Ep.19 四人寄れば文殊の知恵
集思広益、同心協力
場所を移動し、クラブセンター内にある部室に移動した。
部屋には、今回の相談者である吉田の他に、桐生、いおり、さや、そして晴明がいる。
それ以外のメンバーは、
「人数が多すぎたらかえって吉田さんを緊張させる」
という桐生の配慮から、今回は帰宅した。
(話の内容は後日、共有はされる。そうでないと、いぶきあたりが文句を言う)
吉田がソファに座り、対面には桐生といおりが座る。
カラカラとキャスター付きの椅子をさやが持ってきて、晴明にそのうちの1つに座るよう促し、さや自身も別の椅子に座り、ノートパソコンを開いた。
「…さて」
桐生が話を切り出す。
「ゆっくりでいいので、何があったか教えてもらえますか?」
吉田は躊躇いながらも、自分のスマートフォンを取り出して操作した後、画面を桐生たちに見せる。
「…これ、私のSNSのアカウントです。私、かわいいものが好きです。
私がかわいいと思ったものを写真に撮ってSNSに投稿する、
ということをもう5年くらいしてて。
それに共感してくれた人もいて、SNS上で友達もできました。
有名になりたいとか、そういうのはなくて、ただ、楽しんだり、
共感してもらったりするだけでよかったんです」
四人は静かに吉田の話を聞いている。
「しかし」
吉田の表情が段々とこわばる。
「1週間ほど前に投稿した写真に対して否定的なコメントをする人がいたんです。
私も、最初は気にしないようにしていたのですが、
段々とその人からのコメントが辛辣になってきました。
こういうのは無視したらいいと思ったから、相手にしていなかったんです。
そしたら、その人だけでなく、複数の人から否定的なコメントがやってくるようになって、
今日投稿したものに対してのコメントなんて、この有様で…」
そう説明しながら吉田が見せたのは、最新の投稿に対するコメント欄だった。
そこには吉田の投稿した写真に対するコメントはほぼなく、
吉田に対しての誹謗中傷や、吉田に対して否定的な内容をコメントしたものに対して
「そんなことを言ってはいけないよ」と注意したコメント主に対する挑発的なコメント、
さらには喧嘩に発展しているコメントもある。
「そんなにフォロワー数が多いアカウントではありませんので、
コメント数も多くても数件だったんです。
だけど、最初の否定的なコメントがあった日からのコメント数が2倍に増え、
その内容がひどいものだったから、もう、耐えきれなくなっちゃって…」
吉田は鼻を啜る。目は真っ赤である。
しばらくの沈黙の後、桐生が話しかける。
「お話ししてくれてありがとうございます。
…その否定的なコメントをしている人は知り合いですか?
もしそうだったら交渉の余地があるんだが…」
桐生の質問に吉田は首を横に振る。
「わからないんです。おそらくこの人、捨てアカで投稿しているんで。
やめてほしい、とDMでお願いしたことがあるのですが、やめてくれません」
吉田はシュン、と項垂れる。
「ていうかさ」
いおりがちょっと興奮気味に口を開く。
「吉田さんが投稿している内容を見たけど、悪口を言われるようなこと、投稿してないよ?
あ、吉田さんの『好き』って、こんな感じなんだ、へ〜、っていう感じでさ。
むしろ、なんでこれで炎上するの?っていう感じなんよね」
「黒瀬さん、ありがとう」
吉田が自分のスマホを見ながら話す。
「炎上気味になってから、色々試したの。
SNSを見ないようにもしたんです。
でも、もう何年も続けていたことだから、急に断つことができなくて。
次に周りの友達に話したら、共感はしてくれるんだけど、
こうしたら炎上がなくなるという方法は出てこなくて。
AIにこのこと言ったら、DMで反論してはいけないとか、
最悪、アカウントを削除しないといけないとか出てきて。
私、DMで反論しちゃったから、どうしようってなってしまったんです…」
再び沈黙の間になりそうになったとき、スッと晴明が挙手する。
「気になったのでお聞きするのですが」
吉田をまっすぐにみた晴明は問う。
「…吉田殿は、どうされたいのでしょうか」
吉田は身をこわばらせる。
「えっと…」
「…あなたを決して責めているのではありません。ただ、気になったのです。
あなたの望みは何か、まだ仰っていないのです。」
晴明の指摘に他の四人はハッとする。晴明は話を続ける。
「炎上、とおっしゃっていますが、炎から身を守るには2通りあります。
水をかけて鎮火するか、燃え盛る炎から逃げるか。
おそらく、水をかけて鎮火するのが難しいので、逃げる方法がよろしいかと。
ただ、お話を聞く限り、完全に逃げるにしては、
そこに残っているものを捨てて逃げることができないから、
どうしたらいいかわからない、というふうに私には聞こえます。
したがって、何が心残りのものなのかが分かれば、
解決法が出てくるのかと考えますが、いかがでしょう?」
晴明の比喩的な考察を受けて、さやが挙手する。
「あの、せーめーさんの話で思ったんですが、
おそらく、吉田さんが気がかりなのは、そのアカウントで紡いできた思い出や、
SNSで繋がったお友達との縁を失ってしまうことではないでしょうか。
SNSのアカウントを削除することは正直簡単です。
でも、それができないとなると、そういう思い出とか、
フォロワーさんとの繋がりが関係するかなと。」
「…吉田さん」
さやの考察を聞いて、桐生が吉田に問いかける。
「一ノ瀬の内容を聞いて、あなたの中にある『こうしたい』という希望は見えてきましたか?」
「…そう言われると、そうです。なんか、言葉にしてもらったら、
私の中にあるモヤモヤとだいぶ無くなった気がします」
吉田の返答に、いおりの表情がぱあっと明るくなる。
「じゃあ、あとは、その目的に向けて考えていけば、またSNSで自分の『かわいい』が発信できる!」
「…でも目的が明確になったところで、どうしたらいいんか方法がわからないです」
再びシュンとうなだれる吉田に、大丈夫です、とさやが答える。
「…今の間に、具体案を3つほど作りました」
「仕事、早っ!」
いおりが思わず素っ頓狂な声を上げた。




