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光速超越せし救世主~サオシュヤント・ルチルクォーツ~  作者: ストラテジスト
第3章

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高速ストーキング

 最初こそ宗二は真剣な面持ちで耳を傾けていたものの、徐々に表情には呆れが混じり、最終的には軽蔑の色に染まっていた。


「……なるほど。光斗さん、それはあなたが悪いですね」

「うっ……!」

「父親が亡くなり情緒不安定になっていた時の事なので、情状酌量の余地はあります。しかしそれは子供の頃だけです。心身共に成長し、日常生活に戻っている今は適用されません。慰めようとしてくれた幼馴染を激しく罵倒し未だに謝罪の一つもしていないなど、それは恨まれても仕方ないですよ。恥知らずにもほどがあります」

「う、ぁ……!」

「ヒーロー活動をする前に、まずは落とし前を付けるべきでは? 親しい者すら救えぬ者が、どうしてヒーローになれると言うんですか? 贖罪と称して罪を償わずボランティア活動をしていても、あなたの罪は消えませんよ?」

「もうやめてっ! 光斗のライフはとっくにゼロだよ!」


 情け容赦のない正論の釣瓶撃ちが心に激しく突き刺さり、光斗は目の前が真っ暗になって倒れそうになった。翠が抱きしめて支えてくれなかったら、確実に意識を失い椅子ごと背後に倒れていただろう。

 それほどに宗二の言葉は切れ味鋭く、また本質を穿つ槍のように鋭かった。すでに光斗の心は網の上で黒焦げになっているカルビよりもボロボロである。


「まあその反応を見る限り十分苦悩し葛藤しているようですから、これ以上責めるのはやめておきます。ただ最後にこれだけは聞いておきますね。光斗さん、あなたは久遠さんに詫びるために命を差し出せますか?」


 最後に宗二が尋ねてきたのは、己の命で詫びる事が出来るかという問い。

 もちろん躊躇いなく肯定する事が出来る。殺したいほど恨まれているのなら、命を差し出すのもやぶさかではない。自分はそれだけの事をしたのだから。


「……俺が殺されるのは、仕方ないかもしれない。でも他の人たちまで巻き込まれるのは駄目だ。そんなのは、絶対止めなきゃ」


 けれど、事が光斗だけで終わらないのなら決して受け入れられない。あの旅客機の事故では光斗どころか星宮タワーにいた数百人の人々、更に周辺の数千人の人々までもが命の危機に晒されたのだ。大勢の犠牲を伴う復讐を認めるわけには行かなかった。


「結構。では久遠さんを止めるという事ですね」

「ああ。もし久遠がグリーフなら、力づくでも止める」


 心優しい少女だった久遠を復讐の鬼に変えてしまったのは、紛れもなく光斗の心無い言葉が原因だ。ならば彼女を止める責任は間違いなく自分にあり、彼女の罪は光斗の罪と同義だ。何が何でも止める覚悟を以て、光斗は頷いた。


「ま、待って待って。本当に久遠がグリーフだって確定したわけじゃないでしょ? まずは調べてみるのはどうかな?」


 しかしそこで翠による制止が入る。

 冷静に考えてみれば光斗も宗二も、久遠がグリーフであると確定した事実のように話していた。他に怪しい人物がいないせいで、目の前の可能性に飛びついてしまったのかもしれない。まさか翠が正論を述べるとは思わず、二人で苦笑するのだった。


「そうですね。怪しいのは事実ですが、少々決めつけが過ぎました。まずは調査が必要だと思います」

「俺もその方が良いと思う。正直、あの久遠がグリーフだなんて信じたくないからな」


 信じたくはない。しかし実に奇妙で、他に怪しい人物がいないのも事実。疑いを晴らすためにも調査は必須であった。

 とりあえず方針が定まった所で、再び肉を注文し焼き網も取り換えて貰う。カルビが黒焦げになっていて実に勿体なかったが、幼馴染が凶悪な怪物かもしれないという話の最中では仕方が無かった。


「それで調査ってどうするの? あたしたちの<変彩光(シャトヤンシー)>には調査とか探査とか出来る能力ないよね?」


 昼食を再開した所、翠がハラミで白米を平らげながら尤もな意見を口にする。

 この中で一番諜報に相応しい<変彩光>の持ち主と言えば、高速移動の能力を持つ光斗だ。尤も久遠の正体がグリーフなら、向こうは光斗以上の高速移動能力を持っている。調査に関しては<変彩光>はさほど頼りになりそうも無かった。


「ですね。なのでここは古来よりの伝統、ストーキングからの情報収集が一番でしょう。次いで直接接触し、能力者しか知らない事を喋らせる――という所ですね。尤もこちらはかなりの危険が伴うので、あくまでも最終手段ですが」

「ストーキングか……」

「えー? ヒーローのやる事じゃなーい……」


 宗二の言葉に翠は意気消沈した様子で肩を落とす。

 しかし光斗としては実に慣れ親しんだ方法でむしろ安堵したほどだ。謝罪の機会を窺うために長年久遠をストーキングしてきた光斗の追跡技術は伊達ではない。何ならヒーロー活動よりもストーキングの方が得意だと言える。申告するとドン引きされそうなのであえて口を噤んだが。


「それにもし久遠が未来予知の能力を持ってたら、ストーキングなんてすぐバレるんじゃないの?」

「憶測ですが、そこまで精度は高くないと思いますよ。実際あの飛行機事故も、犠牲者一人なく乗り切りましたしね」

「なるほどな。言われてみれば確かに……」


 人的被害ゼロで事故を乗り越え、三人で焼き肉に舌鼓を打っているのがその証明だ。少なくとも垣間見た未来を確定させる力などは無いのだろう。


「未来予知なんてチート中のチートだし、もしかしたら意外と厳しい使用条件があるのかもね。自分の未来は見えないとか、同じ能力者が拘わる未来は見えないとか?」

「その可能性もありそうですね。まあどれも仮説に過ぎませんが、少なくとも僕らが本性を現し暴力で解決しようとでもしなければバレる事は無いと思います」

「そうか。なら変な事をしなければバレないって考えて良さそうだな」


 ただストーキングすれば良いだけなら、ストーカー歴約五年の光斗の独壇場だ。未来予知もさほど気にしなくて良いのならば、普段通りに後をつけて監視するだけで特別な事は必要無い。赤子の手を捻るくらいに簡単な事である。


「はい。ですがストーキングも接触も、光斗さんメインでやって貰う事になります。同じ学校で同じ学年である事を差し引いても、高速移動に対応できるのは高速移動だけですからね。つまり一番危険なのは光斗さんですが……それでも、やりますか?」

「当たり前だ。もしも久遠がグリーフだっていうなら、悪の道に走らせたのは俺だ。どんな危険があろうと、真っ当な道に引き戻すのは俺の役目だ」

「分かりました。平日は難しいでしょうが、休日は僕らもバックアップします。予想が外れている事を確かめるために、頑張りましょう」

「ああ。頼りにしてるぞ、宗二」


 お互いに最悪の予想が的中しない事を祈りながら頷き合う。

 状況証拠は久遠がグリーフである可能性を裏付けているが、光斗としてはどうにも信じる事が出来ないのだ。あの心優しく引っ込み思案だった少女が、大勢の人々を巻き込んでまで光斗を殺したいと願う狂人に成り下がってしまったなど。

 尤も年月は人を変えるものであり、時の流れとは残酷なものだ。光斗の久遠に対する印象は五年前のものなので、十分あり得る変化かもしれない。


「よーし、それじゃあこれからの活動に備えていっぱい食べて栄養付けないとね! 光斗光斗、あたしこれも食べてみたい!」

「お前さっきから食ってばっかりだな!? もうちょっと遠慮してくれると嬉しいんだが!? ていうかハラミどこいったよ!?」

「半分以上翠さんが食べていましたよ。光斗さんの分の白米と一緒に」


 僅かに感傷に浸っていた光斗だったが、翠がメニュー表のお高い肉を指差しながら期待に瞳を輝かせているので、そんな気持ちは吹っ飛んでしまった。

 もしかすると重い空気を吹き飛ばすためにあえて明るく振舞っている可能性もゼロでは無いが、それにしては指差したお肉の値段にゼロが多いのであった。





 焼肉屋で散財させられた四日後、連休明けの月曜日。光斗のストーカー行為は幕を開けた。日にちが空いたのは諸々の準備を行う必要があったからだ。万一戦闘になった場合に備え、作戦会議や連携の特訓を重ねていたのである。

 準備万端で臨んだは良いものの、やる事は極めて単純。久遠の後を隠れて追いかけ、ひたすらに遠くから眺めるだけだ。幾ら校内であろうと怪しさ抜群であり、咎められて然るべき行為である。

 しかし光斗が久遠のストーカーをしているのは学校では半ば周知の事実であり、最早誰も気に留めない。実際同級生たちはまたやっていると言わんばかりの呆れを示すだけであり、何度も注意してきた教師でさえ哀れみの眼差しを向けて来るのみとなっている。

 なので心置きなく久遠の動向を監視する事が出来たものの、平日五日間を通したストーキングの結果は芳しくなかった。怪しい行動は一切無く、変化といえば図書室に入り浸る時間と回数が増えた程度。元々頻繁に図書室を利用する読書家なのでほぼ誤差の範囲である。放課後も後をつけてみたり、家の前で張り込みをしたりと犯罪紛いの事もしたが、やはり怪しい行動は確認できなかった。

 ただ休日は朝から公立図書館に向かうという、今までにない行動を見せた。毎日図書室に通っているにも拘わらず図書館に、しかも土日連続で。結構な距離にあるためわざわざ電車を利用し、数駅先まで足繁く通っているのだ。

 黒と断定できる行動ではなく、また白とも言い難い怪しさ。なので疑いが完全に晴れる事は無く、ストーキングの日々は更に翌週の土曜日、五月二十日にまで及び、今日遂に次の段階へ進む事となった。


『――テスト、テスト。光斗さん、聞こえますか?』

「ああ、バッチリだ」


 携帯から聞こえてくる宗二の声に頷きを返し、光斗は目の前の建物を見上げる。

 威風堂々とそびえ立つのは、二階建ての大きな建物。若干古めかしいその建造物は、昨今は利用者が少ない公立図書館。今日も今日とて久遠が利用している公共施設だ。

 十日以上にも渡るストーキングの結果、光斗たちの間では久遠は決してボロを出さないという認識で一致していた。ただしストーキングに気付いているが故の意図的なものか、無実だからこその白さなのかは定かではない。なのでこれから図書館に踏み入り、危険を冒して接触するという大胆な行動に移ろうとしているのだ。<変彩光>を持つ者しか知らぬ事を喋らせるために。


『では今回、直接接触して情報収集を行います。かなり危険が伴いますが、覚悟は出来ていますか?』

「今更だろ。それにここ十二日間、ストーキングしても何の成果も無かったしな。多少危険でもやるしかない」

『確かに。では僕たちは少々離れた所で待機しています。荒事になった場合、いつでも対応できるように。どうか頑張ってください、光斗さん』

『気を付けてね、光斗!』

「ああ。頼んだ、二人共。それじゃあ行ってくる」


 宗二と翠の声援を携帯越しに受け、通話状態のまま携帯を胸ポケットに忍ばせる。光斗が久遠に話しかけた時、宗二たちも会話を聞けるようにするために。

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