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せーめーさん、大学へ行く 〜神界から派遣されたら、大学が“現代陰陽寮”すぎました〜  作者: 水無月あすか
第二章 準備には時間がかかります

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Ep.36 せーめーさん、癒される

回復行事、役割分担


晴明はノートパソコンをパタンと閉じ、後ろにいた湊に話しかける。

時計は午後4時を回っていた。

「…少々疲れました」

「そりゃそうでしょ!

まさか学長が出てくるなんて思ってないですし、

そもそもせーめーさん、こういうデジタルデバイスに対して衝撃が強かったと思うんで、

思わないところで絶対疲れてますって」

そう言いながら湊は自分の荷物を持つ。

「せーめーさん、色々やらないといけないことが出てきましたが、

適度な休憩は絶対にとってくださいよ?

パソコンとずーっと睨めっこしていたから、目とか肩とかにダメージあると思うんで。

俺はそろそろ帰るんで、もしなんか気になることあったら連絡くださいね!

そしたらまた!」

そう言って湊は晴明の部屋から出て行った。


晴明の部屋には晴明のほかに太陰たいおんと白虎がいるが、

ふたりもそこそこ疲れているみたいで、うとうととうたた寝をしている。

「確かに、私も疲れました。こういう時は、メリハリ、というのをつけるといいんですよね。

緩急をつけることだと思いますので…そうだ。

回復するのにあのお方のところに行きましょう。」

そう言って、晴明は太陰たいおんと白虎を先に召喚解除をして神界に送り返し、自身も神界に向かった。


神界に向かった晴明。

清らかな小川のせせらぎが聞こえる森林の中にポツンと一軒古民家がある。

引き戸をカラカラと開け、中にいる神に晴明は話しかける。

天后てんこう様、疲れましたのでここで休ませてください」


天の羽衣をまとった美しい女神・天后てんこうは、

十二天将の中でも治癒を司る式神である。

晴明を見つけると、天后てんこうは心配そうに駆け寄る。

「あらあら〜、大変!ま〜た現世で無理をしちゃったのでしょ〜?

ダメですよ〜??」

頬を膨らませながら晴明を椅子に座らせる。

天后てんこうはちょこまかと動きながら晴明の様子をくまなく観察する。

そして、十分観察ができたあと、スゥッと一呼吸置くと、カッと目を見開く。

それまで柔らかい雰囲気であったが、治癒を司る神としての表情になる。

ピシッと人差し指を立てて晴明に提案する。

「極度の緊張状態が続いたことによる疲労と判断。

ひとつめ、温泉に入って体の緊張をとる。

ふたつめ、体に優しい食事をとる。

みっつめ、ここ最近とれていない睡眠を心ゆくまでとる。

この流れで治癒を行います。異論は認めません。」

「…あの、あまり休みすぎると」

晴明が反論しようとするが、天后てんこうは晴明の口元に自身の人差し指を当て、黙らせる。

「そんな疲れた状態だと、いいことに絶対なりません。

休むもひとつの修行と思い、癒すのです。これは厳命です。」

にこやかに笑う天后てんこうに、逆らえるものはいない。


天后てんこうに促され、

天后てんこうの許可がおりないと入れない温泉に通される。

相当疲労が蓄積されているのだろう、と晴明は改めて感じる。

大きな露天風呂である。

湯に浸かろうとすると、湯煙から見慣れた虎がヌッと現れた。

「白虎様、あなたもこちらにいらっしゃったのですね」

「…おう」

白虎にいつもの勇ましさはなく、ただぼーっと湯に浸かっている。

晴明も白虎の隣で湯に浸かる。

熱すぎず、ぬるすぎず、ちょうどいい湯加減である。

温泉の湧き出る音のみが響き、それが心地いい。

温かな湯が肩を包み込むたび、張り詰めていた力が少しずつ抜けていく。

筋肉の緊張がほぐれていくのを感じながらゆっくりと浸かった。


晴明は温泉を出るが、白虎はまだ温泉に浸かるという。

「あのねーちゃん、俺がここに入るの嫌がるんだが、今回はすんなり入れてくれたんだ。

だから、もう少し堪能するさ」

そう言いながら、白虎は湯煙に消えた。

バシャバシャと泳いでいるような音が聞こえる。

『それが原因なのでは?』

晴明はそう思ったが、言わずに静かに次の目的地である食事処に向かった。


食事処は天后てんこうがいた古民家とは別の建物で、

見た目は和風な料亭といった雰囲気の一軒家である。

小さな名もなき神に案内された部屋には、

すでに太陰たいおんが座敷に座っていた。

いつものミニサイズオババではなく、

140センチくらいの小柄な中学生くらいの少女姿である。

太陰たいおん様、今日は珍しいお姿ですね」

「おや、坊。そうなのじゃ。

これからのことを考えておると、

やはりオババよりも若い姿に慣れておいた方がいいと思っての」

「そうなのですか?ただ、ちょっと若すぎるような気が…」

「そうかの?…なかなか調整が難しいの」

太陰たいおん様は大学で勉強する気が大いにおありですね』

晴明は心の中でふふっと笑った。


運ばれてきた料理は滋養にいいものばかりである。

ひとくち、またひとくちと食べるごとに体の中に染み込んでいくのが感じ取れる。

晴明の前に並べられた料理と、太陰たいいんの料理の内容が異なる。

晴明は和食がメイン、太陰たいいんは洋風がメインである。

おそらく、天后がそれぞれに必要なものを考え、そのように指示をしたのだろう。

味を噛み締めながら、晴明と太陰たいおんは無我夢中で食事に没頭した。


食事が終わった後、太陰たいおんが口を開く。

「坊や、わしはいろんなことを知っておると思っておった。

しかし、違った。

インターネットを覗いておるだけでは、

全部知り尽くすことなどできん。

それくらい、この世の中は情報に溢れておる。」

晴明は静かに頷き、太陰たいおんは苦笑いを浮かべながら続ける。

「神であるわしでも疲れてしまったのじゃ、坊も絶対に疲れると思う。

だから、この休養は大事じゃな。

天后にも言われてしもうた。

『晴明様に自分のをあげようとしないでください!あなた自身が壊れてしまったら誰が晴明様を見るんですか?』ってのう。」

「…私、まだ見られる側ですか?」

晴明が少し怪訝そうに言うと、太陰たいおんはカラカラと笑う。

「何を言うておる?わしにとって坊はずっと坊じゃよ?」

太陰はおどけたように言うと、

一瞬間があった後、堰を切ったように晴明と二人で笑い合った。


食後に太陰たいおんとたわいない話をし、

それぞれ天后てんこうに指示された場所に向かう。

「ではな、坊や。わしはこれから温泉に入ってくるぞ」

「ゆっくりしてきてくださいね」

そう言いながら、晴明は宿坊に向かった。


宿坊に着くと、黒猫が出迎える。

翡翠色の目で晴明を見ると、ふいっと踵を返して建物の中を進む。

「案内してくださる、ということですね」

そう思って晴明は素直に黒猫についていった。


通されたのはこぢんまりとした部屋である。

晴明はフカフカの布団に寝っ転がる。

枕元には晴明を案内した黒猫がちょこんと座っている。

じーっと晴明を見ているので、晴明も見ていると、黒猫がふぅ、とため息をついた。

「…晴明様、寝てください」

晴明は聞き覚えのある声に驚いたものの、体はもう眠る準備ができていた。

「貴人?どうして猫に?」

「いけませんか?」

「いや、そうではありませんが」

「あなたがあまりにも無茶をしているから、

好きな猫の姿でいたら寝ると思っていたのですが…」

普段晴明をからかうことに命をかけているレベルでふざける貴人の発言に、

思わぬ衝撃を受けた晴明は目をパチクリする。


猫姿の貴人は前足を晴明のおでこにペシっと乗せる。

ひんやりとした肉球が心地よい。

「…全く、いつも通りふざけることができないじゃないですか、そんな様子だと。

…疲れを溜め込まないでください。」

「…しかしながらね」

「気になって眠れないんでしょ?あなたは真面目だから。

でも大丈夫。私がちゃんと起こしてあげます」

「…その状態のあなたは信頼できる」

そのままストンと晴明は眠りについた。


翌朝、スッキリした晴明を見て天后てんこうは両手で大きな丸を作る。

「頑張ることはいいことですよ〜。

でも、いいパフォーマンスをするには適宜休むことも必須ですよ〜」

「はい、肝に銘じます」

「もう、真面目なんだから!…それでは、いってらっしゃい!」

「いってまいります」

神々に癒やされた心と体を携え、晴明は再び現世へ戻っていく。

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