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光速超越せし救世主~サオシュヤント・ルチルクォーツ~  作者: ストラテジスト
第5章

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怪獣大戦争

「ひゃっ!? な、何この嵐みたいな風……!?」

『これはたぶん、気流操作……ピーターサイトの<変彩光(シャトヤンシー)>……!』


 深い藍色の輝きがもたらしたのは、気を抜くと地面から引き抜かれそうなほどの大嵐。突如として発生した極地的な暴風が周囲の瓦礫を巻き上げ、光斗たちへ襲い掛かる。

 炎を操る<変彩光>により己の身体に獄炎を纏い、気流を操作する<変彩光>により大嵐をもたらす。恐ろしい事に、ヴィーヴルは二つの<変彩光>を同時に行使していた。


「本当に複数の<変彩光>を使ってきますね!? 全く、冗談ではありませんよ!」

『これでもだいぶ抑えてる方じゃないかな!? アイツはボクらを消し炭にしたいんじゃなくて、喰らって自分の力にするのが目的だからね!』

「誰が食われてやるか! 代わりに超音速のパンチをくれてやるっ!」


 猛烈な暴風が吹き荒れる中、光斗は瓦礫を避けながらヴィーヴル目掛けて疾走する。足場としているのは凍り付いた土塊の大蛇の胴体。瓦礫が直撃して足場が崩れ落ちる中、急流の飛び石を渡るが如く跳び移りながらヴィーヴルの頭部に接近する。

 グリーフとの戦いで破損してしまったグローブは、翠の力を借りて新調済み。仕込んだ金属は硬さと強度に非常に優れた最高の合金、神の杖の弾頭として使用されるタングステン重合金だ。マッハ十以上の速度で叩き込めば、威力は隕石の衝突にすら匹敵する。


『目に物見せてやるわ! 行け、光斗っ!』


 最後の十数メートルを跳躍しながら、強く握り込んだ拳を振り被る。

 狙いはヴィーブルの頭部に二ヵ所のみ存在する柔らかな部位――眼球だ。

 全身を鉱物で覆い尽くそうと、構造上の問題で眼球だけは守る事が出来ない。ヒーローの所業ではないが、眼球を貫き脳を弾けさせる強烈な一撃を叩き込むのが狙いだった。


『グルゥ……!』


 だがその寸前、光斗の身長よりも大きな眼球がぎょろりと動く。縦に切れ目がある爬虫類の瞳孔ではなく、人間に近い円形の瞳孔だ。それが光斗を見据え、急激に狭まった。


「うっ!? な、何だ!? 身体が、動かない……!?」


 目が合った事を認識した瞬間、身体は金縛りにあったかの如く凍り付く。振り被った拳を放つ事は出来ず、超常的な加速も凄まじい勢いで減衰していく。気付けば光斗の身体は速度を失い、空中で完全な無防備を晒していた。


『サイコキネシス――いや、違う! 視線を介した催眠じゃ! 目を閉じろ、光斗っ!』

「だ、駄目だ、出来ない……!」


 焦燥を露わにするルチルの言葉に必死に従おうとするが、光斗の瞳は魅入られたように釘付けとなったまま離れない。しかし視界の端にはヴィーヴルが巨大な顎を開き、鋭く尖った乱杭歯を露わにした光景が見えてしまう。速度を失い無防備となった光斗を、直接咥内に迎え入れるつもりなのだ。

 皆既月食の満月にも似た紅い瞳に確実な死を幻視し、<星彩光(アステリズム)>とは無関係に意識が加速する。過去の美しい思い出が脳裏を過る中、吐き気がするほどの悪臭漂うヴィーヴルの吐息を間近に感じ、恐怖に心中で悲鳴を上げた時――


『――ゴアアァァッ!?』

「うおおぉぉぉぉっ!?」


 光斗を喰らおうとしていたヴィーヴルの頭部が、寸での所で弾き飛ばされた。しかも頭部だけでなく巨体そのものがのけ反り、地響きを鳴らし数歩後退したのだ。

 衝撃で吹き飛ばされて宙を舞った光斗は、あわや高さ百メートルから地面に墜落という所で久遠に受け止められた。


「こ、光斗くん、大丈夫!?」

「死んだ! 今絶対死んだと思った! 走馬灯見えた!」

『うむ、わらわも一瞬花畑が見えたぞ……』


 ルチルと揃って生の実感を噛み締め、五体満足である事に安堵を抱く。ともすれば先ほどの一幕で食い殺されていたかもしれないのだ。心臓だけが加速しているかのように、激しい鼓動が鳴りやまなかった。

 とはいえ疑問は残る所。ヴィーヴルを後退させるほどの威力を持った一撃の正体は、果たして一体何なのか。


「――待たせたな、皆の衆! 我が秘密兵器のお披露目だっ!」

『これぞ宇宙怪獣を討滅するに相応しき、最強の兵器なり!』


 翠とショールが意気揚々と叫びを上げると、大地が猛烈な激震を起こした。巨体が緩やかに一歩を踏み出し、大地に足を振り下ろしたが故の振動だ。しかし激震を引き起こしたのはヴィーヴルではなかった。

 それはヴィーヴルと全く同じ巨体を持つ第二の竜。背部の宝石群は形だけ、筋肉質な肉体も存在しない形を似せただけの贋作。だが決して劣らぬ力強さとある種の美が、メタルカラーの巨体に宿っている。

 そう、メタル。全身が金属で構成された鋼の竜だ。ヴィーヴルが宝喰竜なのに対し、こちらはさながら鋼鉄竜。肉体そのものを金属で構成した全身金属の人工竜であった。


「古来より、大怪獣の撃退には兵器を用いるもの! オキシジェン・デストロイヤーしかり、核ミサイルしかり、そして巨大ロボット然り! 刮目せよ、宝喰竜。これぞ貴様を討つ決戦兵器!」

『対宝喰竜ヴィーヴル討滅決戦兵器――メカヴィーヴル、発進っ!』

『――ギイガアアアァァァァァアッ!!』


 遂に完成した決戦兵器、全身金属のメカヴィーヴル。擦れ合う金属音にも似た耳障りな咆哮を上げたかと思えば、怨敵目指して一直線にクレーターの中へ身を躍らせた。

 これぞ翠の秘密兵器。街中のスクラップをかき集め、己の<星彩光>によって作り上げたヴィーヴルと同サイズの化物である。翠がこの兵器を提案してきた時は必要な金属量的に不可能だと思われたが、都合が良い事にこの街には大量の金属が眠っていたのだ。星宮タワーと大型旅客機が織りなす、未だ片付けられていなかった前衛芸術の金属塊が。


『ゴアアアァァァァッ!!』


 突如として現れた己の紛い物に憤りを覚えたのか、ヴィーヴルは憤怒の滲む咆哮を上げメカヴィーヴルを迎え撃った。


「いよいよ展開がゴジラ染みて来ましたよ!? というかここまでデザインに凝る必要はあったんですかね!?」

「翠のやる気の問題だろ! 見ろよアイツ、ノリノリだぞ!」

「うわぁ、凄い笑顔……!」


 突如として始まった怪獣大戦争に、光斗たちは慌ててすり鉢状の地形を駆け上がり距離を取る。体高百メートルの大怪獣は動くだけで大地震にも匹敵する揺れを巻き起こすというのに、それが二体もいるのだ。

 加えて一方は金属で構成された超重量級の身体である。そんな大怪獣共が互いに殴り合い、巨体に物を言わせたタックルさえかます。この世の終わり染みた激震と地響きが巻き起こる中では、<星彩光>を持つ光斗たちでも割って入る事など不可能である。


『これは凄いね。金属の身体を持つ故の耐火性かな? ヴィーヴルの身体が燃え盛っている事なんて関係なく殴り飛ばしているよ』

『メカの方は金属の塊じゃからなぁ。重量も相当なものじゃろう。暴風を巻き起こす<変彩光>を物ともせん。幾らヴィーヴルでもこれは無視できまい』

『ひいぃぃっ!? 化物が二匹に増えたあぁ……!』


 <結晶人(ジュエリアン)>たちもこの光景には畏怖にも似た感情を覚えているらしい。クレーターの外に逃れた光斗たちと共に、宝喰竜と鋼鉄竜が取っ組み合う様を呆然と眺めていた。


『クハハハハハッ! 見たか、これぞ貴様を屠るための決戦兵器なり!』

「フハハハハハッ! だが我はメカヴィーヴルの制御に集中しなければならず、その場から一歩も動けんっ! 我が盟友たちよ、防御や回避は頼んだっ!」

「そういう大事な事はやる前に言ってください! 報連相ってご存じないんですか!?」


 清々しいほどの笑みを浮かべ心底楽しそうにメカヴィーヴルを操っている翠だが、実はかなり余裕が無いらしい。絶えず大地震が巻き起こっている状態だというのに、地上に降り立ち動かないのが良い証拠だ。恐らく金属のボードを浮かばせる余力を裂く事も出来ないのだろう。

 だがそれも納得の状態。何せ<星彩光>を身に着けて能力の出力も上がったとはいえ、大型旅客機以上の金属の塊を操っているのだ。あの時ほど限界ギリギリまで力を振り絞っている様子は無いとはいえ、無理をしているのは一目で分かるレベルだ。


『グルルルゥ……!』


 メカヴィーヴルが煩わしくなったか、あるいは心も自我も無い操り人形だと悟ったか。ヴィーヴルは怒りに燃える真紅の瞳を、地上のちっぽけな存在――翠に向けた。

 恐らく彼女が操っている事を察し、頭を叩く事に決めたのだろう。メカヴィーヴルから猛烈な打撃を食らいながらも、超重量の巨体を押し退け翠に迫ろうと藻掻いていた。

 制御に手いっぱいで回避も防御も出来ない彼女には、どのような攻撃だろうと致命的。


「翠、舌噛まないように口を閉じてろっ!」

「やった! お姫様抱っことか最高っ!」


 故に光斗が翠の身体を抱え上げ、ヴィーヴルの攻撃に備える。

 水晶膜で低減できる風圧や摩擦はマッハ三程度までが限度だが、目にも留まらぬ動きなのは変わらない。とはいえ翠にはメカヴィーヴルの制御があるため、無駄に動き回って彼女の集中を乱すわけにはいかなかった。なので光斗はお姫様抱っこ状態で備え、いつでも走り出せるように意識のみを加速させる。


『ガアアアァァッ!』


 そこからは<変彩光>が雨あられと降り注いだ。

 雷雲も無いのに雷撃が降り注ぎ、宙に湧き出た水の塊が絡め取るように襲い来る。空間が歪んで見えるほど凝縮された風の刃が複数飛来したかと思いきや、足元の影が鋭利な槍の如く鋭い突きを放ってくる。果ては目の前の空間にワープゲート染みた穴が開き、ヴィーヴルの鉤爪や牙が不意打ち気味に襲い掛かってくる始末。どうやら何が何でも翠を殺したいらしい。


「色んな事が出来る割には、速度は足らないな?」


 しかし光斗からすれば遅すぎてあくびが出る攻撃だ。不意打ちを認識してから対処する事すら可能であり、翠を抱えたまま色とりどりの<変彩光>を躱していく。ヴィーヴルの攻撃は凍った地面を穿ち、盛大に土砂を巻き上げるのみだった。


「行けぃ、メカヴィーヴル! ロケットパンチ起動だ!」

『ロケットパアアァァァァンチッ!!』

『グガアアアァァァァァァッ!?』


 その間も、翠が全霊を傾けて操作するメカヴィーヴルの攻め手は緩まない。伸ばした右腕にバチリと紫電が迸ったかと思えば、手首から先の拳が衝撃波を撒き散らしながら発射された。

 翠とショールはロケットパンチと言い張っているが、恐らく原理としてはレールガンに近い。金属の腕をレールに見立て、拳という弾体に大電流を流して強烈な磁場を発生させて撃ち出したのだ。彼女が<星彩光>によって得た力、電気を支配する力によって。恐らく先ほど光斗を寸での所で救ったのも、この一撃に違いない。

 速度は光斗が投げつける鉄球のマッハ十にこそ届かないが、何せ質量の桁が違う。数十トン以上の質量がマッハ七前後で顔面に直撃した事により、ヴィーヴルは苦悶の叫びを上げ初めて巨体を傾けた。


「うおおぉぉぉっ!? 今日こんなのばっかりだな!?」


 体高百メートルの巨体が地面に倒れ伏した瞬間、下から突き上げるような揺れに襲われ光斗は身体を浮かせてしまう。挙句の果てにヴィーヴルの転倒によって地面を覆っていた氷が砕け散り、猛烈な砂塵が巻き上がり視界が茶色く塗り潰されてしまう。

 思わず悪態を吐いた光斗だったが、土煙が晴れると即座に手の平を返した。クレーターの中心には、無様にも手足を投げ出し仰向けで倒れ伏したヴィーヴルの姿があったから。


「――チャンスだ! 宗二、翠!」


 脳震盪でも起こし<変彩光>の維持に支障をきたしたのか、全身から立ち昇っていた炎や荒れ狂う暴風も消え去っている。攻めるならば今。

 千載一遇の機会を見出した光斗は、巨体にも通じる技を持つ二人へ即座に呼びかけた。


「行きますよ、アクアさん! 今度こそ芯まで凍らせてやりましょう!」

『もちろんさ! 宇宙トカゲに氷河期の厳しさってもんを教え込んでやろう!』

「メカヴィーヴル、アームドチェンジ! 出でよ、死へと誘う鈍色の処刑刀!」

『エクスキューショナーズソード!』


 指示の内容が無くとも、二人は自分たちのすべき事を理解していた。宗二は全力でヴィーヴルに対し絶対零度の冷気を放ち、巨体を凍り付かせ動きを封じ込める。

 同時に翠は渾身の力を振り絞るように叫びを上げ、メカヴィーヴルの手元に周囲の瓦礫からこそぎ取った金属を収束させていく。体高百メートルのメカヴィーヴルの手に握られる形で形成されるのは、使い手に相応しい大きさを持つ金属の剣。ひたすらに肉厚で途方もなく鋭い刃を持つ無骨な獲物は、傍から見ると最早塔か何かの如き冗談染みた大きさ。

 だがあれぞ正に処刑刀。ヴィーヴルの首を刎ねるに相応しき、終わりの一撃をもたらす裁きのギロチンであった。


「これでフィナーレだああぁぁぁぁぁっ!!」

『闇に飲まれろおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!』


 そして振り下ろされる鈍色の処刑刀。刃渡り五十メートルを越える馬鹿でかい金属の塊が、体高百メートルの鋼鉄竜によって振るわれる様は圧巻の一言。質量と重量が重なり、更に電気的な加速が加わった一刀は、誇張抜きに銀河すら切り裂きそうな鋭さ。

 対するヴィーヴルは未だ脳震盪から覚める事無く、巨体は完全に凍り付き動けない。隕石の如く赤熱し、渦巻く暴風と共に振り下ろされる処刑刀に対して完全に無防備。

 これで終幕。誰もが勝利を確信し、宇宙トカゲの首が刎ねられる光景を幻視した。

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