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光速超越せし救世主~サオシュヤント・ルチルクォーツ~  作者: ストラテジスト
第4章

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不気味な報せ

「考えるのも大事だけど、まずはお肉を食べよ! 栄養取らないと頭も働かないよ!」


 湿っぽい雰囲気を嫌ったのか、あるいはムードメーカー的な役割を果たしてくれたのか、翠が沈黙を吹き飛ばすほど元気いっぱいに肉を食えと叫ぶ。

 確かに彼女の言い分は尤もだ。ただでさえ<結晶人>たちに栄養を取られているのだから、食べるものも食べずに相談などしても頭は働かない。故に光斗たちは顔を見合わせて苦笑すると、ひとまずは腹ごしらえをする事に決めるのだった。

 そうして久遠の自己紹介や宇宙人の自己紹介、果ては宇宙怪獣の存在や地球の危機の話はひとまず終わりを迎え、皆で美味しく食事に舌鼓を打つ時間が始まった。

 一旦集中してしまえば、光斗を含めて誰もが焼肉の美味しさに夢中になってしまう。いつしか暗い未来への絶望を忘れ、皆が笑いながら肉をつついていた。気の置けない仲間たちとおしゃべりしながら食卓を囲むという、実に幸せで穏やかな時間を楽しみながら。


「そういえば、あたしたちって本当に運がいいよね。ピンチになると助けが来たり、新しい力に覚醒したりするんだもん。正しくヒーローって感じだよね?」

「……言われてみれば、確かにその通りだな」


 とりとめのない話を皆で楽しみ、どれほどの時が経った頃だろうか。腹八分目という所で、唐突に翠がそんな事を口走った。少々目から鱗が落ちた気分である。

 最初にグリーフに襲われた時は翠が助けに現れ、飛行機事故の時は宗二が現れ力を貸してくれた。グリーフとの二度目の邂逅では久遠が助けに現れた上、ルチルが目覚めて光斗に<星彩光>を授けてくれた。

 冷静に考えてみれば、幾ら何でも都合が良すぎでは無いだろうか。まるで何者かに仕組まれているような不気味さを感じ、背筋に寒気が走ってしまう。


「ピンチで新しい力に目覚めたのは光斗さんだけですけれど、運が良いという言葉には概ね賛成です。重要な局面ではまるで神に愛されているような采配が何度か起きていますからね。正直、これだけ都合が良いとかなり不気味に感じますが」


 宗二も同じ結論と感覚に至ったようで、少々表情を強張らせながら言葉を紡いでいる。

 現実とは本来、残酷で非情なもの。危機に陥れば必ず助けが来るものでも、新たな力に目覚めるものでもない。そんなものは都合の良い絵空事、妄想、物語の類だ。にも拘らず光斗たちに有利に働く出来事が次々と起きている。

 これはただの偶然の連続なのか、それとも――


「あっ、あのね! 私がグリーフに殺されそうになった時に光斗くんが助けに来てくれたの、凄くカッコ良かったよ! 本当に物語のヒロインになったみたいな気分だった!」

「むっ!? またしてもメスの匂いがする!?」


 深く思考を巡らせようとした光斗だったが、久遠の煌めく瞳と翠のお馬鹿な発言に不安は見事に洗い流された。

 何でもかんでも悲観的に考えるのは悪い癖だ。自分たちに有利な偶然が働いているのなら、むしろ感謝でもするべきだろう。


「ま、深く心配する必要は無いかな。俺達に有利な出来事ばかり起きてるみたいだし。むしろここまで有利に働く運命の流れがあるっていうなら、ヴィーヴルの出現日時くらい教えて欲しいもんだよ』

「ハハッ、さすがにそれは欲張り過ぎですよ。もしもそんな事があれば不気味を通り越して恐怖です。幾ら僕らに有利に働くと言っても、怖すぎて生きた心地がしませんよ」

『ククッ、それもそうじゃな。そこまで都合が良い事など、起きる訳が――』


 その瞬間、ルチルの言葉を遮る形で小さく電子音が鳴り響く。音の出所は光斗のポケットの中、携帯がメールを受信した通知音だ。

 考え過ぎだと決め込んだ光斗が軽口を叩き、宗二が苦笑し、ルチルも笑顔で賛同したタイミングでのメール。狙いすましたような瞬間だったため、全員が寝耳に水といった様子だった。


「……メールだ。ちょっとタイミングが怖いな?」


 いの一番に平静を取り戻した光斗が、すぐさま携帯を取り出しメールの確認に移る。その間に翠たちも落ち着きを取り戻したようで、タイミングの良さに揃って笑っていた。


「もしかしてヴィーヴルの情報だったりして? それだったらあたしたち、いよいよ神様に愛されてるって感じだね!」

「だとしても一体誰が送って来るんですか。さすがに無いものねだりが過ぎますよ」

「そうだよね。きっと妹ちゃんからのメールじゃないかな? ね、光斗くん?」


 苦笑しながら尋ねてくる久遠だったが、光斗は言葉を返す事が出来なかった。隣に浮かび画面を覗き込んでいるルチルも同様、絶句して凍り付いている。送られてきたメールの内容は、それほどまでに衝撃的なものだったのだ。


「光斗くん……?」


 たっぷり十数秒は凍り付いていた光斗の姿に、久遠たちも怪訝な表情を浮かべる。

 恐らくこれを話せば彼女たちは心臓が止まるほどに驚くか、あるいは恐怖するかもしれない。だが教えないという選択肢は無かった。何故なら最早単なる偶然だの、神に愛されているだのという言葉では片付けられなくなってしまったのだから。


「――ヴィーヴルの出現場所と日時が分かった」


 仕方のない事だがその情報を口にした瞬間、翠たちは鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべるのだった。





「――明日の夜、松雪中学校のグラウンドに宇宙怪獣が出現する! それまでに必ず避難してくれ!」


 驚愕のメールが届いてから八日後。ライトニング姿の光斗は夕暮れの街角で声を張り上げ、人々の避難を促していた。

 恐ろしい事に、あの時届いたメールには本当にヴィーヴルの出現日時と場所が記載されていた。出現日時は六月五日の午後八時四十二分、場所は星宮市の中心部にある松雪中学校のグラウンドと、かなり詳細な内容で。送信者が不明だった事もあり、最初は性質の悪い悪戯かと思った。未来予知の<変彩光(シャトヤンシー)>を持つ疑惑のあるグリーフの罠かもしれないと疑った。

 しかしメールには信憑性の高い情報が幾つも記載されていたのだ。宝飾竜の存在や名前はもちろん、ヴィーヴルが行使する<変彩光>の幾つかを、持ち主であった<結晶人>の名前と共に。ルチルに確認して貰ったため、名前と<変彩光>が合致している事も判明した。故に信憑性は非常に高く、光斗たちはメールの情報を信じて行動を開始したのだ。


「しかしまさか、本当に何もかもがあのメール通りになるとはな……」

『わらわも開いた口が塞がらぬ。明らかにアレは未来予知の類。<変彩光>の持ち主で無ければ知り得ぬ情報じゃったぞ』


 送り主は信憑性を更に上げるためなのか、他にも幾つかの予知情報を添えていた。その一つが五月三十日に星宮市近辺で発生した地震の予知だ。発生日時に震源、震度とマグニチュード、全てが気味が悪いほどにぴたりと的中していたのである。

 そんな予知情報が他にも幾つかあり、かつ全てが一ミリのズレもなく的中していた。これには疑い深い宗二も認めざるを得ず、満場一致でヴィーヴル襲来に備える事になったわけである。


「一体誰が送ってきたんだろうな、あのメール。本当に心当たりは無いのか?」

『何度も言ったが、無い。この地に降り立った<結晶人>は四人のみ。それは確実なのじゃ。何せヴィーヴルたちから逃れたのはわらわたちだけじゃからな』

「うーん、マジで謎だな……」


 予知能力者に関しては全てが謎に包まれているため、情報の信憑性があっても半信半疑なのは否めない。

 とはいえグリーフとは異なり自分たちに味方している存在であり、他に信じられるものがあるわけでもない。なのでこの予知に従わざるを得ないのが何とも微妙な気分だった。


「――ライトニング! 両手を上げて地面に腹ばいになれ!」

「偽計業務妨害の現行犯で逮捕する!」

「おっと、今日も警察が来たか。まあ傍から見ればオオカミ少年みたいな事やってるようにしか見えないもんな」

『よりにもよって宇宙怪獣じゃからなぁ。信じろという方が無理かもしれん』


 しばらく警告と避難勧告を続けていると、やがて数台のパトカーが現れた。複数人の警察官たちは車を降りるなり、光斗に向けて拳銃を構え犯罪者でも相手にするような対応を取っている。

 とはいえ彼らの対応も仕方ない所はある。光斗は夕方の人通りが多い時間帯に、人々の不安を煽る事を叫びながら練り歩いているのだ。傍から見れば悪質な悪戯であり、威力業務妨害罪でないだけまだ有情と言えた。


「よし、三十六計逃げるに如かずだ。ついでに翠たちの様子を見に行こうかな」


 だが捕まってやる義理も無いので、即座に避難勧告を切り上げ走り出す。全てを置き去りに走り抜け、辿り着いたのは松雪中学校の西の街角。ここ数日は皆で手分けしてヴィーヴルが現れる想定の松雪中学校を中心に、定期的に避難を呼びかけているのだ。


「――疾く避難するのだ、民草よ! 明日にはスペースゴジラの如き宇宙怪獣が天より飛来する! 我らとて貴様らの命を護りながら戦える相手では無いのだぞ!」


 西の街角では金属のボードで夕焼けの空を駆ける翠が、メガホン片手に緊張感に欠ける警告を叫んでいた。果たして本気と受け取る者はどれほどいるだろうか。

 地上で半ば呆れながら見上げていると、こちらに気付いた翠が緩やかに降下してきた。


「翠、避難はどれくらい進んでる?」

「二、三割という所だな。我らを信じ避難する者たちもいれば、馬鹿馬鹿しいと一笑に付す者たちもいる。恐らく期日になろうと、半数以上の人々は残っているだろう」

「半数以上か。それはちょっと多すぎるな……」


 金属のドミノマスク越しに空色の瞳を険しく細め語る翠に、思わず眉を顰めてしまう。

 実際の所、光斗の方でも避難している人々の割合はその程度だ。今日に至るまで様々な事故や災害から人々を救ってはいるものの、平和な日本では発生件数自体がかなり少ない。直接光斗たちの活躍を見た事が無い者はまともに信じる事が出来ず、悪戯か何かだと思っているのだろう。


『――全く、愚かな事だ。我らヒーローの言葉を疑い、己が最も賢いと信じ死地に留まるとは。ククク、いずれ奴らは地獄を見る事になるだろう……』


 などとテンションが上がっている時の翠に似た口調で、直接脳裏に響く言葉を口にしたのはルチル――ではない。翠の隣に現れた、半透明の幽霊染みた別の少女であった。

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