Ep.18 助けを求めるのって勇気がいるよね
暗雲低迷、星夜一縷
お腹いっぱいに食べた晴明たち一行はお店の外に出る。
晴明の肩に乗っていた太常がふわっと空中に舞う。
「皆々様、本日は美味しい料理をご馳走になり大変ありがとうございました。
そろそろお暇いたします」
「えーっ、もうお別れなの?」
いぶきが寂しそうなそぶりを見せると、太常は少し困ったような表情になる。
それを見て、晴明が太常の代わりに説明する。
「ずっと召喚しておくことは難しいのです。
ただ、また機会がありましたら会えますよ。」
「そうなの?じゃあ、今度は私のおすすめのところを連れて行ってあげる!」
いぶきが元気に太常に告げる。
それを見て太常は満足そうににっこり笑い、
「ありがとうございます」
そう言いながら光の粒になってふわっと消えた。
美味しいご飯を食べ、交流を深め、たわいない話をし、今日はお開きにしよう、
そんな空気になった、まさにその時。
「どうして?どうして?
なんで?え、意味がわからないっ!!!」
若い女性の悲痛な声が響き渡る。
晴明たちはその声のした方を見ると、
ガーリーな服を着た女性がスマートフォンを見ながらわなわなと震えている。
いおりが、あ、と声をあげる。
「吉田さんだ。どうしたんだろ?」
「知っているのか?」
桐生がいおりに確認すると、いおりはこくんと頷く。
「同じ学部の子で、授業が一緒なんです。
…でも、吉田さんがあんなに声を荒げているの、初めて見たかも」
いおりは数秒考えたあと、桐生に告げる。
「ちょっと心配なので、吉田さんのところに行きます。
そしたら、私はここでバイバイします。お疲れ様でした!」
深々と頭を下げると、いおりは小走りで吉田さんの元へ向かった。
後ろ姿を見ながら湊はポツリと言う。
「…ここで解散、と言うのもなんともなんですが、
かといって部外者がゾロゾロとそちらに向かうのもなんか違う、と言うのがあって…」
いぶきがうんうんと頷く。
「そうなのよ。逆に人が多すぎると訳わからなくなってしまうじゃん?」
「でも、心配だよな。どうしたらいいのだろう」
神谷がうーんと腕を組む。
すると、それまで口を閉ざしていた晴明が、では、と右手人差し指を立てる。
「…立て続けになりますが、式神召喚しましょう。
今回の事案は、この方のお力を借りましょう。
情報の収集と整理を得意とするお方です。
このような事案なら、これ以上の適任はおりません。」
そういうと、パアッと銀色の光が差したかと思えば、
晴明の右手人差し指の上に、10センチほどの大きさの老婆がいた。
「太陰様、お休みのところ申し訳ありません。
お力をお借りしたいのです。」
晴明が恭しくお願いをすると、老婆は静かに頷く。
「……お主を通じて見ておった。
要件は、あの取り乱した娘がなぜああなったかという原因を探ることが最低限で、
できれば、あの者を落ち着かせ、其方たちが加わっても場が乱れぬようにする、かのう?」
「…さすが、太陰様でございます。」
晴明が肯定すると、フン、と太陰は鼻を鳴らす。
「…久しぶりに下界に来たかと思えば、厄介なことが起こっているものよ。
…まあ、可愛い坊のため、一肌脱ごうじゃないか」
そう言うや否や、太陰の身体が銀色の光に包まれ、ふわりと宙を舞う。
次の瞬間、そこにいたのは今時の女子大学生だった。
「では、坊の望みを叶えてくるとしよう。
思念で呼ぶから、それまでゆるりと待っておれ」
太陰は若々しい声でそう告げると、いおりの元へ向かった。
太陰がいおりの元へと駆けつけると、
いおりが懸命に吉田に話しかけているが吉田がそれを聞き入れられない状況だった。
「吉田さん!何があったの?」
「黒瀬さん、あなたには関係ない!
…どうして、こんなことになってしまっているの。
どうしたらいいのかわからない!」
太陰は一呼吸置いて話しかける。
「関係あるわよ!」
凛とした声にいおりと吉田は振り向く。
「「………だれ??」」
「そこの大学に通っている学生よ!
一人はずっとワーワー大声で叫んでて、
もう一人はそばであわあわとして挙動不審なのよ!
周りから見たら、そりゃ心配にもなるわよ!
いい?「大丈夫かな?」と思わせたら、もうその人は関係者なの!
だから、関係ない、じゃないのよ!関係大アリなの!
わかる?」
太陰はビシッと吉田に指をさす。
「さあ、立ち上がりなさい!
仲間と共に、あなたの問題をあなたで解決するのよ!
わかった?」
「え、でも…
私なんかのことで迷惑かけたくないし…」
「吉田さん!」
太陰の進言に乗り気じゃない吉田の発言を遮るようにいおりが呼びかける。
「…吉田さん、この人の言うとおりだよ。
ひとりで悩んでいないで、一緒に解決しよ?
…私だけだと不安かもだから、私が所属しているサークルのみんなにも手伝ってもらってさ。
うちのサークル、結構有能な人、いるからさ」
グッと握り締められていた吉田の手を、いおりは優しく包み込む。
「大丈夫だよ。ね?」
いおりが優しく微笑むと、吉田の顔が急にくしゃくしゃになり、大粒の涙が頬を伝う。
「…うぅ、ごめんね、ごめん。
私の問題なのに、巻き込んでしまって…
どうしたらいいか分からないから、た、助けてほしい!」
いおりは、大丈夫だよ、と言わんばかりに、ゆっくりと吉田の背中をさする。
その様子を見た太陰は晴明に思念を飛ばした。
『坊、わしじゃ。聞こえるか』
『はい、聞こえております』
『坊、わしを通じて一部始終見ておったじゃろ?他の、その、なんじゃ、
坊の先輩?たちには内容は教えておるよの?』
『はい、私が一人三役で皆様に情報共有しておりました』
『…一人三役の意味がわからんが、とりあえず伝わっておるようじゃの。
では、坊からの依頼は完了、ということで、わしは戻るぞ。
あとは抜かりなくやるんじゃぞ、坊』
『太陰様、誠にありがとうございました。』
太陰は晴明とやり取りを終えると、
いおりと吉田に気づかれないようにスッと闇夜に消えた。
晴明は太陰からの連絡を受け、
晴明を含めたメンバーはいおりと吉田の元へ合流した。
晴明たちの存在に気づいたいおりがハッとする。
「…帰ってよかったのに」
「いおり先輩、そんなこと言わないでください!
心配したんですよ!?」
いぶきがプクーッと頬を膨らませる。
桐生がスッと吉田の前へ出る。
「吉田さん、ですかね?
先ほどあなたとお話しされた女性から概要を聞きました。
お困りごとがあるとのことなので、事情をお聞きしたいのです。
今日お急ぎでなければ、これからうちのサークルの控え室に来られませんか?
鉄は熱いうちに打て、という言葉もありますし」
吉田はオドオドした様子で不安げにいおりを見る。
「…大丈夫。桐生先輩、将来は法曹関係のお仕事に就けるようにとても勉強している人だから。
こう見えて、頭いいんだよ?」
「こら、黒瀬。一言多い」
いおりと桐生のやりとりをみて安心したのか、あの、と吉田が切り出す。
「…色々とすみません。でも、何をしたらいいのかわからなくなっちゃったから、相談したいです。よろしく、お願いします」
吉田はぺこりと頭を下げた。




