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光速超越せし救世主~サオシュヤント・ルチルクォーツ~  作者: ストラテジスト
第3章

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疑念

「――改めまして、自己紹介を。僕は真琴宗二。天竺(てんじく)中学校の三年生です。ヒーロー活動になど興味はありませんでしたが、あなたたちのおかげで僕と家族は救われました。恩を返すため、そして僕もその高潔な行いの一助になれるよう、あなたたちに協力しようと思います。どうかよろしくお願いします」


 食欲を刺激する焼肉の香りが漂う中、宗二はぺこりと頭を下げて実に礼儀正しい挨拶を口にする。

 飲食店が賑わう真昼時、光斗は翠と宗二を連れて市内でも有数の焼肉店を訪れていた。壁や扉で区切られた完全な個室を選び、利用時間も最大の二時間コースという大盤振る舞いで。

 高校生一人と中学生二人にしてはかなりの贅沢だが、これは仲間に加わってくれた宗二の歓迎会でもあり、大事故を死傷者ゼロで乗り越えたお祝いでもあり、同時に諸々の話をする場でもある。だからこそ個室の長時間コースを予約したのだ。無論財布に大打撃を受けたものの、中学生二人に金を出せと言えるわけもなかった。


「あたしは風花翠! 浜梨中学校の二年生だよ! よろしくねっ!」

「はい、よろしくお願いします」


 とりあえず一番の年長者として率先して肉を焼きつつ、翠と宗二が自己紹介を交わすのを見守る。星宮タワーの事件が終わった直後に軽い自己紹介を行ったものの、翠は気絶していたために二人は互いに又聞きしかしていなかったのだ。


「ねえねえ、やっぱり宗二もあの流れ星から能力を手に入れたの?」

「ええ。まあ手に入れたというより、向こうから突撃してきた感じですが。眩しさに空を見上げたら水色の光が迫って来ていて心底焦りましたよ」

「そこも俺達と同じか。てことは<変彩光(シャトヤンシー)>は流れ星が原因って事で確定みたいだな」

「<変彩光>……? 何ですか、それは?」

「あたしたちの能力の事だよ。グリーフっていうヴィランが言ってたの」

「ヴィラン――悪人、という意味ですね。光斗さんが言っていた人物の事ですか……」


 神妙な表情で頷きつつ、ジンジャーエールをストローで一飲みする宗二。どこか大人びていて凛々しいが、小柄なせいもあり少々可愛らしい。

 とはいえ男が可愛いと言われても嬉しいわけがないので、あえて光斗は黙っておいた。


「奴は本当に強い。全身に紅い宝石の鎧を纏っていて、ダンプカーの衝突すら全く効かないほどの防御を誇ってる。挙句鉄の塊を引き裂くほどの膂力もあるし、俺以上の高速移動能力も持ってる。しかもそれを応用して腕を高速振動させて、大気との摩擦で発生した電気を稲妻として放ってくるんだ。率直に言って化物だよ」

「……あなたたちは、そんな化物とも戦っていたのですか?」


 盛り過ぎとしか思えない能力の数々に、さしもの宗二も頬を引きつらせる。帰りますと言われても困るので、焼けた牛タンを数枚皿に乗せ賄賂気味に手渡した。


「ああ、そうだ――って言えれば、カッコ良かったんだけどな……」

「実は最初に遭遇して以来、一度も現れてないの。今どこで何やってるんだろうね?」


 自嘲気味に毒づきながら、涎を零し言外に求める翠にも牛タンの皿を手渡す。

 彼女が口にした通り、グリーフは最初に遭遇して以降一度も現れていない。SNSやネットを調べても、出てくるのはライトニングとマグネーターの事ばかり。あれほど派手な外見と強大な<変彩光>を持っているにも拘わらず、不自然なまでに目撃情報が無いのだ。


「現れていない、ですか。すみません、他にも色々と教えて頂けませんか? 特にグリーフについては、何を喋っていたかなども詳細に」

「分かった。じゃあまずは流れ星についてだな。俺にぶつかってきたのは金色で――」


 情報を整理するためにも、光斗は翠と共に覚えている限りの事を話した。流れ星の色や数から始まり、自分たちの<変彩光>の詳細。グリーフの情報まで事細かに。

 意外な事に、宗二が特に興味を示したのは星宮タワー関連の情報であった。なので久遠との約束についても言及し語ったものの、基本的には分かっていない事の方が多いため説明自体はすぐに終わった。精々牛タンを全て焼き終え、次に注文したカルビが届けられる頃には話し終えたくらいである。


「――って、とこだな。あれだけヒーローに対する憎しみにも似た執着を見せてた癖に、全く音沙汰が無いんだ」

「本当に不気味だよね。何か心境の変化でもあったのか?」

「なるほど……」


 カルビが焼けるのを待ちながら、グリーフの説明で話を締める。

 早晩仕掛けてくるだろうと警戒はしていたが、蓋を開けてみれば存在の影すら確認できない。酷く不気味であり、むしろ光斗たちの不安を煽るのが作戦なのではと勘繰ってしまうほどであった。

 しかし宗二は何か思いつく事があったのだろう。切れ長の青い瞳を一層鋭くしていた。


「話を聞くに、グリーフはヒーローに対する強い憎しみを抱いています。ならばライトニングやマグネーターを襲撃するのが当然です。それが無いという事は、何らかの理由で都合が悪い状態に陥っているのではないでしょうか」

「都合が悪い?」

「はい。重い病気を患った、予想外にダンプカーの衝突が効き深手を負った、強力にすぎる<変彩光>故に何らかの重い代償がありそれに苦しんでいる……ざっと浮かぶのはこれくらいでしょうか」

「なるほどぉ。特に最後のは説得力があるね。一人だけあんなにチートな<変彩光>なのはおかしいし」


 待ちきれずに何度もカルビをひっくり返す翠の言葉に、光斗も納得せざるを得ない。今までは光斗と翠の<変彩光>が外れの部類なのかと考えていたが、宗二の<変彩光>も突出して優れているわけではないと判明した。グリーフだけが異常なのだ。

 普通では無いのなら、何かしらの異常があってもおかしくない。強大に過ぎる力が己の身を蝕んでいるのか、あるいは代償を前提とした一時の強大な能力なのかは不明だが、グリーフの状態が芳しくないという宗二の説には説得力があった。


「……だとすると、グリーフを倒すなら今がチャンスって事か?」

「恐らくは。すでにこちらには<変彩光>の持ち主が三人いますし、グリーフが一人で複数の<変彩光>を操る超人であっても、打倒する事は可能かと」

「良いね! よし、それじゃあご飯食べ終わったら早速凶悪ヴィラン退治に行こうっ!」

「落ち着けよ、翠。グリーフの正体も居場所も分からないのに、一体どこに行くつもりなんだ。あとまだ焼けてないから食うな」

「あ、そっか。うっかりしてたよ、てへへ」


 片面が生焼けのカルビを翠から取り上げ、再び焼き網に乗せる。

 グリーフにこちらから奇襲を仕掛け打倒するというのは良い作戦だ。しかし相手の居場所も正体も分からないのだから、まずはそこを突き止めなければ話にならない。にも拘らず討伐に向かう気概を見せる翠のアホの子ぶりは絶好調であり、食欲が更に思考能力を圧迫しているまであった。頬を焼き肉のタレで汚している事もあり殊更に

 宗二も翠の性格を察したのか、どこかおかしそうに唇を歪めニヒルに笑っていた。


「ふふっ。どうやら翠さんは少々抜けている所がありそうですね?」

「な、何をぉっ!? 先輩ヒーローに失礼な! じゃあそういう宗二はグリーフの正体とか知ってるの!?」

「もちろん知りません――が、可能性の高い人物なら一人挙げられるかもしれません」

「何っ!? 本当か、宗二!? 一体誰だ!?」


 唐突な吉報に思わず席を立ち、身を乗り出して問う。

 しかし宗二は苦渋の滲む表情で瞳を伏せ、やがて意を決したように顔を上げた。


「あなたも本当は分かっているんでしょう、光斗さん? あなたの幼馴染――久遠さんが怪しい人物であるという事に」

「っ……!」


 紡がれた言葉は、光斗の心を抉る残酷な指摘であった。

 幼馴染を凶悪な化物と疑われたのだから、怒りを覚えて然るべき場面。逆上して宗二の胸倉を掴み上げるくらいの暴行を働いても当然の事。だからこそ彼は直前に躊躇いつつも言葉を口にしたのだろう。

 だが悲しい事に、怒りは微塵も湧いてこなかった。むしろ腑に落ちてしまったのだ。光斗自身、久遠を疑っていたから。


「えっ、嘘!? 何で!? どういう事!?」


 唯一現状を把握できていない翠が取り乱し、メロンソーダのコップを零しかけて更に慌てふためく。最早この場では彼女の存在がある種の清涼剤だった。


「不思議に思いませんでしたか、翠さん。幼馴染と会う約束をしたあの日あの場所で、飛行機が墜落してしまう事故が起こった。しかもそこには僕と光斗さん、そして翠さんという能力者が勢揃いしていました。挙句の果てに、約束をした当人は都合良くその場に現れなかった。さすがに偶然が重なり過ぎだと思いませんか?」


 名探偵の如く情報を突き付けてくる宗二に、翠は完全に絶句していた。

 そう、あまりにも偶然が重なり過ぎているのだ。偶然が一つなら気にも留めなかっただろう。二つなら凄い偶然だと片付ける事が出来ただろう。しかし三つも重なれば、偶然ではなく必然と疑う余地が十分にある。その場合、仕組んだ者が誰かと言えば――


「じゃ、じゃあ何!? 実は光斗の幼馴染の正体がグリーフで、昨日の事故はあたしたちを纏めて殺すためのものだったって事!?」

「はい、その可能性が高いと思います。約束の時間が奇妙だった事を考えるに、恐らく未来予知の類の能力で事故を予見し利用したのでしょう。確認できるだけでも二つ、あるいは三つの<変彩光>を持っているんです。他にも幾つかあろうと不思議ではありません」


 約束を取り付け、星宮タワーに光斗を誘導した久遠以外には存在しない。結論に辿り着き目を丸くした翠に対し、光斗も静かに頷いた。

 大型旅客機の乗客乗員を救助している時、不意に脳裏によぎった恐るべき可能性。それこそがグリーフの正体は久遠かもしれないという仮説だ。可能性に思い至った時点では悪い冗談だと笑い飛ばせたものの、事故の後に久遠の安否を確認に向かい目の当たりにしてしまったのだ。別段怪我や体調を崩した様子もなく、自宅の居間でテレビを見ていた彼女の姿を。

 旅客機の事故を引き起こしたか、事故が起きるのを知っていたか。いずれにせよ久遠の正体が埒外の<変彩光>を持つグリーフであるなら説明がつく。あの場に現れなかったのは自分が事故に巻き込まれないためと考えれば、全ての辻褄があってしまうのだ。

 翠の頑張りが無ければ、恐らく一時半には展望台に旅客機が衝突していた。一時十五分という約束の時間はギリギリまで事故の時間に近く、なおかつ自分が現れずとも光斗が諦めて帰らない絶妙なラインと言えるだろう。殺意の高さがうかがえる時間設定である。


「ありえないよ、そんなの! だって光斗は恨まれる事なんてして――あっ」


 翠は必死に否定してくれたものの、不意にはっとした様子で黙り込み顔面蒼白になってしまう。彼女も思い出したのだろう。光斗には恨まれる理由がある事を。


「どうやら何か心当たりがありそうですね。何をしたんですか、光斗さん?」

「ああ……実は、俺――」


 やむなく、光斗は全てを語った。個人的な事なので先ほどは話さなかった事を包み隠さず。父の死の原因から始まり、幼馴染への仕打ちを交え、謝罪も無しに今に至るという実に情けない状況を。


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