Ep.20 大学生陰陽師、安倍晴明
正体不明、不撓不屈
具体的にどうするかは、さやが作成した3つの案をまずは吉田が読み、
後々打ち合わせをしてから決めることにした一行は、クラブセンターを出た。
「では、俺は二人を送っていくから」
そう言って、桐生はいおりと吉田と共に駅の方角に歩いていった。
それを見送り、晴明とさやも帰路につく。
「…さやさんのご自宅もこちらにあるのですか?」
「はい、そうなんです。あと、多分、せーめーさん、びっくりすると思う」
そう言いながらとあるお家の前でさやが立ち止まる。
「…せーめーさんのこれからの下宿って、賄いつきのここの下宿ですよね?」
「はい、そうですが…
私、さやさんに話しましたか?」
驚きを隠せない晴明に共感するような様子でさやが話す。
「先ほど、今年入った下宿生がせーめーさんだって祖父母から連絡があって」
「そうだったのですか」
さやはこくりと頷く。
「祖父母はせーめーさんを『安倍清明』と認識していたので、
祖父母もせーめーさんの正体は知らないです。
あ、ちなみに、私のお家は祖父母の家の隣です。
なんか困ったことがあったら言ってくださいね。」
そう言いながらさやは手を振り、自宅の玄関の門を開け、
お家の中に消えていった。
『こんな偶然があるのですね』
晴明はしみじみと思った。
その日の深夜、家の人は全員寝静まったのを確認し、晴明は身支度を整える。
『この世の中では、兼業をしてもよいと聞きました』
『となると、私も本業を続けながら、大学生をしてもよいということです』
晴明は自室で目を閉じ、自分の中にいる、本業の自分を呼び起こす。
一瞬青白い光に包まれ、陰陽師スタイルになった晴明は、
右手の人差し指と中指を立て、術を唱えると、京都の上空に瞬間移動した。
千年前とは比べ物にならないくらい煌々と輝く京都の街を見ながら、はぁ、とため息をつく。
『こういう時は、あの方のお力を借りるのが最適なのですが、未だに慣れないのですよね…』
しかし、苦手意識とやらねばならないことを天秤にかけると、
やはり自分の苦手意識を優先させるわけにはいかないので、晴明はその式神を召喚する。
すると、晴明に向かって強い風が吹き、耳元で呼びかけられる。
「そろそろだと思っていたよ、せーめーくん?」
「……もう、あれほど私の姿でお越しになるのはおやめください、
とお願いしておりますのに。貴人様」
貴人様、と晴明に言われた式神はくすくす笑いながら晴明の正面に立つ。
晴明は平安装束を身に纏っているのに対し、
貴人は絶妙にダサいジャージを着た晴明の姿である。
「まぁまぁ、私はさ、実態がないから何にでもなれるわけよ。
だから、私が面白いと思う対象の真似をしたくなるの。」
「…さて、本題です」
貴人が「も〜」と少し拗ねている様子を見ながら、晴明は話を続ける。
「貴人様、京に張っている結界は千年前と変わりありませんか?」
貴人はおふざけモードから一転、真面目な顔つきになる。
「千年前の結界と変化はないよ。
青龍、白虎、朱雀、玄武、そして勾陳の5柱によって、しっかりね。
…でもさ、晴明。君も薄々わかっているんだろう?」
貴人がククッと笑いながら晴明の顔を覗き込む。
「…この結界だけでは守れないものが存在していることを」
貴人の言葉に晴明は沈黙の肯定で答える。
二人はしばらくの間、京都の街を見つめていた。
そこには、街灯の光とは異なる、
結界をすり抜ける正体不明の無数の光線が出入りしている。
赤、青、黄、といった単色から、
赤だったものが途中でピンクになるような光線もあったり、
中には、ゆっくりと進行するドス黒い煙のようなものもある。
結界を透過するものの正体はなんなのか。
まずはその謎を解き明かすことから始めるべきだと、晴明は決意した。




