ、最期は派手に光り輝こうではないか? そのためのステージも用意されたようだしな?』

『……自分で言うのも何じゃが、こやつ随分鼻につく奴じゃのぉ?』


 光斗の隣に浮かび上がるステラの姿に、ルチルが複雑な面持ちでため息を零す。

 同族嫌悪を感じている彼女には悪いが、ステラが力を貸してくれている今が最初にして最後、千載一遇のチャンスだ。ルビーと同じ硬度を持つサファイアの鎧を纏った今なら、断熱圧縮もコロナ放電も気にせず全力で走る事が出来る。

 尤もそれは、ステラが最後まで保てばの話。融合したからこそ光斗には分かる。刻一刻と彼女の命の終わりが近付いている事に。

 翠も久遠も、ここで邪魔をしてしまえば碌な結果にならない事を理解したのだろう。やがて沈痛な面持ちを浮かべながらも抱き着いてきた。今度は足を止めるためではなく、別れを惜しみ温もりを身体に焼き付けるように。


「絶対、絶対生きて帰って来てね! 約束だよ!」

「帰ってこなかったら、今度は私がグリーフになっちゃうからね?」

「あなたを想って涙を零す少女が二人もここにいるんです。この涙を拭い去るためにも、必ず帰ってきてくださいね」

「……ああ、分かった」


 泣きながら懇願する翠と、瞳に涙を溜めつつ脅迫に近い台詞を口にする久遠。どこか呆れた様子でキザな台詞を口走る宗二。光斗は三人に纏めて頷き、天を仰ぐ。

 頭上に広がるのは暴風と稲妻を纏い、地上へと迫る破局竜巻。すでに周囲に吹き荒ぶ風は嵐の如き激しさであり、強烈な磁場が巻き起こす電磁誘導が周辺の金属を激しく熱し至る所から煙を立ち昇らせている。

 発生地点から数キロ離れているにも拘わらずこの有様なのだ。竜巻の真下はあらゆる生命が死に絶える地獄そのものの環境になっている事だろう。自らそこに飛び込む光斗としてはさながら死地に赴く兵士の気分であるが、心には恐れなど一切無かった。

 何故なら光斗は一人ではない。光斗の身を案じながらも、信頼を胸に帰りを待っている家族がいるのだ。自分を信じてくれる仲間がいるのだ。胸の中で燃え盛る愛と絆の力が、恐怖など欠片も残さず燃やし尽くしてくれた。


『さあ走るのじゃ、光斗! 久遠の犠牲を無駄にしないために!』

『新たな理想を、目指す自分を思い描き――走れ!』


 そして傍らには自分と融合している少女が二人、半透明な姿で浮かび道を指し示してくれている。この事態を解決するための力と、身を護る力を与えてくれている。

 ならば光斗がすべき事は、ただ走るだけ。一心不乱に、己の全てを賭けて走るだけだ。


「<万象を照らし闇を祓えインフィニティ・スター、久遠なる救世の光サファイア・マルドゥーク>!」


 新たな<星彩光>の名を叫び、全身から深い蒼玉の輝きを放ちながら疾走する。 

 ステラが消え去るまでのほんの一時の<星彩光>。しかしその輝きは類を見ないほどに美しく、どこまでも力強い。星の輝きの大元となるルチルが二人存在する事に加え、<結晶人>三人分の力が結集しているからだ。

 二重の星は無限の輝きを生み出し、爆発的なまでの煌めきを放つ。高速移動に伴う断熱圧縮の炎とコロナ放電による紫電すらも呑み込み、果てしなく美しい蒼玉の光として亜光速の疾走を重ねる。

 竜巻の直下に近付くにつれ、周辺の光景は完全に地獄と化していた。すでに電磁誘導が危険な域に到達しており、高熱を帯びた水道管やガス管の破裂が始まっている。鉄骨を含んだあらゆる建造物が黒煙を上げ、電化製品が連鎖的に爆発していく。

 磁場が織りなす被害だけでも致命的だが、この世のものとは思えない暴風がもたらす被害も絶望的。逃げ惑う人々は何かに掴まらなければ吹き飛ばされそうになっており、避難が全く進んでいない。挙句空から稲妻が雨あられと降り注ぐのだから、最早性質の悪い悪夢としか思えないほどの光景だった。


「うおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 地獄を切り裂き悪夢を晴らすため、竜巻の真下に辿り着いた光斗はひたすらに円を描いて駆け抜けた。サイクロトロンの中を周回し続ける荷電粒子が如く、スターサファイアの鎧を信じて一切足を止めずに走り続ける。家屋をぶち抜き障害物を弾き飛ばし、邪魔なもの全てをなぎ倒し蒼い流星と化しながら。駆け抜ける光斗の背後には暴風とプラズマの嵐が巻き起こり、竜巻となって迫る破滅を迎え撃つ。

 周辺への被害は考慮しない。する必要が無い。光斗が新たに願った<星彩光>は、護りたいものを護るためのもの。あらゆる災害や困難を焼き尽くし、永遠に続く平和と安寧をもたらす眩い光と化すもの。破滅的な竜巻を生み出そうが、生まれ育った街や愛する人々を傷つける事などあり得なかった。

 故に生じた暴風や衝撃波も含め、全てが蒼玉の光を帯びて蒼い光の竜巻を形成していく。護るべきものには決して破壊をもたらなさい、慈悲と救世の輝きを放ちながら。


「消し飛べぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


 無限の星の煌めきを宿した蒼い竜巻が天へと上り、不気味なほどに黒い竜巻とぶつかり合う。一瞬の膠着を経て蒼い竜巻は破局竜巻を食い破り、上空に広がる積乱雲を貫いた。

 直後、荘厳な蒼き光の爆発が黒雲を吹き飛ばす。後に現れたのは、雲一つない漆黒の夜空。美しい星々の煌めきが勝利を祝福してくれているかのような、晴れ渡る満天の星空であった。


『……お別れ、だな』


 足を止めて美しい夜空を眺め余韻に浸っていると、隣に浮いていたステラの身体が徐々に光の粒子となって消え去って行く。同時に光斗の身体を覆っていたスターサファイアの鎧が、末端の方から空気に溶けるように消え始めた。

 絶望の未来が消え去った事で、グリーフの誕生という可能性が消え去ったのだろう。希望の未来が訪れた事は喜ばしいが、別れの悲しみだけはどうにもならなかった。


『さらばだ、光斗。そして私。久遠の手前ああ言ったが、どうか忘れないでいてやってくれ。お前たちのために、命を賭けて走り続けた女がいた事を……』

「ああ。忘れないさ、絶対にな」

『うむ。安心して眠れ、ステラよ』


 自分たちを救うために未来から駆けつけてくれた本物の救世主を、どうして忘れる事が出来よう。血みどろになるほど走り続け、絶望の未来を覆した彼女への恩は、存在が消えたとしても決して消える事はないのだ。彼女がいたからこそ、光斗たちの未来は開かれたのだから。

 ステラは最後に満足気な微笑みを残し、金と蒼の光の粒子に解けて空へ消え去って行った。夜空に輝く星々に加わるように、どこまでも美しく煌めきながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ